【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん+

第1話:転生とか何とか


 いや、うっかりしてたとは思ったよ。最近近隣で変質者がうろついてるとかちょっと噂になってたし。

でも、何となく「私には関係ないわー、何なら返り討ちにしてやるわっ」なんて簡単に思ってた。


この日も「気を付けるのよ」って声を掛けてくれた母親に「はいはい」なんて軽く流しつつ家を出た。

地元の秋祭りだったから久しぶりに高校時代の友達と会う約束をしてて。今や滅多にお目にかかることのない電話ボックスの前で待ち合わせて、友達の姿が見えた瞬間に嬉しくて遠くから名前を呼んだ。

すぐに気がついた友達が笑顔で手を振ってくれたから駆け足でそちらに向かう。

でも ――

笑顔だった友達の表情がなぜか驚きに変わり、次いではあちこちから悲鳴が上がった。


(………え?)


突如襲ってきた焼けつくような痛みの中で、


私がこの世界で最後に見たものは、


手のひらを染めた赤色だった。


*****


早川梅乃、享年25才。

死因は腹部を深く刺されたことによる出血多量。



あれ?


なのに何で私はこんなところで寝ているのだろうか…?死後の世界ってこんなん?実は奇跡的に助かったのか?

見慣れない天井を眺めながら刺されたであろうお腹に手を当てる。でも痛みも何もない。


(ん…?何か体が変…)


自分はこんな凹凸のない体をしていただろうか。いや、スタイルがどうのこうのという話ではない。


これは、


「っ…!?」


がばっと起き上がる。


(何で、子供!?)


布団を捲った手も体も明らかに子供のものだ。しかも、なぜか着ているものがおかしい。こんなふりふりのネグリジェみたいなの子供の時着た記憶なんかない。


部屋を見回してみる。天蓋付きのベッドに高級そうな調度品…とんでもない場所にいるんじゃないかと恐怖心で体が震えてきた。


(あ…鏡…)


何とかベッドから下りて部屋にでかでかと鎮座している姿見の方に向かう。


歩きにくい。思ったよりもずっと幼い子供のようだ。ペタペタと部屋に足音だけが響く。

そして鏡の中の自分を見た瞬間 ――


「だ、誰じゃこれはーっ!?」


鏡に映るプラチナブロンドの髪の幼女を見た瞬間、私はぶっ倒れてしまったのだった。


**


「ティナ!ティナ!しっかりしてちょうだい!」

「……?」


泣き叫ぶような声が耳に届きふ、と意識が浮上した。目を開けると涙を流している麗人がいる。

この人は誰だろう?と考える前にその人にぎゅっと抱きしめられた。


「ああ、ティナ!良かった!」

「あ、あの…」

「…ごめんなさいね?また寝たきりになるかもと思ったら取り乱してしまって…」


そう言うと麗人は体を離してくれた。その人は泣きながらもホッとしたように微笑むとそっと手を握ってきた。


「あの…」


本当に何なのかさっぱりわからない。混乱した頭でどうしたら良いのか、何て言葉を発したら良いのか一生懸命考えるが答えが出て来ず口籠るとにっこりと微笑まれた。


「ええ、良いのよ。またお母様とゆっくり覚えていきましょうね」


(この人は、母親か……)


母親と思しい麗人はゆっくり言い聞かすように私のことを教えてくれた ――


三ヶ月前に階段から落ちて頭を打ち、それからひと月ほど目覚めなかったらしい。意識は戻ったものの記憶があやふや、そう、所謂記憶喪失なのだという。目覚めてからも教えては忘れてを繰り返していてまだ安定していないらしい。


また最初からね、と可愛く笑う母親に悲壮感は感じられない。だからどこか安心して耳を傾けることができた ―――



通り魔に刺されて死亡した私、早川梅乃(25)は現在、シルキア伯爵の一人娘クリスティナ・シルキア(5)。


―― なんと、生まれ変わったら私、伯爵令嬢でした!!


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