第15話 二人の父親
「龍くん、ごめんなさい。龍くんにとって無関係なはずなのに、わがまま言って厄介ごとを押しつけようとしていた」
「は、何藪から棒に言ってんだ?」
「だって龍くんにとって私は親友の娘。ただそれだけだから…………」
「そんな悲しいこと言うなよな? オレは星歌の父ちゃんじゃ駄目なのか?」
「え、迷惑じゃないの?」
「もちろん。星歌のためならオレだってなんでもするよ」
言葉通りダイニングで私達が来るのを待っていてくれていた龍くんに私は自分の愚かさを恥じて誠心誠意に謝罪すると、拍子抜けをした表情に変わったかと思えば私の視線に合わせパパと同じ笑みを浮かべさも当然とばかりに言ってくれる。
嬉しくて本気にしたいけれど、だったらなんでパパは龍くんが無関係だと言ったんだろう?
今もちらっとパパを見ると不安と悲しさがいり混じった表情を浮かべていた。
?
「信じてもいいの?」
「当たり前だろう? 星夜、お前何星歌にたきつけたんだ?」
「別に……」
戸惑っている私に何かを察したらしくパパに疑いの目を掛ければ、パパは視線を下にさげなぜかいじけてしまう。
ますます訳がわからない。
「まったく。そんな心配しなくてもお前から星歌の父親の座を奪ったりしないから」
「お前が思ってなくても、星歌はもう結婚するならお前のような人だと言ってるんだよ。そりゃぁ、そうだよな。俺なんてダサくて頼りないしかも娘の事を護れないどうしようもない父親だよ」
原因は私にあった。
しかも相当根が深い。
確かに私の理想は龍くんみたいな人で、覚えている限りパパみたいな人とは言った事がない。
危ないもめ事は頼りないから、龍くんに相談していたのも事実。
それにセンスだって…………。
何気ない私の言動で、パパを前から少しずつ傷つけていたんだ。
「それはつまり星歌は師匠が好きだってことか?」
「………お前は俺からすべてを奪うんだな」
空気の読めない
さっきよりも状況は悪化しているのかも知れない。
「太、お前は黙ってろ。星夜、安心しろ。オレは星歌を女として見てないから。大体お前だって知ってるだろう? オレのタイプは巨乳美女。こんなミルク臭いガキに興味なんてまったくない」
言うまでもなく龍くんは太に容赦のないげんこつをお見舞いし、パパの自信を取り戻すため私のことをなぜかディスりまくる。
女として見ていない。
ミルク臭いガキ。
いくら本心で龍くんにして見たら私なんてお子様だって事は知ってはいるけれども、流石にそれを言葉に出されては傷……苛立つ。
そもそも私は言われるほどもうお子様体型ではない。
去年から女性としても成長していて、バストサイズは現在Dカップ。
まだまだ伸びしろは十分にある。
「イテテテ。星歌、残念だったな」
「うっさい!!」
げんこつ一発では学ばないらしく小馬鹿にされ、私の苛立ちと怒りは限界を超え大噴火。
脇腹に入れた拳はきれいに決まり、太はそのままソファーへ沈み完全にノックアウト。
二度と復活するな!!
この阿呆!!
怒りを大爆発させたら急にお腹が空いて来て時計を見れば二時過ぎで、何か作ろうとキッチンに行くと片隅で小さくなって落ち込んでいる陽を見つけた。
「…………」
「陽?」
「星ちゃん、私龍ノ介さんの事諦めた方がいいのかな? ……巨乳美女じゃないし……」
「陽はどっから見ても美人だし、巨乳じゃないって決めつけるのはまだ早いよ」
当事者の私よりも相当ショックだったらしく、自分の胸を見て深いため息をつく。
すかさず望みがあるとフォローを入れてはみたものの、片思いの大変さを目の当たりにしてしまう。
片思いの相手の理想に自分をしないといけないなんて、私から言わせれば絶対におかしいし面倒くさい。
しかも陽はかなりの美人で家庭的。学内の人気も高い。それでも胸が平均的なだけでも駄目って最早無理ゲー?
