第29話 科学の力ってスゲー!
「あのさ、最近私たちずっと月の部屋に来てる気がするんだけど」
「え? そうかな」
今日も私たちは月の部屋にお邪魔している。いい加減うっとうしく思われてないか不安になってくる。
「別に来ても構わないけどさ。こう何度もこられると研究とかが出来ないんだよね」
「だよな。ほら日菜、月もこう言ってるし今日は帰るぞ」
「え~? まだここでゆっくりしたい~!」
日菜が夢中になっているときに何を言っても無駄なことは分かっているので、日菜を肩に担いで連れ帰る。
「はぁ~・・・・・・。どこで遊ぼうかな・・・・・・」
「そもそも学校は遊ぶところじゃない」
別に月のところに毎度毎度行かずとも、この学校なら遊ぶ場所たくさんあるだろ。
「あ、何かいい匂いがする」
「この匂いは・・・・・・、べっこう飴か?」
「美味しそうだからちょっと行ってくる!」
「あっ、バカ!」
廊下を走りながら匂いの元へ行ってしまった。
「ここって、実験室?」
ドアの前に掛けられているネームプレートには、『奏上(そうじょう)研究所』と書かれている。
「随分おしゃれな名前だな」
「失礼しまーす!」
毎度恒例の、日菜のドア破壊を披露し入室した。そして私が代わりに弁償する流れだ。一体どんだけ私にドア買わせれば気が済むんだよ!
「おっ。どうしたのかな? 見学なら見て行っても構わないよ」
オーバーサイズの白衣を着た少女が薬品を手に持ちながら話しかけてきた。
「いやアンタ冷静だな、自室のドア破壊されてんのに」
「えっと、君の名前は? 私は神楽日菜だよ」
「自分から名乗るとは、礼儀がいい子だ。私の名前は奏上綾目(そうじょうあやめ)だ。よろしく」
人の部屋のドアを破壊して入室してくる女のどこが礼儀正しいんだよ。
「今はおやつを作っているから、完成するまで座っててね」
「すみません・・・・・・」
「それで、君たちはどうしてここに来たのかな?」
綾目はべっこう飴を舐めながら話す。
「何か美味しそうな匂いがしたから来ちゃった! 他にはどんなお菓子があるの?」
「人の部屋に入って、菓子をねだるな」
「積極性のある子は嫌いじゃないよ。他にも作ってあげるから待ってて」
席を立ち調理の準備をする綾目を私は慌てて制止する。
「おいおい、やらなくていいんだぞ。あまりこいつを甘やかさないでくれ」
このセリフ前にもどこかで言ったな。
「構わないさ。 こういう子が科学に興味を持ってくれたら、科学者として嬉しいことはないよ。最近の子供は理系分野が好きではない子が多いと聞くからね。科学はこんなにも楽しいのに本当にもったいない」
「お前いくつだよ」
「歳は気にしないでくれ。君も食べたいものはあるかい?」
「別に私は大丈夫だが・・・・・・」
連れがやったとはいえ、ドア破壊した上に菓子まで食わせてもらって本当に申し訳ない・・・・・・。
「子供が遠慮するもんじゃないよ。私はある程度の料理なら出来るから言ってくれないか」
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただこうか」
「皆で食べるご飯は美味しいね。ここ三日間ぐらい何も食べていなかったからそれがエッセンスになってさらに美味しく感じるよ」
綾目と私はスパゲッティを、日菜は追加の飴を食べながら談笑する。
「飯くらいちゃんと食え」
私が言えることじゃないけど。
「実験をやっているときは食事なんてどうでもいいからね。エナジードリンクとエナジーバーで済ませてるよ」
「こういうやつが将来生活習慣病になるんだな。よく分かったよ」
「二人は食べてていいよ。私は実験を再開するからね」
「そうか。気をつけろよ」
私は一気にスパゲッティを口へかき込む。
「ごっそさん。帰るぞ日菜」
「わー! 何この液体! あ、こっちもすごい!」
「君も科学に興味があるのかい? 科学は楽しいよ」
「たわけぇ! (※バカ者)」
これ以上問題を起こされると私のメンタルが持たないので、急いで日菜を連れ帰ることにする。というよりメンタルが持たないどころか最近日菜のせいでストレス溜まって胃が痛い。
「ははは。いいんだよ。子供は自由に学ばせてあげないとね」
綾目は白衣のポケットに入っていた試験管を開けビーカーの中に注ぐ。何その薬品、見たことない色してんだけど。
「こいつは余計なことまで学ぶんだよ」
「この世の中に知ってて損することはないんだよ。全部自分の一部となって未来に役立つんだからね。日菜ちゃんもやってみるかい?」
綾目は日菜に試験管を手渡す。
「ありがとう! やってみる!」
「もう勝手にしてくれ・・・・・・」
ここまで来ると逆に呆れてくる。全国の親御さんたちが祖父祖母の孫に対する甘やかしを阻止する理由がよく分かった。
ドガン!
