起『承』転結 ~コラボまでの道のり~
現状把握
──なぜ?
最初に思い浮かんだのは、そんな言葉だった。
1年間放置していたツヴィッターアカウントでVTuberとして活動することを発表した途端、炎上した。
チラッと覗けば、俺の呟きの下は非難のコメントで溢れかえっていた。
『すり寄りキモいわ』
『転生か?』
『草も生えん』
『こういうのはやめてほしいなぁ』
『どうせすぐ辞めるんだろ』
『炎上商法ですかぁ』
『このひと不倫したんだっけ?』
『いやまじふざけんなよ』
『ドン引きですわ』
「予想はしてたけど、それ以上に反発がすごいなぁ……」
批判が来ることは、ある程度予想できていたこと。多少のダメージは覚悟の上でこの世界に足を突っ込んだつもりだった。
けれども、想定以上に『否』が強かった。
拒絶。嫌悪。疑念。嘲笑。怒気。
様々な感情の渦がそこにあった。
ただ、ひとつ確かなことは、そのほとんどすべてがマイナスの感情であるということ。
「それに……」
メインチャンネル登録者数:20万人
メインチャンネルの登録者数が半減している。個人的には、今タイムラインに流れている非難の嵐よりも、こっちの方がダメージが大きい。
メインチャンネルを再稼働する気持ちは今のところないが、それでも、その登録者たちは自分の自信の源でもあったし、サブチャンネルでコケたとしても安心できる後ろ楯でもあった。
サブチャンネルを作る際に、つい最近見たメインチャンネルの登録者数は40万人はいたはずだった。1年前よりも減ってはいたが、それでも40万人いたことは確かだったはずだ。
何年もかけてワオチューブで活動して積み上げてきたファンたち。
それを、たった1日で半分も失うことになってしまった。
──なぜ?
最初に思い浮かんだのは、そんな言葉だった。
転生に対するヘイトにしては、やや大きすぎると思ったから。
なぜだ。
自分の知らないところで、何かおかしなことになっているんじゃないか?
そう思ったからこそ、エゴサというものをしてみた。
エゴサーチ。自分が世間からどう思われているのか、どんな意見があるのかを知るために調べることを指す言葉だ。
エゴサをすると嫌が応にも自分に対する批判コメントが目について落ち込んでしまうため、あまりしないようにしていたのだが、今回ばかりは調べずにはいられなかった。
すると、なぜこうなったかがおぼろげながら見えてきた。
1、指宿アキラは年齢による衰えから、メインスタイルである難しいゲームやらなくなって人気が低迷していた
2、指宿アキラは不倫をしたことで1年前に活動を休止した
3、不倫したという不祥事を払拭するためにVに転生した
こうなっているらしい。
遡れば、それは1年前のオレの呟きが発端となっていた。
──────────
すみません。
さきほど、妻と子供に怒られまして、自分自身深く反省しているところです。
詳細はここでは言えませんが、少しの間、動画投稿を控えようと思います。
楽しみにしてくれてた方は申し訳ございません。
一旦落ち着こうと思います。
──────────
この『妻と子供に怒られた』という表現と、そのあと1年間一切の発言をしなかったこと。
これによって『怒られたこと』が、かなり大きな失態だったのではないかということになり、俺が所帯持ちであることを公言していることからありそうなのが『不倫』ではないか、という結論になったらしい。
結論が飛躍しすぎだろう、と思う気持ちはある。
ただ、自分のメインスタイルが限界だったという考察は当たっていた。視聴者目線からも、当時の俺は無理をしていたように見えていたらしい。だからあの時、あのタイミングで活動を休止していてよかったと、結果論だが思っている。
一部でそういった事実が含まれているからこそ、その考察が共感を呼び、最終的な結論も支持されているといった印象だ。
第三者からすれば俺が不倫したかどうかなんて合っているのか間違っているのかなんてわからないけど、一連の流れをみれば、説得力のあるように見えてしまう結論だからこそタチが悪いし、それを支持する人も多いのだろう。
世間からすると、俺は『不祥事によるイメージを払拭するためにVに転生した元ワオチューバー』という評になっているようだった。
完全に誤解というか曲解であることには間違いない。
ただ自分に非がないわけではない、とも思う。あんな意味深な呟きを残してしまったこと。そのあと一切の情報を更新しなかったこと。この辺りが、『不倫』という疑惑に説得力を持たせてしまっている原因でもあるからだ。
もうすでに、いくつかの情報まとめサイトには『指宿アキラは不倫したことで活動を休止せざるを得なかったのではないかという疑惑があり……』みたいなことが書かれていて、ひどいものでは既に事実として語られているサイトもあった。
これは自分が情報を正さないと、『不倫をした』という考察が事実として受け取られ兼ねない。
そう思い、配信の枠を急遽確保した上でツヴィッターの呟きを更新した。
──────────
サブチャンネルにて明日の夜21時に雑談枠取りました。
Vとして活動しようと思った経緯とかお話できたらなと思います。
2時間ほど設けますので聞きたいことがあったらこの際ぜひ。
質問にはできるだけ答えたいと思います。
──────────
明日、自分から正しい情報を発信する。
そうすることで、誤解をしている人たちの疑念を晴らしたい。
そして、俺がVが好きなんだという気持ちを伝えたい。
今はすり寄りに思われているけれどもそうじゃなくて、Vが好きだからこそ、その輪に加わりたいという気持ちをわかって欲しい。
話せばわかってくれるはず。『不倫』という疑惑だって、本気で捉える人はいなくなるはずだ。
このときは、そう考えていた。
──そう考えていた。
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