第29話  突撃インタビュー in 聖戦跡地

 サッカーの決勝戦が終わったグラウンドは、戦場跡地かのように凄まじい惨状だった。

 ゴールネットは千切れ、グラウンドは巨人の群れが踏み抜いたかのように穴ぼこだらけ。ここで起きた戦いがいかに壮絶なものだったかが分かる。


 そして、そんな戦いを記録しようとやって来た新聞部撮影担当の一年生、撮原とりはらは、魔法と人間が飛び交う宇宙戦争状態の試合をしっかりカメラに捉えていた。彼女は明日から戦場カメラマンと呼ばれる事だろう。


「今年のクラスマッチはヤバいと部長が言っていた時はさっぱりでしたが、これはもうヤバいとかいう日本語で表現していいレベルを超えてますよ……」


 自分はのちの神話に残る戦いを目撃してしまったのではないか、と疑う規模の試合だった。もしそうなら撮原たち新聞部のインタビュー記事が神話となって語り継がれてしまう事になる。


「これは気合い入れてインタビューしなきゃ……!」


 そんな可能性など万に一つも無い事には気づかずに、撮原はカメラとメモ帳の用意をして、試合が終わって休憩している選手たちへと駆けていった。




     *     *     *




「すみませーん、ちょっとよろしいですかー?」


 試合が終わり、ぐったりして水を飲んでいる摩音まおの下へ、カメラを持った女子生徒が駆け寄って来た。


「なんだ、我を撮りに来たのか?撮影料は高いぞ」

「ええ!?……まあそりゃそうですよね。魔法使いさんの撮影なんて普通、事務所を通してからするべきですよね……」

「冗談のつもりだったのだが……そして話が飛躍しすぎだ。事務所なんて無い」


 ちょっとからかったものの相手は真に受けてしまい、慌てて訂正する摩音。

 撮原的には『すごい人』イコール『スポーツ選手やアイドル』という認識だったので、摩音もそういう事務所ところに所属している高嶺の花的な存在だと本気で思ってしまったらしい。


「我は魔王だが、今は普通の女子高生だ。ただの先輩とでも思うがよい」

「いえいえただの先輩などとは思えませんよ!」


 そもそも人間ではないのでは!?という視線を摩音に向ける撮原。あれだけ魔法でドンパチやっていた現場を見たのなら無理もない話である。


「取材料は取らないから存分に記事にするがよいぞ」

「あ、ありがとうございます!ではさっそく……先程おっしゃっていた魔王というものについてお伺いしてもよろしいでしょうか」

「うむ。しっかりメモするのだぞ」


 摩音は渾身のドヤ顔で魔王時代の事について話し始めた。前世である異世界での話など、正直クラスマッチとは毛ほども関係のない話なのだが、撮原は興味深そうに取材していた。とても純粋な後輩である。


「とまあそんな感じで惜しくも勇者一行に敗れた訳だが、こうしてこの世界に人間として生まれ変わったのだ」

「なるほど……。人間に負けて人間になるとは皮肉というか、なんとも不思議な因果ですねぇ」


 唯羽がちょっと席を外しているからか、めちゃくちゃ喋る摩音。気づけば撮原はすっかり魔王について詳しくなっていた。今なら伝記が書けるレベルだった。


「それでは次に……今回のクラスマッチについてお願いします」

「ああ、というかそれが本題なのだったな」


 摩音は体操着についた土を払いながら、先程までの戦いを思い出すように目を閉じた。


「なかなかに白熱した試合だったぞ。あれは楽しかった」

「やはり魔王様的には戦いは楽しい物なんですね」

「うむうむ。全力でぶつかり合える相手は今まで勇者しかいなかったからな」


 そこまで言って、摩音はふと辺りを見回した。


「そう言えば唯羽の奴はまだ帰ってこないのか」

「たしかに遅いですね。魔王先輩と肩を並べるという勇者さんのお話も聞きたいのですが……」


 唯羽は今、司会進行役の先生や審判のいるテントにいるはずだ。決勝戦の試合終了間際、摩音が放ったボールがゴール直前に破裂してしまい、その判定を聞きに行っているのだ。

 あの時点では同点だったので、その点数が入っているのか否かで摩音たちの優勝が決まるのだった。


「あの過酷な戦いに、ボールはついて来れなかったのですね」

「情けない話だな。偉大なる魔王の蹴ったボールだという自覚がないのか、あのボールは」

「……その魔王が蹴ったから破裂したんだよきっと」


 不意に後ろからかけられた声は、話に出て来た唯羽ゆうのものだった。


「おお、戻って来たのか。どうだったのだ?」

「ハイパースローカメラで見た結果、残念ながら入る前に破裂しちゃったみたいだよ。僕達の点にはならないそうだ」


 つまり試合結果は同点で終了。両チーム共優勝という事になる。むむう、と悔しそうにうなる摩音の横で、撮原は「クラスマッチにハイパースローカメラなんて導入してるんですかこの学校……」と、ぼそりと呟いていた。



「ようセンパイ方、結果は今聞いたぜ。惜しかったそうだな」

「何はともあれお疲れ様でしたです」


 唯羽に続くようにやって来たのは、一年二組チームの中心人物2人。エンデと彩芽あやめだった。


「さすがのオレでも疲れたぜ、センパイたちとの戦いは。チーム全員に力を与えるなんて驚きだったぜ」

「フッ……うちの勇者は優秀だからな」

「なんで摩音が自慢げなのかな」

「うちのエンデさんだって負けてませんですよ」

「なんで張り合うんだよアヤメ」


 試合が終わった彼女らは、今日知り合ったとは思えない打ちとけぶりだった。同じ人間離れした技能を持っているという事もあるのだろうか。すぐに意気投合しそうだ。


 そんな各々が語り合う姿を見て、撮原は目をキラキラさせていた。役者はそろった、と言わんばかりの耀きだった。


「先輩方!そして二組の方々も!ぜひともお話を聞かせてください!!」

「うおっ!びっくりした。誰だ?」

「一年三組、新聞部の撮原と申します!」


 テンションが上がって来た様子の撮原。やや食いつくように4名の選手たちに取材を申し出た。


 そうしてサッカー班のクラスマッチは、予想外の結末で幕を閉じた。摩音たちの戦いは一旦終わりを迎えたのだが、新聞記者撮原の戦いは、まさにこれから始まるのだった。

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