??章 ****駅_最後の終着駅
2_12(レコード:12石碑)
管理人が加わり異形の森はますます前のような活気のある森になった。中でも人気になったのがきさらぎのクッキーだった。森にやってきた管理人はきさらぎに挨拶をした。
「おはようございますきさらぎさん」
「おはよう!管理人さん」
「元気なあいさつでいいですね。早起きで何よりです。それに比べて...彼は...」
と管理人は言いながら寝床で眠るフジニアを見てため息をついた。それを見たきさらぎはフォローする。
「まあ...フジニアは森を守ることで忙しいから...」
「きさらぎさんは甘いです!こういうのは異形とか人間とか関係ありません!規則正しい生活は当たり前なんです」
「そ、そうですね」
「いいですか?こういうのは叩き起こすんですよ!」
「叩き起こすってどうやるんですか?」
管理人の勢いに押されたきさらぎが聞くと管理人は懐からメガホンを取り出した。
「それはなんですか?」
「これはメガホンと言います。人間の世界にもあるものですが異形の世界のメガホンは少し違います。異形のメガホンは人間のメガホンの数百倍の声が出せるんです」
「数百倍ってそれ大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。異形なら死にません。気絶するぐらいです。これなら一発でたたき起こすことが出来ますよ!」
「それって目が覚めても逆に気絶しちゃうんじゃ...」
「とにかく彼をたたき起こします!その前にこれをどうぞ」
「え...これは...」
「耳栓です」
「なんで...耳栓?」
と管理人に渡されたのが小さな耳栓だった。きさらぎは渡された耳栓に戸惑いながら管理人を見た。管理人はにこにこ笑いながらきさらぎに言う。
「きさらぎは人間ですからそれ付けていないとメガホンの音量に耐えられず死にます」
「え...死ぬんですか?」
「はい。鼓膜が破けて耳や目や心臓などの臓器が破裂して大量出血して死にます!」
「ああ...そんなにこにこしながら”死にます”って言わなくても...急にバイオレットみたいな話されても」
「バイオレットではなくバイオレンスです」
「...どっちでもよくないですか?」
「そうですね!まあ...と言うわけで起こます」
「え、ちょっと待って!」
管理人に焦りながらきさらぎは耳栓を付ける。きさらぎが耳栓を付けたとことを確認した管理人はメガホンを持ち叫んだ。
「起きろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
大声と共に激しい衝撃が襲いきさらぎは管理人の後ろにいたので吹き飛ばされることは無かったが、その場にいた異形たちが森の奥深くに吹き飛ばされた。大半は大声で気絶した異形が森にあちこち倒れた。
「うわああああああ!」
「う、うるさ...」
と言いながら異形たちは飛ばされ気絶していく、まさに地獄絵だった。
「じ、地獄絵図...」
と思わずきさらぎは呟いた。当の本人は気にせずけろっとしている。森にはしばらくキーンと耳障りな音が響いた。
「まあ、少しは懲りたんじゃないんですかね!」
「そんなキラキラした目で言っても周りを見て下さい。地獄絵図ですよ」
きさらぎは周りで倒れる異形たちが心配になり声を掛けた。
「だ、大丈夫?みんな生きてる?」
「う、うううう...」
「な、なんとか...い、生きてます...」
「なんか、今に死んじゃいそうで怖い!」
とツッコミを入れたきさらぎとは対象に管理人は冷静に異形たちを眺めて頷いた。
「大丈夫です。そのくらいなら異形は死にませんから!放置しておいて大丈夫です!」
「え、いいの?」
「はい。ところで...原因の彼は起きたんでしょうか?」
「きっと起きたと思いますけど...多分気絶しました」
ときさらぎが言う通り案の定フジニアは気絶していた。
「まったく何寝ているのですか」
「いや...十中八九起きたけど気絶したと思いますよ」
「はあ...ならもう一度しますか」
「え?」
