炎上? 延焼。
先日のコラボからおよそ1週間ほどが経過し、暦は7月に突入した。
初の大人数(4人)でのコラボだったから、直前まではいろいろ不安だったけど、結果としては大成功だったと言えるだろう。少なくとも、自分的にはね。
ゲームの勝ち負け関係なく、プレイしてる側としても楽しかったし、視聴者にも楽しんでもらえてたみたいだ。
コラボ後に自配信のコメントを遡って見てみたけど、想像していた以上に好意的な反応が多かった。
ちょっとずつ、ファンの皆には受け入れてもらえていってるのかな。
一緒にコラボしてくれた『アイキュー部』の3人にも楽しんでもらえてたと思う。
やっぱり、自分だけ楽しかったじゃあ、良くないわけで。コラボ相手も含めて全員が『楽しい』を共有できてこそ、だとそう思う。
みんなとは歳も結構離れてるし、どうなることかと思っていたけど、ぎこちなかったのは最初だけで、あとは年齢の壁なんて誰も気にもせずに自然と会話できていた。
まぁ、コラボでやったマーダーミステリーという推理ゲーム事態が会話で成り立つゲームだからこそ、だとは思うけどね。
プレイヤーとして参加していた井川君と円さんとは割りと打ち解けることができたけど、GMとして進行役を勤めてくれたミサキさんとはあんまり会話できなかったな。
だから、今度またコラボする機会ができたら、自分から積極的に会話しにいこうとそう思った。
そして、できるならこのメンバーで年末コラボチームを組んでくれないだろうかと。
……その時はそう、思っていた。
◇◇◇
「うーん……」
夏の暑さが本格化して、気温がぐんぐん上昇していき最近ではもう30℃越えも当たり前になってきた今日この頃。
現実の暑さが影響したのか、インターネットの世界にも熱が蔓延していた。
とは言っても、熱を帯びているのはVTuber界隈だけであり、興味を持たないごくごく普通の一般人にとっては何も影響はないのだが、この界隈に身を置いている自分にとっては大いに影響があった。
ましてや、熱源に近い位置にいるのが、何を隠そう俺自身なのだから。無視できるわけがなかった。
原因はこちらのネット記事。
【『アイキュー部』 3人組個人VTuberユニットに早くも解散の危機か?】
俺と『アイキュー部』の4人コラボが無事に終わり、数日ほど経ったある日、こんな記事がネット上に上がった。
『アイキュー部』と『解散』という文字に目を奪われた俺は、すぐさま中身に目を通した。
そこには、メンバーである3人についての説明と、それぞれに最近起きた出来事が記載されていた。
それも悪い意味で注目を集めてしまうような内容ばかり。
【井川#111 不登校中の中学生であることが判明!!】
【伊崎ミサキ 正体隠匿系ゲームにてゴースティング疑惑】
【一円 前世は「Met a Live」を引退した猫又イスナか?】
年齢バレと不登校疑惑の井川君。
ゴースティング疑惑が浮上したミサキさん。
元有名企業Vではないかという疑いの円さん。
3人とも、俺とのコラボ後に自分たちの配信でこれらの疑惑が浮上してしまい、記事としてまとめられてしまったみたいだ。
タイミングが悪いというかなんというか。
まるで3人を狙い撃ちしたかのような内容に、何かしらのネットの悪意が働いたのかとも邪推したけど、どうやら配信事故のようなものが不運にも立て続けに起きてしまっただけのよう。
記事の中身に触れていこう。
まず最初の小見出し、井川君は不登校中の中学生ではないか?という内容。
いろいろと謎というか、明かしていないプロフィールが多いことで、ミステリアスな一面もある井川君。
そんな秘密を暴こうとファンの一部が行動した結果、実年齢に繋がる情報をうっかり滑らせてしまったこと。そこから芋づる式に明らかになったのは、井川君が現在、不登校なのではないかという疑惑だった。
これに関して言えば、記事の見出しで不登校であるのがまるで真実であるかのように書いているのが大げさだというのが所感。
年齢が判明しただけで、学校の祝日が重なったとか、通信制が学校に通っているとかを考慮していないのに平日に配信してたからという理由で不登校を確定事実かのように扱っている。
タイトルで釣って話題を大きくしようという悪意が見える印象だ。
不登校だってイジメを受けているとか、家庭の事情でそうなっている可能性もあるわけで、一概に悪いように扱うのは間違っていると思う。
この記事から読み取れたのはこのぐらいだった。
続いてミサキさんのゴースティング疑惑について。
ゴースティングとは、対戦相手の生配信を見ながらプレイすることで、自分有利に展開を進めようとする不正行為で、eスポーツの大会などでは一発BANの対象に成りうる背信行為のことだ。
俺は実際に見たことはないけど、バトル・ロワイアル系のゲームや人狼系のゲームでは特に忌避される行為であり、今回ミサキさんがゴースティング疑惑としてやっていたゲームは、その人狼系のゲームであった。
ざっくり記事内容を噛み砕くと『接続切れのトラブル対応で他視点を確認』→『トラブルが解決したのでゲーム開始前に他視点を閉じたが、他視点の声が自配信に載っていた』→『ファンが疑問視したものの説明がなかった』という流れ。
記事内容を見る限りだと『他視点を見てゲームを自分有利に進める行為』はやってないんだろうなとは感じた。
まだ該当の動画は見てないからなんとも言えないけどね。