そう思ってしまうのは私には片思いが向いていないだけなのか、まだそこまで好きになれる相手が現れていないのかは分からない。
結局私は龍くんの言う通り内面はお子様なのか?
「ありがとう。あ、お昼なら星ちゃんとおじさんの分も多めに作って冷蔵庫にしまってあるから、温めて食べなよ」
「それは助かる。パパも一緒に食べよう」
お昼があることが分かると嬉しくなり冷蔵庫から取り出し準備をしながら、当然とばかりにパパを呼ぶ。
おいしいご飯は元気の源。
お腹いっぱいになれば、冷静な判断も出来る。
「……俺はいい」
それなのに絶賛落ち込み中のパパは元気なく首を横に振り拒否をする。
食欲がないのは落ち込んでいるからだったらまだいいけれど、体調が悪いから食欲がないって事ならやっぱりパパを行かせたくない。
さっきの対戦で体力を相当消耗しているのに、怪我の治療だけで再戦しようとしているなら身の程知らずの大馬鹿者だ。
本当に生き延びるって選択をするんだろうか?
結局私の必死の訴えなんて聞き入れてくれなかったの?
……でももし
本当に前者が原因だとしたらいるからその原因を作ったのは私だから、私の本心を言えばパパは元気になるかも知れない。
「パパは勘違いしている見たいだから言うけれど、龍くんが私の本当の父親が良いなんて一度も思ったことないんだ。だってパパは私の自慢で世界一の父親なんだもん」
「それ本当なのか?」
「本当だよ。もちろん龍くんも大好きだし昔は本気で父ちゃんだと思っていたけれど、その時だって一番はパパで二番は父ちゃんだった」
「だよな。星歌は小さい頃から大のパパっ子で星夜が出張で夜家にいないと、いつも大泣きして寝かしつけるのが大変だったんだぞ」
「ちょっとそれは言わない約束でしょ?」
太はまだ復活していなかったため、再び黒歴史を暴露中龍くんも加勢してくれるもそれはさらなる黒歴史でしかも秘密にしていたことだった。
恥ずかし過ぎて顔から火が出て龍くんをポカスカと殴り怒っているのに、当の本人はへらへらしていて悪気なし。
「小三までの話なんだから良いだろう?」
「良くないよ」
パパは仕事で半年に一度二泊三日の出張することがあって、その時は今でも龍くんとお留守番するのが定番になっている。
でも幼い私はすごい甘えん坊で四六時中パパと龍くんに一緒にいて欲しかった。
特に夜がすごく恐ろしくなってパパに抱いてもらわないと眠れなかったから、出張でいない時はいつも大泣きして暴れて龍くんを困らせていた。
あまりにもそれが辛かったからパパに言おうとしたんだけれど、そうしたら龍くんが真顔で
それを言ったら星夜と一緒にいられるようになるが、その代わり食べ物がなくなるし洋服やおもちゃも買ってもらえなくなる。星夜は星歌のために一生懸命働いているんだからそんなわがままを言ったら駄目だ。
って言われてしまい正直何を言っているのかその時は分からなくって、わがままだと言う事だけは理解した私は龍くんと二人だけの秘密にしてもらったはず。
それなのに今更なんで暴露するの?
「そうだったんだな。淋しい思いをさせてごめんな」
「幼い頃の事だからもう平気。それにそんな事で会社を辞めたら、路頭に迷ってひもじい思いをするのは嫌だったから秘密にしていたの」
「確かに。路頭に迷わせてひもじい思いをさせるわけにはいかないからな。……星歌のおかげで元気が出た。元気になったらお腹が空くもんだな」
「でしょう? すぐ用意するから待っていてね?」
パパは元気を取り戻し食欲も戻ったようなので、結果オーライにしておこう。
お昼は二人前をあっと言う間に食べてしまい、顔色もすっかり良くなり活力もあふれていた。
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