??章 ****駅_最後の終着駅
2_9(レコード:09運命)
悪魔が森を守って約1000年が経った。聖なる泉が命をかけて再生させた森は見事にあるべき姿を取り戻した。悪魔は居場所がない異形や弱気異形たちを見つけて森に住まわせた。異形たちは悪魔に感謝し多くの異形たちが住み始めた。人間たちは興味本位で森に立ち入ることはあっても悪魔によって森は守られていた。やがて人間たちによって”禁断の森”と言われるようになった。悪魔は人間を嫌い森を守っていたある日、人間の少女が迷い込んだ。
「ねえ、あなたはだあれ?」
と少女は悪魔に話しかけた。悪魔は人間が入ってきた事にも驚いたが自分を見えることや怖がらずに話かけていることに驚く。
「お前...俺が見えるのか?」
「うん!見えるよ」
と悪魔聞くと少女は頷いた。元気良く言う少女に悪魔は拍子抜けた。
「お、お前は怖くないのか?」
「怖いって何が?」
「え...だって俺は悪魔だぞ?」
「全然怖くないよ。あなた悪魔なの?」
「そうだけど...」
「自分から言うなんて面白いね!」
と言う少女は俺のことを不思議そうに見る。なんだこいつは...変な奴だ。普通なら醜く姿が黒くて影みたいな俺が見えるはずがない。見えたとしても話かけるなんてしない。見えても怖がらずに逃げないなんてありえない。まあ...いいか。どうせ人間は欲深く醜い生き物なんだ。目の前の少女もそうだろう。見るからに森に入って迷ったって所だ。馬鹿な奴だ。この森は俺のような異形の悪魔たちが住み着く森。迷い込んだ人間を喰らう森だ。こいつも食ってやる。
悪魔は涎を垂らしそうになるのを堪えながら少女に近づく。少女の肩を掴むと爪を見えないように伸ばし殺そうとした時に悪魔の腹が鳴る。少女は悪魔を見ると懐から何かを取り出した。
「お腹すいたの?ならこれあげる!」
「これは?」
「クッキーだよ。作ったんだ!」
少女はそう言いながらクッキーを悪魔に渡す。渡された悪魔は戸惑うながら少女に聞いた。
「クッキー?これを俺にくれるのか?」
「うん!あなたにあげる!お腹すいてたんでしょ。ならこうして...はい、半分こ!」
少女は持っていたクッキーを半分に分けて悪魔に渡す。悪魔は受け取ったクッキーに戸惑うが少女がクッキーを食べたので悪魔も一口かじる。
「...おいしい」
「本当!嬉しい」
悪魔が初めて食べたクッキーの味はとても美味しかった。思わず口に出ていた言葉を少女に聞かれて口を手で塞ぐ。悪魔は少女を見るととても嬉しかったのだろう。とても喜んでいた。こんなにおいしいと思ったのは初めてだったからだ。悪魔はあれから約1000年たった今は人間の魂を喰らっていた。今まで多くの魂を喰らってきたがここまで美味しいと思えたものに出会ったことがなかったのだ。悪魔は貰ったクッキーをあっという間に食べてしまった。おいしい...もう一度食べてみたいと悪魔は思った。美味しそうに食べる悪魔の姿を見た少女は悪魔に言う。
「まだあるけど食べる?」
「え、いいのか?俺にくれるのか?」
「うん!クッキーもあなたに食べてもらった方が嬉しいと思うよ」
「そうか...ありがとう」
悪魔は人間に礼を言うとクッキーを貰い食べた。人間に礼を言うのは癪だが少女にいうのは悪い気はしなかった。少女と食べるクッキーはとてもおいしくて楽しい特別な時間のように感じた。
やがて夜になり森は暗くなる。夜を告げるカラスの鳴き声に少女は驚き怖がった。
「どうしたんだ?」
「どうしよう...もうこんなに遅くなって...道に迷ったし早く帰らないと...」
少女は不安そうに言った。悪魔はそこで少女が人間であり森に迷い込んだことを思いだした。
「なら、俺が森の出口まで案内してやるよ」
と悪魔は言ったが本当は嘘をついて魂を食べてやろうと考えていた。
「本当!ありがとう悪魔さん」
と少女は悪魔に言った。悪魔は森に迷い込んだ人間に礼を言われたのが初めてで悪い気はしなかった。少女のクッキーは美味しかったし今回だけは特別に見逃してやることにした。二人で歩いていると少女は危なっかしく腕を掴んで案内した。しばらく二人で歩いていると少女が悪魔に話しかけた。
