第16話 寄宿学園の日菜
「実ちゃん……」
「何だそんな、家がなくなったみたいな顔して」
「随分独特なたとえだね……まぁ実際そうなんだけどね……」
「は?」
こいつ……何言ってるんだ?
「家に住めなくなったんだよぉ~!」
「……と、とりあえず話だけは聞こうか」
「ありがとう……!」
とりあえず部屋の床にクッションを置いて座らせる。
「すまんな。相変わらず汚い部屋で」
いつも通りだが、部屋中に脱ぎ散らかした服、タブレットなどの電子機器が散らかっている。
「大丈夫だよ、もうあきらめてるから」
「今すぐ帰れ」
「ごめんごめん」
……事実だから反抗できないのが悔しいな……
「はぁ……で、どういうことだ?」
「実はね……」
(ここから昨日の回想シーン)
時は午後8時
「ふぅ~。お風呂気持ちよかった」
「お姉ちゃん、お風呂長いよ」
「ごめんね。次入っていいよ」
濡れた髪をタオルで拭きながら、そう話しかける。
「入ってくるね~」
「いってらっしゃーい」
パタン
それから10分後。
「いや~……この漫画面白いなぁ。今度、実ちゃんにも薦めてあげよっと」
ピンポーン
「ん?こんな夜遅くに誰だろ。非常識だなぁ……」
イラっとしつつ、玄関のドアを開ける。
「はーい」
目の前には、20代前半ぐらいのグラマーな綺麗な女性が立っていた。
「夜分遅くにすみません。私、このアパートの管理人なのですが」
ゲっ……
「あなた、そろそろこのアパートの家賃払ってくれませんかね……あなた一体何か月滞納してると思ってるんですか? もう7か月滞納してますよ」
分かってるのなら聞かないでよ。
「すみません……お金がなくて……」
このやり取りももう何か月もやって来た。
「……もう結構です。1週間以内にこのアパートを立ち退いてもらいます。一週間たってもこのアパートを立ち退かないのなら、こちらも法的処置を取らせていただきますので覚悟しておいてください。まぁ、立ち退くまでの間、電気代、ガス代、水道代だけは情けで許しましょう」
……まずいことになった……!
「いいですね? 1週間以内ですよ?」
そう強く言うと、管理人の女性は帰っていった。
「……どうしよう……」
「お姉ちゃん?」
「ひゃい! 何でしょうか」
「いや……凄い顔真っ青だね……」
「そうかな……?」
「私もう寝るから、お姉ちゃんも早く寝てね。」
「はい……」
「というわけなんだ……」
「だからと言って何で私の家に来たんだ? 金なら出さないぞ?」
「いやいや……大切な友達にお金出してなんて言えないよ!」
……当たり前だけどいいとこあるよなコイツ……
「じゃあ何で私の家に?」
「1週間、私たち姉妹をこの家に居候させてください!」
前言撤回。
「はぁ」
「実はあの後、実家に連絡して助けてもらったんだけど……」
電話の内容
『こんの馬鹿者! 家賃が払えなくなったぁ』
『ごめんなさい……』
「すごい剣幕で怒られちゃって……」
「ていうかその人誰だ?」
「……聞かないでいただけると助かります」
「……分かった」
「で、話し合いの結果、学園の学生寮に住むことになったんだ」
「でも何で、私の家に来たんだ? 頼んだのなら、すぐに入れるんじゃないのか?」
「途中からの入居だから、空き室探してるんだ……探すのに1週間かかるらしくて……」
「それで1週間私の家に泊めてくれと」
「君のような勘のいいガキは好きだよ」
それどっかで聞いたことある。あとそこ「好き」じゃなくて「嫌い」だから。
そして「ガキ」ってどっから目線だコノヤロー。
「別に私は構わんけど。どうせ、両親もいないし」
「また居ないの?」
「あいつら、娘を置いて今度は海外旅行行きやがったよ。まぁいつものことだから慣れてるけど」
小さい頃から、私を一人でおいて行って旅行に行くなんて日常茶飯事だったからな。娘に飯も作らない、家事はしない、そのくせ世間体ばかりは気にする馬鹿な両親だよ。
「両親をあいつら呼ばわりって……相当嫌いなんだね……親の事」
「あんな馬鹿な大人をどうやって親と思えばいいんだ? もう、アイツらから生まれたこと自体が恥に思えてくる」
「何かごめん……」
「気にするな。ちゃんと姉さんは家にいるから。で、ちゃんと生活用品は持ってきたのか?なければ買ってくるが……(ネットで)歯ブラシのストックぐらいならあった気が……」
「急いで家から出てきたから、何も持ってきてないよ……」
「……仕方ない……早く注文するか……」
そう言っていつも利用してる通販サイト「JET」の画面を出す。
「好きなの選んでカートに入れてくれ。この際、少し高くてもかまわん。下着も持ってないんだったら買っとけ。私は寝る。注文する商品が決まったら起こしてくれ。」
「うん。ありがとうね」
ベットに移動するのがめんどくさいので、床にクッションを置いて寝っ転がった。
3時間後
「実ちゃーん……起きてー」
「ん? 終わったのか?」
「うん。2人分の生活用品選んだからね」
「分かった。じゃあ注文しておくから、ゆっくりしててくれ」
注文を確定した。
「よし。お急ぎ便だから今日中に届くだろ」
「早いね!」
「私はブラック会員だからね。どんな時間帯に注文しても必ずその日のうちにと置けてくれるぞ。ちなみにブラック会員は全世界でも100人もいないらしいぞ」
「それ労働基準法違反じゃないの?さっきの届けてくれるやつ。主に深夜とか」
「細かいことは気にするな。で、この後どうする?ゲームでもするか? コントローラー予備のやつ5台あるぞ」
全然使わなかったけど。いや、決して一緒にやるやつがいなかったわけではないからな? 本当だから!
