第15話 瀬戸内海沿岸と太平洋側の気候

 日本海側の気候はだいぶ分かってきた。また復興が進んだくらいのところで観に来ることにする。次は瀬戸内海沿岸の気候を見に行こう。瀬戸内海沿岸は比較的穏やかな気候で、晴れていることが多いようだ。



 実際に瀬戸内海沿岸にやってきた。きれいな海が広がっている。海岸では魚を取っている住民がいる。住居地域の方へ見に行ってみると、女性たちが洗濯や野草などの採集をしているようだ。子どもたちもそれを手伝っている。

 住居の様式は日本海側の地域と同じようだ。この辺りではもう稲刈りが終わって、みんな一段落といったところだろう。先の豪雨は日本海側地域だけで、それより南では雨は降っていないようだ。住民は普通の日常を送っている。

 海で魚を取っている男性たちは手づかみの人もいれば、石槍を使っている人もいる。みんな一家の食糧のために必死になって潜っている。その動きを見ていると、すごく機敏でもうベテランの域に達しているようだ。

 1時間くらいで漁が終わって村の方へ戻り始めた。この後は家で休むのだろうか。流石に疲れていると思うけれども。男性たちが家に着くとすぐに魚を奥さんに渡した。その後はまた家の外に出た。どうやら今度は薪割りをするようだ。今帰ってきたばかりなのに、大変なことだろう。とはいえ文句は言えない立場なのだろう。必死に薪を割っている。



 その間に女性たちは子どもと一緒にご飯を作っている。しばらくして男性たちの薪割りが終わったようだ。また家の中に入ると、今度はゆっくりくつろいで休むことができるようだ。

 男性たちはかなり疲れていたのだろう、ウトウトし始めている。それを見た女性が寝ないように注意していた。くつろぐのはいいけど、寝るのはダメということのようだ。理由は特にないようだけども。

 そして食事が出来上がった。みんなで食卓を囲っている。すごく楽しそうに食べていて、見ているこっちもお腹が空いてきそうになる。食事が終わった後は、しばらく休んだ後にすぐ寝てしまった。特に娯楽もないので起きている必要がないのだろうと考えられる。



 その日の翌日、今日は沿岸部から山間部までじっくりと調査を行う。まずは山間部に行ってみた。瀬戸内海の北側では、山から風が降りてくる形になる。加工気流になるため、雲は発生しづらい。乾いた風が降りてくるので、必然的に湿度は低くなり乾いた空気になる。

 多少の量の雲が西側からやってくるぐらいでは、雨は降らない。降る前に違う場所に移動してしまうからだ。一方で海の南側では海水が暖められて上昇気流を起こす。しかし、ちょうどその上空を偏西風が吹いているのですぐに雲は移動してしまう。その影響を受けない下層の雲はゆっくりと流れるが、その雲は雨を降らすような雲ではない。やはりこちらもすごく発達した雨雲が西から流れて来なければ、滅多に雨が降ることはない。

 では、太平洋側はどうだろうか。太平洋には暖かい海流が流れていて、必然的に海水温は高くなる。それだけ雲が発達しやすい状況になっているわけだ。さらに太平洋から北向きの風が吹いてくる。それが山脈にぶつかるまで北上してくるのだ。つまりそれだけ雨が降りやすい気候だということだ。



 このように、同じ瀬戸内州でも気候には違いがあるのだ。それは現代でも同じことで、この時代からすでに地域による気候の違いがあったのだということがわかった。これも今回の調査における重要な成果である。



 しっかりと記録に残した後、住民の様子を見にいくことにした。太平洋側の地域ではこの時代からすでにお酒を飲む人が多かった。といっても、この時代の庶民が飲んでいるのはどぶろく、濁りのあるお酒だ。

 それでもこの時代においてはかなりの贅沢品になるだろう。お酒を飲めるだけでも幸せなことだと、住民たちは考えているようである。この頃からお酒を飲むと心地良くなって気分が上がることは知られていたようである。しかしどの程度まで飲んでも大丈夫という認識はなく、みんなひどく泥酔した状態になるまで飲んでしまっているようだ。

 奥さんが介抱しながら、寝床まで連れて行った。それはどこの家でも同じようで、いつもの日常になっているようだ。子どもが寝静まった後にお酒を飲んでいて、酔った姿を見せないようにしてはいるようだが。



 翌日になると、あれだけ飲んで酔っ払っていたのに、二日酔いにはなっていないようだ。海に潜って漁をするのだから、二日酔いでは危ないのではないかと考えていた。しかし実際にはすっかりお酒は抜けて、ピンピンしている。分解する酵素が平均よりも多いということなのだろう。