管理人はメガホンを再び持ち起こそうとしたので異形たちに全力で止められる事態に発展した。フジニアは昼頃まで気絶していた。目を覚ましたフジニアにことを説明した管理人はメガホンを出し時々フジニアを脅そうとしていた。それからというものフジニアが寝ているのをメガホンっで管理人が起こす日々が始まったが、耐性がついたフジニアはそのまま爆睡し管理人は更に強いメガホンを使うようになった。そのうち困った異形たちに頭を下げられて”早く起きて欲しい”と言われるようになり少し改善した。
管理人のメガホンが無くても自然と起きることが出来たフジニアは一人で森の奥のとある場所に来ていた。そこはかつて聖なる泉があり小悪魔たちや天使たちと過ごした思い出の場所だった。フジニアはふと1000年まえのことを思い出す。聖なる泉が全ての力を使って森を再生させた。その再生で森はかつての姿を取り戻したが完全に生まれ変わった森は彼らがいた足跡や痕跡まで消してしまった。あるのはフジニアが彼らと過ごした
夢の中でフジニアは森の中で立っていた。周りを見回すといつも通りの景色だった。いつも通りの様子にフジニアは驚いた。驚いているフジニアに見知った幼い声が聞こえてくる。声のする方へ振り向くとフジニアを呼んだの声の主が立っていた。先ほどまで一人でいたはずのフジニアの傍には殺されたはずの二匹がいたからだ。
「「パパ!」」
「え...嘘だ。だってお前たち...どうして...殺されたはずじゃ?生きてるのか...?」
とフジニアが恐る恐る聞くと二匹は笑った。
「殺された?パパ、何言ってるの?」
「殺されたって何が?」
「いや...何でもない...」
フジニアは目の前の状況に戸惑い頭を抱えた。殺されていない?生きている?二匹が目の前にいる?頭がこんがらがったフジニアだったが二匹と会えたことでフジニアは気持ちが溢れて涙が止まらなかった。そんなフジニアを心配した二匹は声を掛けるがフジニアは”大丈夫、大丈夫だから”と言って膝をついて顔を手で押さえて泣いた。
「パパ、大丈夫?」
「パパ、どこか痛いの?」
「ううん...大丈夫だ。ただ...二匹に会えて...生きていてくれて嬉しいんだ...」
と泣きながら言うフジニアは二匹を抱きしめようとしたが二匹に触れることはできなかった。二匹にフジニアが触れようとしたが二匹の体をすり抜けて両手を宙を掴んだ。触れられないことでフジニアは二匹を見ると体が透けていた。二匹は気づいていないのかフジニアに抱き着いた。二匹はフジニアに触れることができたがフジニアは触れることが出来なかった。二匹は楽しそうに笑い声をあげておりその声を聴いた小悪魔たちがやってきた。
「ああーいたいた!ここにいたんですね。親分!凄い探したんですよ」
「え...小悪魔たちが...」
「うん?どうしたんすか親分?」
小悪魔たちの姿は二匹同様に透けていた。小悪魔たちの姿を見たフジニアの目から再び涙が流れた。中でも最後に話した小悪魔がフジニアに話しかけたことでフジニアの涙腺は崩壊した。フジニアの泣いた姿を見たことがない小悪魔たちは慌てる。
「おお、親分!どうしたんですか?俺ら何かしましたか?したんだったら謝ります!」
「いや、違うんだ...」
「だって泣いてるじゃないですか!これハンカチです。使いますか?」
と差し出されたハンカチも触れることが出来なかった。フジニアは一声かけた。
「その気持ちだけで大丈夫だ。誰も悪くないから...」
「親分...」
小悪魔たちはフジニアが泣き止むまで傍にいて、優しい声をかけた。フジニアはその優しさにまた泣きそうになるのを必死にこらえた。フジニアが泣き止んだ後小悪魔たちに聖なる泉の所へ案内された。
「聖なる泉がちゃんとある」
「なに言ってるんですか親分!ずっとあるじゃないですかー」
「そうだな...」
「パパ、様子変...どうしたの?」
「パパ、大丈夫?」
「大丈夫だ。ただ...悲しいことがあって...少し聖なる泉と話してくる」
と言うと小悪魔たちは頷いて二匹を連れて森の中へ行き、フジニアは聖なる泉に話しかけた。
「聖なる泉...起きてるか?」
『はい...起きています...』
「聞きたいことは山ほどある。ただ...はっきりさせておきたいことがある」
『何でしょうか?』
「ここはどこなんだ?一体何なんだ?なんでみんなは透けていて触れることが出来ないんだ?」
『......』
「それになんで皆生きてるんだ?...だって!皆は俺の目の前で死んだ。だから...生きてるはずがないのに...何で!」
『......』
「何で答えてくれないんだよ!聖なる泉!」