確かに、視聴者や対戦相手に『トラブル対応で他視点を見ます』と公言する、もしくは対戦相手に確認してもらっていればまず問題にすらならない話ではあるから、ミサキさんに落ち度はないとは言えない。
自分の対応が不味かったという自覚があるからこそ、彼女もその点については謝罪しているが、ゴースティングについてはやっていないと断言している。
伊崎ミサキは人狼ゲームを得意とするプレイヤーだ。
そんな彼女がゴースティングをやっているとは思えないし、メリットもないだろう。
配信者相手じゃなく、ゴースティングし得ない一般人相手でもその推理が衰えることがないことは、彼女のファンであれば誰もが知っていること。
記事へのコメントを眺めてみても、擁護派の声の方が大きいように見える。
『お嬢がゴースティングやってるわけない』『動画見てる人なら彼女がGやってないってわかるだろ』『記事にしなけりゃ何も問題にすらならなかったのにな』
これは、彼女の人望と信頼の厚さが如実に表れているような気がする。
やっぱりこの記事の内容にも違和感がある。
コメントにもあったように、記事にしなければ問題にならないくらいの話のようにも思えるからだ。
だからやはり、違和感がある。
そして、この記事の中でいま一番V界隈をざわつかせているのが、円さんの転生疑惑についてだ。
猫又イスナ。
それが彼女の転生前の姿だというのがその内容だ。
転生というのは一般的な概念の話ではなく、配信をしていた人(VTuberを含む)が活動を休止、もしくは引退したあとに新しい姿と名前で活動をスタートすることを意味する。
俺はその人については何も知らないけど、少し調べてみただけでVの黎明期を支えてきたすごい人物だということがわかった。そして、ネットの悪意に追い詰められてしまったということも。
もし、もし仮にこの記事の内容が本当なら、やはりこの記事には違和感しかない。
VTuberは前世があったとしても、ファンはそれに言及しないという暗黙のルールがある。
マナーというか、ネチケットみたいなものだ。
それを、この記事は明確に犯している。
まぁ、最近はあまり気にしない人も増えてきたみたいだけど。
でも、やっぱり俺は間違っていると思う。
そんな俺の考えと同じ意見を持つ人も多いようで、記事にはさまざまな意見が書き込まれていた。
『イスナちゃん、ずっと探してた!!ありがとう!!』『この記事書いたやつ誰だよマジで』『とりまこの3人チャンネル登録しといたわ』『こんな記事だしていいのか?』
肯定派も、否定派も入り混じる荒れた、ネット記事のコメント欄。
そして──。
その傍らでなぜか俺のツヴィッターのコメント欄も荒れていた。
『お前がコラボとかしなきゃこんなことにはならなかった』『数字ある程度持ってるやつが変に絡むなよ』『お前にしか解決できない』『これ以上3人には近づかないでください』『◯ね』『3人を助けてあげて!!』
3人と直前にコラボした俺に、火の手が近づいてきていた。
コメントの意見は大きく分けて2つ。
ひとつは『お前が絡んだせいで、3人の注目度が上がって記事に晒された』という内容。
かなり八つ当たりに近い話だとは思う。
4月の俺だったらまだしも、今の俺はそんなに注目されていないはずだから。
批判をぶつけやすいところに声をぶつけてきた。そんなところだろう。
この意見は、無視していい。
2つ目は『この騒動はお前が解決しろ、するべき』という意見。
彼女たちは、俺と同じく個人のVTuberだ。
会社の後ろ楯もなく、炎上したら個人で解決するしかない。
友人が多ければ助けてくれるかもしれないけど、いなければ4月の俺のようにただ耐えるくらいしか取れる手段がない。
ミサキさんは交遊関係が広いと聞くが、他2人は他人とコラボしている様子もあまり見たことがない。
だから、耐えるしかない。
3人はいま全員違う形で注目を集めている。互いに擁護し合うのは火に油を注ぐ行為だ。
取れる手段は限定的で、外から差し伸べられた手を取れればベストだろう。
直前にコラボした俺が、いま、3人に一番近い位置にいると言っても過言ではない。
だから、俺に事態解決を求める声が集まっている。
「……どうするか」
こういう時は、自分を守るためには騒動に近寄らないのが第一だ。
下手に近付けば、自分を巻き込んで余計に燃え上がりかねない。
そう、4月の俺を皆が遠ざけたように。
自然と沈静化するのを待つのがいい。
俺も3人から一定の距離を保って静観していればいい。
対岸の火事だと、そう思って川辺で寝そべっていればいい。
そう、思えればいいんだけど……。
『3人を助けてあげて!!』
「……」
そのコメントに心を動かされたわけではない。
たまたま今、目に入っただけ。
俺はこの状況で、3人を無視して無邪気に配信ができるだろうか。
自分にしか解決できないと言われて、それを無視したまま、楽しく配信できるだろうか。
「……いや、無理だな」
なんのためにVになったのか。
なんのために
彼らのように、心の底からゲームのを楽しみたいからじゃなかったのか。
俺が憧れた皆がいま苦しくて、外から差し伸べられる手を待っているのなら──
──俺は、迷わず手を伸ばして、皆を救ってあげたい。
そうじゃなきゃ、Vになった意味がない。
誰かに言われる間でもなく、俺はこの手を差し伸べよう。
「……よしっ!!」
パソコン画面を開き、チャットツールを立ち上げる。
そこには、コラボ相手のアイコンが並んでいた。
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