「うーん……お風呂入っていい?昨日からお風呂入っていないんだ……」
「図々しいな……いいけど。じゃあお湯張ってくるから待っててくれ」
「うん。」
パタン
「……実ちゃんの部屋……いいにおいする。実ちゃんのにおいだ……!」
どうして好きな人の部屋ってこんなに落ち着くのだろうか。その人のにおいが漂ってるからだろうか。
「実ちゃんのベッド……」
ゴクリ……
「少しだけ、少しだけならいいよね……?」
「うわーっ凄くいいにおいする!」
ガチャ
「すまん、風呂洗ってたから遅くなった……」
……
「お前人のベッドで何やってんの?」
「いやー……これは……その~……」
「悪いけど、私そういうのはいいから」
「そういうのって何」
「自分の胸に聞いてみろバカ」
いや、こいつ人のベッドに寝っ転がるってどんだけ失礼なんだよ。
「お姉ちゃん?」
「うわっ! びっくりした!」
振り向くと、ドアの前に幼女が立っていた。
「虹ちゃん(日奈の妹)、いつから居たんだ?」
「今回の話の最初から居ましたけど……」
「すみません……」
午後6時
「もうこんな時間か。日奈、晩飯何食べたい?」
「実ちゃんが作ったものなら何でもいいよ」
「そういうのいいから、早く言え。出前でもいいぞ」
むしろ出前の方が作る手間が省けていいからな。
「うーん……じゃあハンバーグ食べたい! 実ちゃんが作ったやつね!」
「ハンバーグか……まぁ作れるけど。材料あったかなー……」
一階の冷蔵庫を見に行く。
「ひき肉がないから姉さんに買ってきてもらうわ」
「ありがとう」
零(実の姉)
「ふぅ~! やっとバイト終わった……」
ギャリギャリギャリギャリ!(ゴリゴリなロックバンドの着信音)
「はい。……実? どうしたの?」
『ああ、姉さん? 今から帰るところか?』
「うん」
『だったら、ひき肉買ってきてくれないか?金は後で出すから。とりあえずハンバーグ4人分作れるぐらい』
「分かった。お金はいらないよ」
『助かる。じゃあ頼んだぞ』
通話終了
「……4人分?」
「よし。帰ってきたら作るから」
「ごめんね。何もかもやらせちゃって……」
「ただいま~!」
「え、帰ってくるの早っ!」
「あれ? 君は……」
姉さんは日奈を見て首を傾げた。
「あ、実ちゃんの友達の日奈です」
「こいつら、いろいろあって1週間家で暮らすことになったから」
「ふーん。いいよ。どうせ両親もいないんだし」
物分かりのいい姉で助かった。
「じゃあ今から晩御飯作るから」
「あ、私も手伝うよ!」
「お客さんに手伝わせるなんてできないよー」
むしろやめてくれ。こいつ料理壊滅的に下手だから。
「部屋で本でも読んでろ」
「じゃあ……甘えちゃおうかな」
うん。本気で甘えてくれ。
1時間経ちました。
完成したので部屋に向かう。
「ご飯できたぞ」
「うん。虹、行こ」
「は~い!」
「ソースは何がいい?」
「うーん……私はケチャップかな。虹は?」
「私は、オイスターソース!」
「分かった」
「実ちゃんは?」
「あぁ、私ソースとかの調味料大っ嫌いだから」
昔たこ焼き屋とかに行った時も必ずソース抜きで注文してたからな。お好み焼きとかも。
「そっか。好みは人それぞれだもんね」
「いいから早く食べるぞ」
食後
「美味しかった!」
「それは何より」
食事は「美味しい美味しい」言って食べてもらった方がうれしいからな。
「さっさと風呂入って寝るぞ」
「そうだね。実ちゃん先入っていいよ」
「私は後で入る」
「いいの? 1番風呂なんて」
「客をもてなすのは当たり前だろ」
「じゃ入ってくるよ」
「よし……やっと寝たな」
あの後、日奈が全然寝なくて、結局絵本の読み聞かせしてやってようやく寝たのだ。
「さーてと。ネトゲのイベントやるか」
私はパソコンの電源ボタンに手を伸ばす。
「……やっぱ寝るか」
なぜか今日は寝たくなってしまった。
日奈の隣に寝っ転がる。
「……可愛い寝顔してるじゃねえか」
日奈のほっぺたをムニムニしてみる。とても気持ちいい。
「寝るか」
そのまま私の意識は夢の中へ吸い込まれていった……
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