『......』
フジニアは叫びながら言う。フジニアの言葉を聖なる泉は黙ってたた聞いていた。いつまでたっても答えない聖なる泉にフジニアは訴えるように言い、聖なる泉はやっと口を開いた。
「答えて...くれよ...頼むから...」
『...分かりました。そうですよね...お教えしないのはあなたに失礼ですよね...ここはあなたの夢です』
「夢?俺の夢なのか?」
『はい...あの時のことを覚えていますか?』
「あの時のことって?」
『この森に人間たちが侵入し、あなたを殺そうとした日のことです...あの日二匹や小悪魔たちが殺され、天使が堕天使になり、森が死にかけた日のことです...』
「なんてその日のことを聖なる泉が知ってるんだ?」
『知っていますよ...あなたにこの夢を見させているのは私ですから...』
「聖なる泉がこの夢を」
フジニアは周囲を見回すが聖なる泉が見せている夢とは思えなかった。
『一目見ても夢だと思えませんよね...当然です。これはあなたの望んだ記憶を媒介に作っていますから...』
「俺の望んだ世界?」
『はい...あなたはこの森で彼らとずっと一緒に居たいと思っていたんです。その思いが記憶を媒介に作られたのがこの夢です』
と聖なる泉は説明した。フジニアは納得した。フジニアの望んだ世界は聖なる泉が言っていたように”この森で二匹や小悪魔たちや天使と聖なる泉とともに一緒にいること”だった。話を聞いたフジニアは夢ならばずっとこのままでいたいと思った。しかし、夢は醒めるものだ。永遠には続かないのが現実だ。
「なら、ずっとこのままがいい。夢ならこのままでいたい」
『...残念ですがそれはできません。夢は醒めるものです...』
「夢は醒めるってことはこの夢は無くなるのか?そうしたら俺はまた一人ぼっちに...」
フジニアは言いながら悲しくなり下を向いた。そんなフジニアを励ますように聖なる泉は言う。
『顔を上げてください...あなたはひとりではありません...姿は見えずとも私たちはあなたのことを見守っています』
「それってやっぱり...あの時、皆は聖なる泉も死んだって事だろ?これは夢だ。覚めたらまたみんないなくなる。こんなのってあるかよ!」
フジニアは彼らが死んだ事実を再度突き付けられ、胸が締め付けられるような苦しみに襲われた。
『...泣かないでください。確かに私たちはあの時...死にました。でも、あなたのせいでない。命あるものは必ずいつかは死にます...それがあの時だったのです...でも寂しい気持ちは分かります...この夢はあなたが眠る時だけ何度でも見ることが出来ます..』
と言う聖なる泉の言葉を聞いたフジニアは顔を上げた。
「何でも見ることが出来るのか?」
『はい...この夢は私があなたのために最後に残したもの贈り物です。森を再生させたときに少しだけ力が残ってしました。その力でこの夢をあなたに授けました。この夢は夢の中で何でも見続けることが出来ますが、心からあなたを信じて傍にいてくれる異形人や貴方が心から愛したい異形人と出会うとこの夢は醒めて見えなくなります』
「そんな!夢が覚めたらもうみんなに会えなくなるのか。そんなの嫌だ!だいたいそんな異形や人がいる訳ない!」
『今は理解できないでしょう。でもいつか本当にあなたのことを心から信頼し、信用してくれる異形や人に、あなたが愛したいと思える異形や人にある会うことができるでしょう....』
「俺を信頼し信用してくれる、愛したいと思える異形や人に...出会う?」
『そうです...今は分からくてもいつかは出会うでしょう...その日まで...この夢は続きます...そろそろあなたが目を覚ますころです。ですが夢から醒めてもこの夢は終わりません。少しの別れです。夢の中でまた会いましょう...』
「待ってくれ!聖なる泉」
フジニアは消えゆく景色に手を伸ばしたがその手は何も掴むことなく、空気を掴んだ時に目を覚ました。
「夢か...夢なら醒めたくないな...」
と呟いたフジニアの目から涙が流れた。
