第5話 私の正体?

「みーつーけーたー」


『え?』


 今まで聞いたことがないなんとも言えない耳障りの悪い声が聞こえ、視線をそこに向けると人間ではない人型の蛙のような者が視線に入る。

 さっきまで私達を追っていたいやな違和感…………。


 これは夢?

 私はいつの間にか寝て……。


 バシュン


 風を切りさく音がしたと思えば、ほほに熱を感じる痛みがする。


「血?」


 ほほに手で触れ見ると、ねっちょりとした嫌な感触


「キャー」


 私を見るなり陽は悲鳴を上げ顔から血の気が引き気を失い、私も今まで感じたことがない恐怖を感じ全身の震えが止まらなくなる。


 何が起きているのか分からない。

 私はここで死ぬの?


「おまえの器で魔王様は復活すると、親分は言っている。おいらおまえの身体を親分に差し出す」

「は、魔王復活になんで私が必要なの?」

「おいらには関係ない」


 どうやら見た目通りこの蛙男は雑魚キャラでラノベであれば誰にでも倒せそうな物なのに、現実はそんなに甘くはないようで私は恐怖に怯え逃げ出すことさえ出来ない。


 雑魚キャラよりも弱い私は最弱小キャラ……。

 そんな最弱小キャラの私が、なぜ魔王復活のための器?

そもそもこの蛙男とか魔王って、この世界は一体いつからファンタジーワールドになったのだろうか?


「ねぇ私だけが必要で連れて行けば、この子は関係ないから解放してくれるんだよね?」

「それは違う。その人間はおいらの顔を見たから殺す。みんなおまえと似てるから悪い」

「!!」


 恐怖に怯えていても声は思い通りに出るようなので無関係であろう陽だけは助けたかったのに、知らない方が良かった真実を知ってしまい恐怖が罪悪感に変わり押しつぶされそうになる。


 最近起こっていた残虐事件の原因はすべて私。

 私を探すために無関係な人達が殺害されて、しかもその人達は未だに身元不明。

 こんなのってあんまりだ。


「おいらには人の顔を見分けられない。でもおまえは違うおいら達と同じ魔族の臭いがする。なぜだ?」

「そんなの私が知るはずがない。魔族って何? あなたどこから来たの?」

「おいらの世界はトゥーラン。ここへはゲートを潜ってやって来た」


 蛙男が馬鹿正直なのか知っていることをちゃんと答えてはくれるも、聞いたくせしてその現実を受け止められずにいる。


 受け止めてしまったら私は人ではないことになって、だとしたら私はお父さんの子ではない?


 …………。

 そうだよね?

 改めてよく考えると私がお父さんの十五歳の時の子って言うのは、あまりにも嘘くさいことなんだよね? 

 龍くんならまだしも、あのお父さんが中学生で経験済みとかありえない。

 蛙男の言うことが本当だったとしたら、私はトゥーランって言う世界の魔族で日本に繋がるゲートを事故かなんかで潜ってしまい、その時困っている人を見るとほっとけず手を差し伸べてしまう人の良いお父さんに拾われ育てられた。

 二歳の時家が火事になってお母さんが死んだ事にしているのは、それ以前の私の写真がないからそのための嘘。

 うん、そう考えると辻妻があって納得が出来る。


本当にお父さんはどうしようもないお人好しだな。

「おとなしく言うことを聞くから、この子だけは助けて欲しい」


 今の私に唯一出来ことは、無関係の陽を助けること。

 陽はいつだって私の味方になってくれる大切な親友だから、私のせいでもう誰も死んで欲しくない。

絶望するのは陽を助けた後にしよう。


「駄目だとさっき言ったはずだ」

「なら私はあなたには従えない。私が魔王復活のための器なら生かして連れてこいと命令されたんじゃないの?」

「言われてない」

「…………」


 私の秘策は呆気なく崩れ落ちる。

 

 魔王復活の器にするのなら、普通生贄なんじゃ?

 最後の最後まで天は私に味方してくれない。

 私が魔族だから神にさえも見放されたとしたら、今度こそ絶体絶命…私は陽に何も出来なかった。


「だからそいつも言うことを聞かないおまえもここで殺す。嫌だったらおとなしくおいらに従え」

「そんなの絶対に嫌」


 最後の警告を突き付けられるけれど、私の意思は変わらず強い口調で断固拒否。

 

「だったら仕方がない。おまえから殺す」


 当然しびれを切らした蛙男の周囲には無数の青い刃が生まれる。

 不気味でどんよりとした殺気を漂わせ、さらなる恐怖を感じ私はとっさに陽をかばう。

 初めて見る魔法と言う物は、地獄へのカウントダウンだった。


 指を鳴らすと青い刃達は私めがけ勢いよく襲ってくる。


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