「何だ!?」
何かが爆発する音がした。おそらくさっきの薬品だろう。
「おい日菜! 大丈夫か!」
「ん? 大丈夫だよ、私結構頑丈だからね」
爆発に巻き込まれて無傷なのは、もう頑丈とは言わない。
「そういえば綾目は?」
横を向くと、体中から血を流して床に倒れている綾目がいた。
「は!? おい綾目! しっかりしろ!」
「お、お医者さん呼ばなくちゃ!」
「バカ者、救急車を呼ぶんだよ!」
流石の私もリアルで人命救助はしたことがないので、当然パニックになる。すると・・・・・・
「あー・・・・・・、また死んじゃったなぁ。失敗失敗」
「・・・・・・は?」
次の瞬間、綾目はゾンビのように体をひねり、再び立ち上がった。
「え? 言い方悪いけど何で無事なんだ・・・・・・?」
「そういえば言ってなかったね。私、体を改造してるから死なないよ」
死なない・・・・・・? 聞き間違いかな?
「私は半分ゾンビのような存在だからね。不老不死の存在だよ」
「・・・・・・日菜、私は夢を見ているのか?」
「現実だよ、実ちゃん」
「と、とりあえず詳しく話してもらえないかな? あとこっちに近づかないでくれ」
ゾンビと言われて近づこうとする人間はいない。私たちは綾目から心理的にも物理的にも距離をとる。だって噛まれたらゾンビになるもん。
「さっきも言ったけど、私は体を改造して不老不死になっているんだ。『半ゾンビ』と言った方が良いかな」
「何で改造なんてしたんだよ。まさか自分の体で人体実験でもしたのか?」
「半分正解だね。人体実験はしたいけど、被験者がいないから自分の体を使うしかない。事実、私の体の内臓、何個か摘出して実験に使ったから」
「ぎゃああああああああ!」
「そりゃ日菜も悲鳴上げるわな。日菜に恐怖を覚えさせるなんてやるなお前」
「そして、ある日いつも通り自分の体を使って人体実験をしていたら、こうなっていたってわけ」
「その『ある日』に一体何をやったんだよ」
「何で綾目ちゃんはそんなに実験をしたいの?」
日菜が問いかける。
「それはね・・・・・・私は『人の極』が見てみたいんだよ。言い換えると人の終着点とも言えるかな」
「人の終着点・・・・・・?」
「そう。人がどこまで成長できるのか。人がどこまで強くなれるのか。人はどこまで進化できるのか。そして、最高に美しい、人の終わり方とは何なのか。それを私はこの目で見てみたいんだよ。私の目的はそれ以上でもそれ以下でもない」
「な、なるほどな」
「その為に私は永遠に研究を続けられる体を作った。私の今の最高傑作は、私自身だよ」
この人、俗に言う『マッドサイエンティスト』か?
「何か、月と気が合いそうな奴だな・・・・・・」
「今度会わせてあげようよ。仲良く慣れるかもね」
「君たち、月を知ってるのかい?」
「知ってるが何か?」
月の部屋
「月ちゃーん! 今日はお友達を連れてきたよ!」
「だからボクは忙しいんだよ・・・・・・」
その後ろから、綾目が部屋の中に入ってくる。
「久しぶりですね。月さん」
「綾目!? 何でここにいるんだ!?」
「やっぱり知り合いか」
「うん。私と月さんは、昔同じ研究所にいたんだ。月さんは先輩だったけどね」
だが、月の顔が青ざめていく。
「二人とも・・・・・・、何故綾目をここに案内したんだ」
「え? だめだったかな」
「こいつにだけは二度と会いたくなかったのに・・・・・・」
「そんな事言わないでくださいよ、久々の再開なんですからもっと喜んでくださいよ」
月はため息をつきながら、手で目を覆う。
「綾目は、昔からいかれた頭の持ち主だったんだよ・・・・・・。研究所の後輩とか同期を誘拐しては人体実験を始めるし、そこらへんの野良犬や野良猫に躊躇なく注射器で薬品投与するし」
「いや怖すぎだろ」
「本当に彼女はマッドサイエンティストの鏡のような存在だったよ。それで、結局何か進歩したのかい?」
月は座っていた椅子をくるくる回しながら話す。目が回りそうだ。
「進歩ですか。体を改造して半ゾンビになりました! どうですか? 私も成長しましたよ!」
「お前・・・・・・、ついにやったか・・・・・・。あれほど自分の体で人体実験をするのはやめろと言ったはずなのに・・・・・・」
「ほめてくれないんですか?」
「後輩が人間じゃなくなって喜ぶ先輩がどこにいるんだよ・・・・・・」
珍しく月が精神的ダメージを受けている。
「でも、なってしまったものは仕方ないですし、どうせもう死にたくても死ねないんでずっと研究してますよ」
「その根性をもっと良い方向に向けられなかったのか?」
「あのー、私たちはそろそろ帰っても良いか?」
「待て。今日は勝手に私の部屋に綾目を連れ込んだ罰として、たっぷりと綾目に対する愚痴を聞いてもらうぞ」
「えぇ~・・・・・・、めんどくさいな」
その後私たちは、月の愚痴を聞くはずが綾目が菓子を持ってきたので、なぜかパーティを開く羽目になってしまった。
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