「あの...悪魔さん手を繋いでもいい?」
「手を?別にいいぞ」
「いいの!ありがとう」
悪魔は不思議そうに少女を見た。少女は嬉しそうでしたが悪魔は面倒だったので自分の手を差し出しました。
「ほら...」
「え?」
「手を握るんだろう?」
「うん!」
少女は嬉しそうに悪魔の手を繋ぎ悪魔に礼を言った。悪魔は適当に返事を返す。悪魔は初めてのことに戸惑うが少女の嬉しそうな姿を見ていい気分だった。悪魔は少女を出口まで連れていき少女に言う。
「いいか?ここでその道に行けば帰れるぞ。もう迷うなよ?」
「ありがとう悪魔さん。道に迷っていた所を助けてくれて」
「別に...ただの気まぐれだ。それじゃあな、もう来るなよ」
と悪魔は言うと森に帰ろうとした時少女に呼び止められた。悪魔は何事かと思い振り向く。
「ねえ?悪魔さん。悪魔はさんはいつもあそこにいるの?」
「そうだけどそれがどうしたんだ?」
「なら、また来るね!それじゃあありがとう悪魔さん!」
と少女は言うと走っていった。おかしな奴だ。こんなところに来ようなんて変な奴だ。どうせすぐに忘れるだろう。そう思っていた翌日のこと。昼寝をしようとした時、茂みから音がする。人が来たのかと思っていたら昨日の少女だった。
「ああ...今日も暇だなー。あれ?茂みから音がする。人か?」
人間だと待ち構えていたが少女の姿を見て悪魔は拍子抜けた。
「ああいた!悪魔さんみっけ!」
「お前は昨日の!本当に来たのか!」
まさか本当に来るとは思わず悪魔は驚いた。これが彼女との出会いで、これから多くの時間を少女と過ごすことになることを悪魔は知らなかった。
その日から悪魔の所に少女は毎日訪れるようになった。
「おい、お前なんでここに来るんだ?」
「別にいいでしょ?悪魔さんはどうなの?」
「俺は暇つぶしになるからいいけど...お前俺のことやここがどんな所か知らないのか?」
と悪魔は聞くと少女はけろっと答える。
「知ってるよ!怖いんでしょ?」
「知ってたのか。じゃあ何で来るんだよ?」
「なんでって...だって悪魔さんに会いたいから」
と少女は言う。悪魔は人間に"会いたい”と”自分に会いたい”と言われたことがなく困惑した。
「え...?俺に会いたい?俺は悪魔だぞ、悪い奴だぞ」
と思わず聞いてしまった。しかし少女は気にせず答える。
「そんなことないよ。自分のことを悪いやつだなんて言っちゃだめだよ。悪魔さんは優しいし、いい人だもん!」
「え...俺がいい人...」
悪魔は少女の言葉に再び困惑し同時に嬉しかった。少女といるといつも驚かされる。まるで1000年前の小悪魔たちが生きていた時のようだった。少女は悪魔が出会ってきた他の人間たちとは違うのかもしれない。悪魔を怖がらず優しいと言う...変わっていると悪魔は思っていた。少女といると嫌なことを忘れられて素の自分で過ごせる気がしたのだ。森を守ることを使命とする悪魔は人間には牙を向き、異形たちには優しく接するためいつも気を張っていた。しかし、目の前の少女は気を張る必要はなく普通に話すことができるのだ。
「ねえ...ねえ?ねえ?悪魔さん!」
「ん?なんだ悪い聞いてなかった」
「もうーさっきからずっと呼んでたんだよ。話してたら驚いてたし、私なんか酷い事言っちゃったんじゃないかって...嫌だった?傷ついたのなら謝るね」
「いや、そうじゃなくて驚いただけだ。俺みたいな悪魔のことを優しいだなんていうやつはお前くらいか?変わってんだなーと思ってな」
「そんなことないもん!悪魔さんの意地悪ー!」
「悪魔だからなー」
「なら、せっかくクッキー持ってきたから一緒に食べようとしたけど意地悪な悪魔さんにはあげない!」
「ええ...それは無いだろー悪かったって!機嫌直せよー」
と悪魔は手を合わせながら謝った。悪魔が人間に謝るなどおかしな話だ。普段の悪魔なら絶対に謝らないだろう。しかし少女の作るクッキーは絶品で気に入っており悪魔はそれが楽しみだった。少女に悪魔るのは悪い気がしないので悪魔は謝ると少女は言った。
「なら、悪魔さんのお名前を教えて?」
「俺の名前?なんでまた」
