マダミス エンディング
◇◇◇
投票フェーズ→エンディング
◇◇◇
3人は議論に議論を重ねた結果、この事件の犯人が行方不明のメナシ家次男──カズトであると結論付けた。
その瞬間、屋敷の2階から物音がした。
どこかの部屋のドアがキィーっと開いた音だ。
音が聞こえたのは執事の部屋がある方向だった。
まさかと思い、1階のホールから吹き抜けを通して3人が2階を見上げると──
──そこには、人間の眼球がひとつ浮かんでいた。
眼球は1階の3人をしっかりと、その目に焼き付けるかのように捉えていた。
「そうだよ……僕が父さんを浴槽に沈めて殺した」
声が聞こえた。
その声は、浮かんでいる眼球のあたりから発せられたようだった。
アキトとトーカにとっては聞き覚えがあり、スバルは聞いたことのない声。
3人の中で真っ先に我に帰ったアキトが眼球に向かって問いかける。
「まさか……カズト、カズトなのか!?」
「そうだよ、兄さん」
アキトの問いに、眼球はしっかりと答える。
「お前……いままで何処で──」
「──この1年間、そこにいる
3人の側にいたナトリが2階へ向かって黙して一礼する。
ナトリは火事で屋敷が全焼してから再建されるまでの1年間、密かにカズトを匿っていたという。
なぜカズトが生きていることを隠していたのか。
そしてカズトのあの姿は一体なんなのか。
聞いてみても、すぐには答えてくれそうにない。
「お父様を殺したのは、本当にカズトお兄様なの?」
トーカは、信じられないとばかりに疑問を投げ掛けた。
眼帯で覆われた両目は、それでもまっすぐに声の方角へと向いていた。
「ああ、僕が殺した」
「なぜ? お父様はカズトお兄様の病弱な体質を治療していたはずなのに……」
感謝することはあっても恨むことはないんじゃないかと、そう言いたげなトーカに、少し怒気をはらんだ声音でカズトが返答する。
「治療? それは違うよ、トーカ。僕は父さんの人体実験に、ずっと付き合わされていたんだ。『体の色が戻る薬』を投与してもらう代わりにね」
「『体の色が戻る薬』?」
「父さんは『還元薬』と、そう呼んでいた。この薬を投与してもらうことで僕は『普通の人間』として生活できていたんだ。薬がなければこのザマさ。『右目以外が無色透明の透明人間』。それが僕の本当の姿だ」
そうしてカズトはメナシ家の秘密を語り始めた。
メナシ家は『透明人間』の一族であるということ。
そして、メナシ家が『完全なる透明人間』を生み出すという宿願を持っているということを。
「僕のこの左目は見えない。これは眼球が無色透明だからだ」
眼球は光を屈折させて像を結ぶことで脳に映像を伝える。
無色透明の眼球は光を素通りさせ、像を結ぶことがない──つまり目が見えないのだ。
『完全なる透明人間』とはその目が見えないという欠点を克服した『両目以外が無色透明の透明人間』のことであった。
メナシ家当主であるメナシトーヤは、宿願を果たすため人体実験を繰り返した。
自らの子どもさえも、対象として。
「父さんが聞いてもいないのに語ってくれたよ。兄さんと僕は『右目だけが無色透明の普通の人間』と『右目以外が無色透明の透明人間』の双子の兄弟として生まれた。でも本当は『両目だけが無色透明の普通の人間』と『両目以外が無色透明の透明人間』として母さんに生ませたかったみたい」
我が家の宿願を果たすためにね、とカズトは言葉を続ける。
「なぜ失敗したのか。それを調べるために生まれたばかりの兄さんの『無色透明な右目』をサンプルとして
皆が自分の出自の真相に息を飲む中、カズトは淡々と事実を語る。
「でもね、父さんは知らなかったんだ。本当はトーカが双子として生まれていたことを。そして『両目以外が無色透明の透明人間』として生まれた子どもを母さんが女使用人に預ける形でその存在を隠したことをね」
2階に浮かぶ眼球がたった1人を視界に捉えた。
「それがスバル──キミなんだろう?」
「……そういうこと、だったん……ですね」
スバルがどこか、納得したようにカズトの言葉を反芻する。
スバルは、トーカの双子の姉。メナシ家の長女だったのだ。
自分が何者なのかを探していた少女は、ここに解を与えられた。
「母さんは、父さんからスバルを守るために自分の子どもとしてではなく、女使用人の子どもとして育てさせた。父さんから還元薬のレシピを盗んで女使用人に渡してまで。レシピを母さんが盗んだことを知った父さんは、母さんを強く殴った。それが今から11年前。これが母さんが植物状態として寝たきりになった事件の真相だ」
次々と明らかにされていく真相。
そして、矢継ぎ早に知識を語る──そう、まるで自分の死期を悟っているかのように何か焦っているカズトに、3人は少し疑念を抱く。
「スバル、こんな兄からの忠告だ。還元薬は、飲み続けるといずれ目が見えなくなってしまうかもしれない。将来、その光を失いたくないなら、飲み過ぎには気をつけた方がいい」
「え?」
「実験に協力させられていたせいなのか、それとも還元薬を飲み続けてきたせいなのかはわからないが、ここ数年、僕の目は霞んで見えなくなってきたんだ。だから──」
──完全に目が見えなくなる前に、皆の顔が見れて良かった。
カズトがそう言い終わった、その時だった。
ボワッという着火音とともに屋敷の至るところで火の手があがった。
「なっ!?」
「きゃっ!?」
「一体なにが……っ!?」
驚く3人とは対照的に、カズトは前もって知っていたかのように全く動じていなかった。
「
「カズトは、カズトはどうするんだよ!?」
アキトは火に怯えながらも、しっかりとカズトを目で捉える。
「僕は、この屋敷と運命を共にするよ。それが、父さんを殺した僕のせめてもの償いだ。メナシ家の宿命は、今日ここで僕が断つ」
「っく、火が!?」
それを聞いて2階へ上がろうとするアキトを、這いずる炎が遮った。
「アキトお兄様!? 熱いっ!? 一体何が起きているんですか!?」
「これ以上は危険です!!」
眼帯で両目を覆ったトーカには、何が起きているのか理解できていなかった。
スバルは声をあげ、もう時間がないと叫ぶ。
もはや屋敷内は煙で視界が悪くなり、屋根が崩れかけていた。
カズトを救うことは叶わず、3人と男執事は逃げるようにして屋敷を後にした。
1人残った屋敷の中で、眼球は静かに涙を流す。
それは煙を吸い込んだことによる防衛反応か、それとも溢れだす感情がもたらすものなのか。
カズト以外に知るものはいない。
「……本当は、スバルも含めた家族みんなと一緒に暮らしたかったなぁ」
霞む瞳で見た夢は、焼け崩れる屋敷の中で誰の耳にも届かないまま掻き消されていった。
◇◇◇
エンディング→振り返り&ポイント集計
◇◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます