二の十 好奇心への好餌 〜門前〜
高圧洗浄機ケルヒョー(仮)の動作確認を済ませ、正規代理店にて、七・五メートルのパイプクリーニングホースを発注した。
さて。
ホースが来るまで数日掛かるがその間に予習をしよう。
モノが来たら即使いたい。
先日の検索結果には、『高圧洗浄機で排水管掃除』なる動画も出ていた。
実際の作業動画を見れば、工程がよく分かるハズだ。
一つ目の動画は、飛ばして途中から見始めた。
作業工程を覚えるだけ、ぜんぶを観る必要はない。
美しいモノならばともかく、汚水や油脂の固まりが出てくるようすを眺めていたいとは思わなかった。
我が家ならば必要に迫られて仕方なく開けるにしても、汚水枡の中には汚泥が詰まり、排水管からは油脂の固まりが出てくるのだ。
顔を顰め、鼻を押さえつつ、予習だからと己を奮い立たせて観た。
なんとなく雰囲気は分かったが、もう一つ観ておこう。
二つ目に選んだ動画に、しかし釘付けになった。
候補に出てきた中から偶然選んだ水道業者の動画だった。
動画は汚水枡のフタを開けるシーンから始まる。マイナスドライバーで開ける例のフタだ。
中はこちらもおなじみとなった塩ビの排水管パイプ。あまり深くはなく、緩く湾曲している。汚れた水が高速で流れ、蛇のように細長く自在に曲がるホースが内側に吸い込まれていく。
画面は台所シンクの排水口に排水の間に合わない水が溜まっていく様に切り替わり、タイトルテロップが入る。
わずか二十秒で引き込まれた。
プロフェッショナルの仕事を覗くワクワク感。
汚れに対する嫌悪よりもプロの手際を観たい欲が勝った。
動画は本題に入り、台所シンクの通水確認から、外の汚水枡の確認と進む。
シンクに近い方から三箇所の汚水枡を点検し、油脂汚れの付着具合を見て、排水管の高圧洗浄の施工を決める。随所に入るテロップでの説明が分かりやすい。
柔らかに曲がる灰色のホースを汚水枡から排水管に挿入、数十センチ入れたところで、高圧洗浄開始。
透明な水は、あっという間に灰色と黄土色の中間のような色に変わる。ねっとりと粘度を感じさせる色味。
ホースの出し入れを繰り返し、洗浄位置を変えながら、やがて本丸に辿りつく。
どかっ。
排水管を丸々塞ぐほどの大きな固まりが流れ落ちた。
我が家の汚水枡洗浄でも見た、油脂の固まりだ。
白と黄土色の組み合わさった独特の色味は、ほとんど同じ。
ごくり。
アレが、床下排水管に巣くっているというのか。
そして。
この作業を素人がやるのだ。
業者の手管を盗むべく、集中した。
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