第33話 ライリアという少女➁
「そろそろ、わたくしめは退散させていただきます。岸川閣下、またお会いいたしましょう」
「ええ。アンベールさん、今日は本当に有難うございます。貴方の『誠意』よーく分かりました」
「それは良かった。では、お元気で」
「アンベールさんこそ、お気をつけて」
会話が終わり、アンベールは書斎を退出する。恐らく、使用人に案内されて彼はこの屋敷を出て帰っていくのだろう。
今書斎に居るのは、岸川とライリアの二人だけ。
「ライリア・セールフアラさん。ライリアと呼びすてにしても宜しいですか?」
「………お好きにどうぞ、岸川閣下」
「ふむ………ライリア、貴方という人物について私は良く知りません。良ければ、詳しい自己紹介でもしてもらえませんか?」
言葉だけ見れば、コミュニケーションを取ろうとしているように感じるが、それを言う岸川の顔がにやけているせいで台無しである。
「分かりました。先ほど話しました通り、私の名前はライリア・セールフアラと言います。出身はリマ国のガーベロ地方で、現在は十七歳です。………使える魔法は通信魔法だけです」
「ふむ、通信魔法とはどういったものなんですか?魔法通信機のようなものですかね?」
ライリアの口から出た聞きなれない魔法に、岸川はクラートなどが使っている魔法通信機を思い出しつつそう質問する。
「いえ、通信魔法の場合は、それほど便利なものではありません。魔法通信機とは違い、希少なので使える人間は限られますし、自分より魔力が非常に少ない相手には使えないという欠点があるのです………」
「ふーむ。魔力やら魔法やらは私は良く分かりませんが、相当に不便なのですね。でも、逆に通信魔法だからこその利点があったりはしないんですか?」
「一応、ありはしますね。通信魔法の場合は、使用者側の魔力に応じて通信範囲が増大します。でも、魔力が多ければ多いほど、魔力が使用者より非常に低い人間が増えますからそこまでの利点にはなりえないかと………」
「ふ、ふーむ。まあ、でも珍しいのでしょう?使えるだけすごいじゃないですか。通信範囲も魔法通信機より広くなることだってあるでしょうし」
フォローのつもりで岸川がそう言うと、ライリアの表情が曇り出す。
(な、何か地雷を踏んでしまったか………)
「………私の場合は魔力が非常に多いため、通信魔法が使える相手なんて0に等しいです。通信範囲が広くても、使える相手なんて居ないでしょうね。居たとしてもそれは人ではないでしょう………」
「………」
暑い季節だというのに、涼しさを感じる岸川であった。
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