『僕らの口福ごはん』
駿介
序
いただきます、の前に ※9/12修正
皆様、お初にお目にかかります。
私はとある片田舎で、パートナーと同居しつつ、しがないBL書きを生業としている者です。
今ではこんなかび臭い稼業をしておりますが、元々私は料理屋を生業とする家に産まれました。父が生粋の料理人ゆえ、私にも多少は料理の心得がございます。
BLと料理。
一見すると、少し珍しい取り合わせかもしれませんね。
ですが、どちらも私にとっては人生の大半と言っても過言ではない存在です。
「その二つが融合した作品を自分の手で創り出したい」
それが、かねてより私が考えてきたことでした。
しかしながら、このジャンルにも少なからず先駆者がいらっしゃいます。
そんな中で、いかに自分の持ち味を活かした作品を創り出すか。
悩んでいた折、私はとある本に出会いました。今から数年ほど前のことです。
その名は、『豆腐百珍』。
豆腐料理ばかりを百品集めた本です。
この本は大変なベストセラーとなったようでして、後に続編や他の食材のバージョンも多く出版されました。現代にも大根や卵、甘藷に鯛などを扱った「百珍物」と呼ばれる書物がいくつか伝わっています。
この本が出版されたのは、今からおよそ二百四十年前。
世は天下泰平の江戸時代も中頃のこと。
戦乱とは無縁の時代の中で、市井の人々の間から様々な文化風俗が誕生しました。日々口にされる「料理」も、この時代にかなり現代の和食のそれに近いものに洗練されていくことになります。まだまだ飢えに苦しむ人々も多くおりましたが、都市部に住む町人の中には、日々の食事に「おいしい」と思うものを食べようとする食通の人々が多く産まれた時代だったのです。
そんな世の流れを受けてか、天明年間の一七八二年、大坂にて前出の『豆腐百珍』は出版されました。
当時は今ほど人や物の交流はありませんから、使える食材も調理法も今とは比べものになりません。その中で、これほどまでに知恵を絞ってあまたの料理を編み出した先人たちには、ただただ驚かされる限りです。
幼い頃から、台所は私にとってとても身近な存在でした。
料理人の道を考えたことこそありませんでしたが、日夜様々な料理を見聞きし、いつしか自然と見よう見まねで包丁を握るようになっていました。
そんな私が当時から父に言われてきたのが、「一つの食材を見て瞬時に七品浮かんだら一人前」という言葉。大人になってからその出典を探したのですが、どうやら父が勝手に言っていただけの言葉のようです。ですが、今思い返しても、それなりに理にかなった考えな気がします。
そこで考えたのが、皆様が今ご覧になっているこの小説です。
「百珍物」と前出の考えを掛け合わせ、一つの食材を使って何品も考えていこうという訳です。ただ、百品も考えるのは至難の業ですので「一つの食材で十品」にしたいと思います。それを十種類の食材でやれば百品になりますしね。
かなりズルい気がしますが、こんな感じでゆるーく現代風に解釈しながらやっていくつもりです。
もちろん本職はBL書きですので、ただの実用的な料理小説にとどまらず、その辺の要素もバッチリ盛りこんでいくつもりですよ。細かい変更はあるかもしれませんが、男性二人組を主人公に据えてお話を展開していこうと考えています。
もしよろしければ、どうか最後までお付き合い頂けますと幸いです。
それでは、手と手を合わせて、いただきます。
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