それからフジニアは眠るために彼らと会うことが出来たが、彼らはすでに死んで知るおり、彼らと出会えるのは夢であり記憶を媒介にしていることもあり彼らと話せることはできても決して触れることが出来なかった。そのことに関してフジニアは悲しんだが気にしなかった。彼らと出会い共にいられるだけでよかったからだ。彼らと出会い夢が覚めると一人になり、その孤独を呪った。寂しさを紛らわすように異形たちを見かけ声を掛けたり手当てをすると異形たちはこの森を気に入った。喜ぶ異形たちの姿を見るとかつての小悪魔たちと姿が重なる。異形たちは彼らと違うのに。寂しさを埋めるかのようにフジニアは異形たちを森に出向いた。そして今...彼の元には多くの異形とともに人間のきさらぎがいた。約1000年前まではあれほど恨んでいたはずの人間を...不思議ときさらぎといると嫌なことも忘れられて素の自分でいられた。きさらぎだけは嫌悪感はなく傍に居たいと思った。きさらぎは人間でフジニアは異形の悪魔だ。異形の掟もある。傍に居たいと思ってもいつかは離れなくてはならないのかもしれない。
「きさらぎと離れるのは嫌だな...同じ人間のはずなのにどうして一緒に居たいって思えるんだろう。約1000年前は人間のことも異形のことも何も知らなかった。魂すら喰らったことがない俺と比べて今の俺はどうだろう。人間の魂を喰らう本当の悪魔だ。今の俺を知ったら小悪魔たちはどう思うんだろうな...幻滅するのかな...嫌われるのかな...何でこんなことになったんだろうな...もしきさらぎに俺が人間の魂を喰らう悪魔だって知ったら...きさらぎも居なくなるのかな...それは嫌だな」
フジニアは言いながら蹲り、片手で髪を掴みため息を吐いた。
フジニアは立ち上がると小悪魔たちと二匹のために作った石碑を見た。この石碑はフジニアが彼らのために作った墓だった。森が再生された時に彼らを聖なる泉が弔ったため彼らは消えてしまった。フジニアはせめて彼らが生きていた印を残しておきたかったのだ。何日もかけて人数分の石碑を作ったフジニアは時々この場所に来る。誰も知らないこの場所はフジニアにとって特別な場所だった。聖なる泉のある場所は花が咲き誇っていて綺麗だった。フジニアはこの場所が好きで一人でよく隠れて眠った。フジニアは見回した後、石碑に話しかけた。
「おはよう、今日もいい天気だな皆。今日は皆に報告があるんだ。前にこの森に異形たちが住み始めたことは話したと思う。実は最近、きさらぎっていう人間とともに過ごしてるんだ。ごめん...言うのが遅くなって...あんなことがあったのに人間といるなんて怒ってと思う。自分でも驚いてる。けど...きさらぎはあいつらとは違うんだ。きさらぎは優しくて俺に名前を...フジニアっていう名前を付けてくれたんだ。今はまだ分からないけど...どうか見守っててくれ...」
フジニアがそう言うと返事をするかのように暖かい風が吹いた。風に吹かれたフジニアは空を見上げた。満開に晴れた空を見上げたフジニアは微笑んでいると遠くの方から自分の名前を呼んでいるきさらぎの声が聞こえてきた。
「フジニアー!どこー?」
「きさらぎか...もうそんな時間か...俺、もう行くよ。また来るな皆...」
フジニアは石碑に向ってそう言うとその場を後にした。フジニアは自分の血を使いその入り口を塞いだ。
「じゃあ...行ってくるな皆」
とフジニアは呟いた。森の中を歩いているときさらぎたちを見かけた。フジニアに気づいたきさらぎたちは駆け寄って話しかけた。
「フジニア、どこにいたの?探したんだよ」
「悪かった。少し森の中をぶらぶらしてたからな」
「あなたも珍しく早起きできたんですね。せっかく巨大なメガホンを持ってきたのに...」
「おい!思わずつっこんだだろ」
「いいツッコミですね。毎朝起こされる身になってくださいよ...まあ、このメガホンを使うのは面白いんでいいんですけど」
「面白がってんじゃないか!俺だってたまには早起きするさー」
「どうだが...きっとこれから雨降りますよ!」
「降らないわ!今日満開に晴れただろー」
「二人とも相変わらず仲良しだね」
「「仲良しじゃない/ねえ!」」
管理人とフジニアはそろって言う。その様子を見たきさらぎは笑っていつものようにクッキーを渡した。
「ほんとうに仲がいいんだからー。はいこれ」
「ありがとう。きさらぎ」
受け取ったフジニアは礼を言うとクッキーを食べ、今日も変わらない一日が始まる。
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