第40話 決着

「コンバットモード、起動」


 ナノマシンを近接格闘モードに切り替え、襲いかかるデストラーデの拳を受け流す。


 カウンター気味に拳を突き刺すも、筋肉の鎧に阻まれ攻撃が通らない。


「……タフだな、あんた。趣味は筋トレとみた」


「チョーシこきやがってっ……!」


 デストラーデの蹴りを躱すと、避けざまに拳を叩きつける。


 ……固い。やはり、この肉体に攻撃を通すのは、相当骨が折れそうだ。


「…………っ」


 息苦しさを覚え、袖で口を覆う。


 シシーによれば、残り活動時間は60分ほど。あれからさらに時間が経ったことを考えるに、残りは30分ほどといったところか。


 対するデストラーデはガスマスクを装着しており、俺と違って時間的制約に縛られない。


 だが、裏を返せば解毒スキルを持ってないことが明らかなため、ガスマスクが最大の弱点だ。


 どうにかガスマスクを外すことができれば、それだけで毒ガスをモロに食らわせられる。


(だが……)


 何らかの武術を心得ているのか、デストラーデの構えに隙はない。


 ガスマスクを奪取、あるいは破壊するだけで、文字通り骨が折れそうだ。


(さて、どうしたもんかな……)


 虎視眈々と隙を伺っていると、デストラーデが苛立ち混じりに椅子を蹴飛ばした。


「だァ! クソっ! なんで当たらねェんだよ!」


 怒りが頂点に達したのか、部屋のものを片っ端から破壊していく。


「俺をコケにするやつなんざ、とっとと死にゃいいのによォ!」


 拳についた血のりが宙を舞い、床や壁に血をつけていく。


 鋼の肉体を持つこの男が、一連の戦いで傷を負ったとは考えにくい。


 まさか……


「機関室にいた奴らもそうだ! この俺に逆らってカイル・バトラーに味方しやがって……!」


「なっ……」


「やっぱり半殺しじゃ収まらねェ! テメェの次は、あのナメ腐ったクソどもを皆殺しだ……!」


 拳についていた血は、やはりゴリやサルのものだったのか。


 俺の中で、沸々と熱いものが湧き出していく。


「……………………」


 懐から銃を抜くと、デストラーデの足元に放り投げた。


「……………………なんのつもりだ?」


「ハンデだよ。次の一発で、お前は倒される。……が、一方的すぎてもつまらないからな」


 俺が肩をすくめて見せると、デストラーデの身体がワナワナと震えた。


「…………いいぜ。そんなに死にたいってんなら、望み通り殺してやるよ……!」


 落ちていた銃を手に取り構える。


 銃口を向けられながら、俺は自分の眉間を指差してみせた。


「…………よーく狙えよ。間違っても仕留め損なわないようにさ」


「余裕こきやがって……その顔、ブチ抜いてやるぜ……!」


 狙いすませるように、じりじりと引き金を絞る。


 緊張感に包まれた空気が、重くのしかかる。


「死ね!」


 デストラーデが引き金を引いた瞬間、辺り一面が爆発に包まれた。






 瓦礫の中から身を起こすと、周囲を見やる。


 爆発の中心地にいただけあって、デストラーデも無事では済まなかったらしい。


 黒焦げになってその場に崩れている。


「バカめ……。ガスが充満してる場所で銃なんてぶっ放したら、爆発するに決まってるだろ」


 倒れたデストラーデをつま先で小突く。


 すでに意識がないのか、ぐったりとその場に倒れたまま動きそうにない。


 ……この戦い、俺の勝ちだ。


 念のため結束バンドで拘束しておくと、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「おいおい、なんだよ今の爆発は」


「大丈夫か?」


「なんとかな」


 先ほどの爆発を聞きつけたのか、ゴリとサルがガスマスク姿でやってきた。


 黒焦げになった船内を見て、親方が呆れた様子でため息をつく。


「ったく、派手に壊しやがって……」


「俺じゃない。デストラーデが勝手にやったことだ」


「バカ野郎、おめェも同罪だ」


 こつん、と親方のゲンコツが俺の頭を小突くのだった。

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