「知りたいから!ずっと悪魔さんじゃ変でしょ?それに私は名前で呼びたいの!お願い、教えて?」
と少女に言われた悪魔は困った。名前など気にしたことがなかったからだ。正直に少女に言うことにした悪魔は名前がない事を告げる。
「名前か...教えてやりたいのはやまやまなんだがあいにく俺達悪魔たち...いや異形たちに名前なんてないんだよ」
「え?お名前ないの?」
「そうなんだ。だから代わりの何かで...」
「なら!私が名前を付けてあげる!」
「お前が名前を?別にいいよー名前なんて面倒くさいだけだし...」
「文句言わない!それに名前は大事なの!」
「分かった分かった!そこまで言うなら...ほらつけてくれよ!」
と悪魔は言った。少女は待ってましたと言う目で悪魔を見る。悪魔は不安になった。つけろと言ったが変な名前を付けられるのではないかと...その予感は的中した。少女は悪魔を見て次々に言う。
「なら..エンジェル!」
「...却下だ」
「いいじゃん!エンジェル」
「...無しだ」
「ダメなの?」
「適当か...悪魔なのにエンジェルは無いだろう」
「ならこれはどう?」
「ありえない!」
「これはどう?」
「なんだデビルって...論外だ」
「いいじゃん!」
「そんな目をキラキラしてもだめだ」
と少女の出す名前にダメ出しを入れる悪魔。そのやり取りは一日続き悪魔の名前は決まらなかった。
「これでどう?」
「...無しで」
「ああー決まらない。それじゃあ最後に..」
周囲を見回すと辺りはもう暗くなり悪魔は少女に声を掛けた。
「もう時間だぞ。辺りも暗くなってる。帰った方がいい」
「本当だ!もう暗くなってる」
「ほら送ってやるからこい」
「うん...帰る...」
いつものように悪魔は少女に手を差し伸べた。少女は悪魔の手を握る。悪魔は少女をつれて森の入り口に向かう途中で少女は泣き出した。急に少女が泣きだしたことで悪魔は混乱する。
「おい、ど、どうしたんだよ?何で泣いて...ほ、ほらクッキーだぞ。クッキーいるか?」
と少女にクッキーを見せようとするが少女は見ようとしない。悪魔はどうしてよいか分からず焦っていると少女が口を開いた。
「めんね...」
「うん?なんて言ったんだ?」
悪魔聞きとることができず少女に聞くと少女は悪魔を見ながら言った。
「ごめんね...」
「何で謝るんだよ」
「だって...名前つけてあげるって言ったのにつけることが出来なかったし、付けた後にクッキーを食べようって言ってたのに食べれなくてごめんね...」
「そんなことか...泣くなよ」
と言いながら悪魔は少女の頭を優しく撫でた。
「ありがとう...」
「泣き止んでくれてよかった。名前ならまた明日でいい。明日が駄目ならまたつぎの日でいい。気長に待ってやるよ。それにクッキーは美味しいがお前と食べるクッキーが俺は好きなんだよ。じゃあ...そろそろ」
と悪魔は言うと少女から手を放そうとしたら少女が悪魔を呼び止めた。少女の視線の先には”フジ”の花と“ヘリコニア”の花が咲いていた。
「ねえ悪魔さん、私思いついたよ!あれだよ。あの二つの花、悪魔さんにピッタリだよ!」
「フジの”優しさ”とヘリコニアの”風変わりの人”っておい!風変わりな人ってなんだよ」
「だって悪魔さんはとっても優しいもん!だから二つの花を合わさって...風変わりな優しい人だから名前は...フジニアってどう?」
「そのまんまじゃないか...おれそもそも人じゃなくて悪魔だし...でもまあエンジェルよりはいいか。フジニアね。まあまあいい名前だ、気に入った」
「よかった!それじゃあ今日は帰るね。クッキー食べていいよ!バイバイ、フジニア。また来るね」
「待て!お前の名前は何だ?俺だけだと不公平だろ?」
「そっか!ごめんね。私の名前は...きさらぎだよ!よろしくねフジニア!」
「きさらぎか...いい名前だな。よろしくなきさらぎ」
「うん!よろしくねフジニア!じゃあもう帰るね」
ときさらぎは言うと走っていった。
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