【一章完結】AI使いの冒険者、ドローンとハッキングで無双する ~手段を選ばず金儲けしていたら宇宙一の大富豪になっていました~

田島はる

第1話 クビになるまで

「カイル・バトラー君、ちょっといいかね」


 仕事を終え、俺が部署を後にしようとすると、部長に呼び止められた。


「なんですか?」


「なんですか、じゃないよ。何で帰ろうとしてるんだ」


「いや、もう定時なんで」


「周りの人が残業してるだろ! 手伝おうとかいう気はないのか!」


「僕の仕事は終わったので」


 部長を無視して、俺は荷物をまとめていく。


「だいたいね、キミ。仕事はサボるし、定時には帰っちゃうし、他の人に申し訳ないとは思わないのかね!」


「仕事ならちゃんとやってますよ」


 趣味と実用を兼ねて開発したAIに仕事を丸投げしたところ、仕事の速度が飛躍的に向上した。


 その結果、一人で10人分の仕事量を任されるようになり、いつしか部署の業務を一手に引き受けるようになった。


「自分の仕事だけすればいいってもんじゃないだろ! そういう自分勝手な人間がいると、周りのモチベーションを下げるんだよ!」


 理不尽な物言いに、思わずムッとした。


「お言葉ですが、そもそも仕事が定時に終わらず、残業ありきになっている方が問題ではないでしょうか。仕事の配分を明らかに間違えているとしか……」


 反論されたのが余程気に食わなかったのか、部長の顔が真っ赤になった。


「上司に対してなんて口の聞き方を……。もういい、キミみたいな社員はクビだ! 明日から会社に来なくていい!」






 会社からクビを言い渡されると、重い足取りで帰路についた。


 自宅兼宇宙船に戻ると、自室のソファに身体を沈める。


 これから何をしようか。


 とにかく、何をするにも、まずは新しい職を見つけなくてはなるまい。

 いっそのこと同業他社にでも就職してしまおうか。


「シシーはどう思う?」


 自身の開発した人工知能に尋ねると、機械的な声が答えた。


『前職をクビにされている以上、職歴に傷がつきました。再就職は不利となることが予想されます』


「そうだよなぁ……」


『……ですが、カイルが誰よりも真面目に、真摯に職務をまっとうしたことを、私は知っています。

 どのようなハンデを背負っていても、必ずや成功を収めることでしょう』


 シシーの慰めに、思わず頬が緩む。


 人工知能とはいえ、シシーなりに気遣ってくれているのだろう。


「……ありがとな、シシー」


 シシーの激励を受け、職業診断をしてみることにした。


 目の前にウィンドウが表示され、ネットの職業診断のページが表示される。


 資格や趣味の欄を埋め、いくつかの質問に答えていくと、診断結果が表示された。




 機関士 110ポイント


 ITエンジニア 128ポイント




 通常、100以上が適正ありとされ、200に近いほどその職業への適正が高くなっていく。


 画面をスクロールしていくと、意外な職業が表示された。


「なんだこれ……冒険者……?」


 そこには、脅威の200ポイントという数字が表示されていた。


『冒険者とは宇宙の大海原を探索し、商船の護衛の他、時には宇宙怪獣を討伐する職業です』


「わかってるよ、そのぐらい。っていうか、傭兵と海賊を足して2で割ったような仕事だろ。勧めるなよ、そんな危険な仕事……」


 俺の知る冒険者とは、危険と隣り合わせの仕事だ。運が悪ければ、宇宙海賊の腹の中で一生を終えることもあるという。


 だが、その分稼ぎも良く、資格もいらないため、始めるにあたってハードルが低いのが魅力だ。


 口座に入った貯金が10万ゼニー。


 そして、自分には宇宙船、シーシュポスがある。


 給料のほとんどをつぎ込み、趣味で高出力エンジンやステルス迷彩を搭載した実用艦だ。帝国正規軍に引けを取らない装備も整えてある。


「これだけあれば、今すぐにでも冒険者になれるかな?」


『理論上は可能ですが、口座残高が100万ゼニーを下回っております。万が一船体に損傷が出れば、収支は大幅なマイナスとなるでしょう』


 警告するシシーに、俺はニヤリと笑った。


「心配するな。アテがあるんだ」


 携帯端末を操作して、あるファイルを表示する。


 そこには開発中のプロジェクトを始め、顧客情報や社員の給与明細まで記されていた。


「退職金代わりに会社の機密情報をパクってきた。これを会社に買い取らせれば、いい小遣い稼ぎになるだろ」


『会社を脅す、ということでしょうか?』


「俺をクビにしたんだ。今さら恩もクソもあるかよ。……もし会社が渋るようなら、同業他社に売り払うって手もあるしな」




 後日。会社に連絡をすると、500万ゼニーと引き換えに情報の買い取りを提案された。


 それを受諾すると、今度はライバル企業3社にも同じように触れ回った。


 コピーした機密情報を売り払い、結果として、1500万ゼニーをせしめることに成功するのだった。

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