 今日もまた男性たちは漁に出かけた。女性と子どもたちはまた山菜や木の実を取りに行く。毎日それの繰り返しなのだろう。食糧が多く確保できた時は、その次の日は家の近くで世間話などをして過ごすということも分かった。ほとんど娯楽もない中で、子どもたちは貝殻に傷をつけて模様を描いたり、木の実の殻を投げたりなどして遊んでいる。自然の中でうまく遊んでいるようだ。

 自分達で考えて、みんなで遊んでいる。考える力もしっかり育っていることだろう。庶民の生活はさほど裕福ではない。現代と比べると、ほとんど技術が発達していないのだ。それでもこの時代の人たちは今ある環境で幸せを見出しているのだろう。自分の置かれた環境で必死に生きる、これは簡単なようですごく難しいことだ。それを実行できているこの時代の住民は素晴らしい。



 この時代にはすでに石鎚神社が存在している。お伊勢参りも一生に一度は行きたいものとして認知されているが、それよりも行きやすい石鎚には頻繁に登っているようだ。とはいえ山頂まで行くのは修験者でも苦労することだろう。中腹や麓にも別宮があり、その人の都合に合わせて参拝できるようになっている。

 やはりこの時代の人たちは信心深い人たちばかりだ。科学技術が発達していないからこそ、心の拠り所としての宗教は重みがすごくあるようだ。森羅万象が神仏の意思によるものであると強く信じられている。子どもですら信仰心を持っているのだ。きっと心が豊かに育っていくことだろう。

 これからグループになって山頂まで登山するようだ。今はその準備をしているところだ。山登り用の靴として、足をしっかりと覆うことができるものがあるようだ。材質は麻の繊維と蔦の植物を組み合わせで作られているようだ。服装は普段は手足が露出しているものだが、登山用に袖や裾が長いものもあるようだ。

 必要な準備を終えて、みんなで山の麓に集まった。登山道は多少ながら綺麗に整備されている。さすがに舗装はされていないが、ほとんどが平らな道になっている。凸凹していないだけでも十分すごいことだと思うが。



 みんなが集まったところで出発の時間だ。老若男女を問わず参加しているようだ。先頭と最後尾には男性が居て、グループの様子を見ながら動いていくようである。間に子どもや高齢の人を挟んで、疲れた時には手を取って一緒に歩いていく考えなのだろう。

 登山道の脇には所々に休憩できる場所がある。といっても、壁の無いちょっとした休憩所のようなものだが。それでもこの時代では素晴らしいことだろう。適度な間隔で資材を高いところまで運んで、休憩所を建てたのだ。さすがに山頂付近ともなると、慣れている修験者が建てたようだけども。

 最初の休憩所に到着した。みんなで小屋の中に入って、日陰で休んでいる。水分は各自で持ってきているようだ。この時代の水筒は竹の節を活用したものだ。それを2本持っていて、一つは水が入っているようだ。もう一本は木の実を絞って作った自家製ジュースが入っている。



 十分に休憩を取ってから、再び歩き始めた。だいぶ気温が上がっていて、みんな汗をかいているようだ。今のところはグループから遅れをとっている人はいない。みんな頑張って歩いている。

 なんとか中腹あたりまでは来ることができた。もしどうしてもしんどい人がいれば、中腹の別宮を参拝して帰るということも考えていたようだ。しかし、みんな山頂まで行きたいという思いのようだ。

 みんなで励まし合いながら、なんとか山頂にたどり着くことができた。住民の顔を見ていると、達成感で満ち溢れている。ここまで苦労しながら頑張ってきたのだから、当然のことだろう。みんなでその喜びを分かち合っていた。



 瀬戸内州での調査もだいぶ進んできた。その都度文章化して報告書にまとめているが、その分量もしっかりと溜まってきた。これだけ完成していれば、次の地域へ調査に行ってもいいだろう。

 最後に水害に見舞われた地域の復興を見にいくことにした。以前の段階の時にはすでに片付けがほとんど終わっていた。あれからしばらく経ったが、現状はどうなっているのだろうか。

 そしてその地域、瀬戸内州の日本海側にやってきた。豪雨で全てが流されて、緑が全く無くなってしまっていた。今の現状を目の当たりにして、我々はすごく驚いた。経過した時間は2週間程度だ。その短い期間で、すでに緑が復活しているのだ。あたり一面に草花が広がっている。それだけ植物の生命力がすごいということなのだろう。

 住居はどうだろうか。様子を見に行ってみると、すごく綺麗な住居が建ち並んでいた。つい先日、豪雨災害があったとは微塵も感じさせないほどに復興を遂げていたのだ。住民は今まで通りの生活を送っている。その表情を見れば、すごく幸せに暮らしているであろうことは想像に難くない。

 無事に復興を遂げていることが分かり、すごく安心した。これで心置きなく次の地域へ調査に向かうことができる。この復興についてもしっかりと記録に残しておこうと思っている。



 次の調査は関東州だ。この関東州は、21世紀には関東や甲信越、北陸と呼ばれていた地域だ。さっそく関東州へ向かうことにした。

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