第32話 シン・モモタロウ
『続いての劇は、6年2組の桃太郎です』
体育館内に、アナウンスが流れる。
「なぁこれ脱ぎたいんだけど。もっといい布なかったわけ?」
私は身に着けたボロボロの布をパタパタさせながら言う。
「昔話のおじいさんがきれいな服着てたらだめでしょ?」
「私も何でパンツしか履いてないんだよ! 一応全身真っ赤なストッキング着てるけどさ」
優香は手に持った金棒を振り回しながら嘆く。
「いいかお前ら。こうなった以上、初等部のガキ共に満足してもらえるような演技をしなくてはならない。絶対にこの劇を成功させるぞ!」
「「おー!」」
私たちが何故初等部の劇に出演する羽目になったかというと・・・・・・
数時間前。
「おい実! また勝手に私の菓子パン食っただろ!」
優香が空になったパンの袋を持って私の席に来た。
「別に食べたわけじゃない。私の腹にパンの栄養を貸してやっただけだ」
「そのパンは私のなんだけど?」
「いいだろ別に。パンぐらいどこでも買えるだろ」
結局私はパンを買いなおすことになった。
「ほらよ。食べられたくなかったら名前でも書いとけ」
私は適当に買った購買の売れ残りのパンを優香に手渡す。お前にはこれで十分だろ。
「お前は名前書いても食べるだろうが! 今度金庫でも買うか・・・・・・」
「好きにしろ」
「うーん・・・・・・、困ったわね」
そのとき、前から20代前半ぐらいの女性が独り言を言いながら歩いてきた。
「どうしたんですか?」
優香が女性に話しかけた。
「あら、あなたたち高等部の生徒よね」
「そうですけど」
「実は、今日やる予定だった劇に出演する子供達が風邪で休んじゃって・・・・・・。もしよかったら代わりに劇に出演してくれないかしら?」
劇に出演ねぇ。別に私に協力するメリットは無いし。
「悪いけど私は・・・・・・」
「え? 面白そう! やりますやります!」
私の言葉を遮って日菜が大声で叫んだ。お前いつからここに居たんだ?
「そうなの? 助かるわ! じゃあ早速初等部の校舎まで来て」
「いやここから初等部の校舎までどのくらいかかると思ってるんすか・・・・・・」
「大丈夫よ。その為に学園内専用のバスがあるんだから」
センセイは大きなバスを指差す。相変わらず大きいな、このバス。
「早く乗りましょう。もう時間が無いのよ」
「・・・・・・あー分かったよ! 行ってやりますよ! 優香お前も来い!」
「は!? 何で私まで行かなきゃならないんだよ!」
私は優香を無理やりバスに押し込んだ。
そして今に至る。
『あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました』
ナレーターの音声が流れる。
おじいさんって、私女なんだけど。
『おじいさんは・・・・・・ん?』
ナレーターが止まってしまった。何だ? トラブルか?
『えー、おじいさんは、庭の草むしりに、おばあさんはコインランドリーに洗濯物を出しに・・・・・・?』
何だこれ?
「おい、何がどうなってんだよ」
「わ、私に聞かれても・・・・・・」
ふと、観客席を見ると、見慣れた生徒が手を振っていた。
『おい、聞こえるか』
「優香?」
私は耳に付けておいたマイク付イヤホンを操作する。いざというときのために連絡を取り合うために付けておいたものだ。
『これ、冥華様の仕業だ』
「は?」
『冥華様が、「もっと面白いストーリーのほうが良いよね!」ってストーリーのシナリオを勝手に書き換えたらしい』
あんの女・・・・・・!
『でももう劇は始まってるし、何とか頑張って合わせてくれ!』
「無理言うな!」
私がイヤホンに向かって叫んだ瞬間、通話が終わってしまった。
「あ、あー、そうだな早く庭の草むしりしないとな。今日の草むしりの当番はわしだったな。ほれおばあさん、早くコインランドリーに行ってきなさい」
「う、うん・・・・・・」
すまん日菜。この劇が終わったらお前の好きな菓子いくらでも買ってやるからな。
私は観客席にいた冥華を睨み付けた。
こうして劇は順調に (?)進んでいった。
『おばあさんはコインランドリーの目の前にあった八百屋で桃を買ってきました』
「あらいい桃ね~。お兄さん、もうちょっと負けてくださらない?」
「うーん、負けた! 3000円だ!」
どこの値切りおばさんだよ。そして桃一個に3000円って高ぇなオイ。
・・・・・・いや、この中に人間が入ってるんだから当たり前か。
「ただいまおじいさん。桃を買ってきたよ」
「おー、これは美味しそうな桃だな。早速切り分けよう」
私は桃を包丁で縦に切った。
『おや、中ならはなんと人間の赤ちゃんが出てきたではありませんか!』
えーっと、確か台本では・・・・・・
「おばあさん、スマホを持ってきておくれ。イン○タグラムに投稿するぞ。絶対にバズるじゃろうな」
もう時代がめちゃくちゃだよ。何でこの時代にイン○タグラムがあるんだよ。
『おじいさんとおばあさんは生まれた子供を聡と名づけました』
そこは「桃太郎」だろうが。何で「さとし」なんだよ。マ○ラタウンで生まれたのか?
『聡はすくすく成長し、ある日、聡はおじいさんとおばあさんにこう言いました』
「親父、お袋、俺ちょっと鬼駆逐してくるわ」
ちなみに聡 (桃太郎)は私です。人手不足のため一人二役です。
「気をつけてね。7時までには帰って来るんだよ。知らない人についていかないでね」
遊びに行く子供か私は。
「あ、だったらこれをもって行きなさい」
お、もしかしてきびだんごか? 私も食べてみたいな。
「「カ○リーメイト」だよ。お腹がすいたら食べなさい」
そこはきびだんご寄越せや。この時代に「カ○リーメイト」あるわけ無いだろ。
「絶対に、妹を人間に戻してね・・・・・・」
鬼になった妹なんてウチにおらんわ。
『聡は鬼が島を目指して旅をしました』
「あーあ、流石に一人じゃあ大変だな~」
『すると、そこに現れたのは・・・・・・』
「鬼退治なら協力するよ」
おっ、犬・雉・猿か?
『栗と蜂と臼でした』
どこから出てきたんだお前ら?
「さぁ、報酬はいくらだい?」
臼が手を差し出した。
「しかも見返り求めんのか」
まずお前らが出る話じゃないし。とっとと蟹の敵討ちして来い。
『再び歩いていると、犬に出会いました』
やっとまともになってきたな。
「おい小僧、鬼退治に行くんだろ。俺もお供するで」
随分勇ましい犬ですこと。
『次に出会ったのは猿でした』
「そこの君、鬼退治に行くんだったらお供するよ・・・・・・」
「あ、いたぞ! 猿だ!」
『先ほどの栗・蜂・臼が帰ってきました』
まだいたのかお前ら。
「げっ、まずい!」
「「「捕まえろー!」」」
『三体は、猿を追いかけてどこかに行ってしまいました』
いやこっちは貴重な戦力失ったんだが? どうしてくれるんだよ。そこらへんに居る猿が役立つとは思えないが。
『代わりに熊が現れました』
「俺と相撲で勝ったらお供するよ」
私金太郎じゃないんだけど。お前金太郎の世界の熊だろ。
「はっけよーい、のこったー!」
「いきなりかよ!」
『こうして熊に勝った聡は、熊をお供にしたのでした』
結局勝っちゃったよ。
『さぁいよいよクライマックスです。聡一行は、鬼ヶ島に向かうために海に来ました』
やっと終わりが見えてきたな。このまま何も起こらないまま終わってくれれば良いんだが。
『目の前に現れたのはおばあさんが乗った木の船でした』
「六文銭を渡したら鬼ヶ島に連れて行ってあげよう」
これ三途の川の船だよな? 鬼ヶ島じゃなくて黄泉の国に連れて行かれるわ。
『おばあさんは聡一行を鬼ヶ島まで連れて行きました』
何とか到着したけど・・・・・・。乗ってる最中に何度か走馬灯が見えたのは気のせいか?
『聡は鬼たちが居る大広間へ突入しました!』
私は刀を構える。
「桃の呼吸、壱の型・・・・・・!」
「ぎゃああああ!」
私は鬼をなぎ払いながら奥へと進む。
・・・・・・私は一体何をやってるんだ?
そしてついに鬼の大将の待つ部屋へとたどり着いた。
「何者だ!」
『おっと、ここで鬼の大将のお出ましです!』
鬼の大将の役は優香だ。ていうかいい意味で鬼に見えない。
何でマントとか付けてんの? お前さっき真っ赤なストッキングにパンツだけだったよな? もう見た目が鬼というより魔王なんだけど。
「聡よ、いい提案をしよう。お前も鬼に」
「ならん」
「・・・・・・もしお前が鬼になるというのなら、世界の半分をお前に・・・・・・」
「半分じゃなくて全部寄越せ」
「よし良いだろう、かかって来い! お前たちの全力を見せてみろ!」
ラスボスかお前。 (実際ラスボス)
『ついに鬼と聡の最終決戦だ! この戦いに勝利した方には世界の半分をもらうか、トイレットペーパー・食器用洗剤・ティッシュ箱1年分もらうかを選ぶことが出来ます!』
何そのシステム。全国の主婦が喜びそうな景品だな。
あと名前のせいで緊張感が台無し。
『こうして鬼に勝利した聡は、世界の半分を手にしたのでした。めでたしめでたし』
どこがめでたいんだよ。
そしてステージの幕が下ろされる。
「実ちゃん、お疲れ様」
日菜がペットボトルの麦茶を手に駆け寄ってきた。
「劇がこんなにも大変なものだったとはな。劇団の人には尊敬するぞ」
私は麦茶を飲む。
「おーい! みんなお疲れ様!」
冥華が手を振ってやってきた。
「普通の劇じゃ面白くないと思って、私が書き換えたんだ! どうどう? 面白かったでしょ?」
「・・・・・・おい優香」
「あぁ。真の鬼をこの手で葬るぞ」
私は腰の刀を抜き、優香は背中から金棒を取り出した。
「え? 二人ともどうしたの・・・・・・?」
「「鬼退治だー!」」
「うわぁぁぁぁぁ!」
冥華は空の彼方へ吹き飛ばされ、実、優香、日菜の三人は仲良くファミレスにいきましたどさ。めでたしめでたし。
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