第16話 裏サイト管理人

 夕方、部活も終わり最終下校の時間が迫っていた。日中はあれほど人だかりが出来ていた掲示板も今となっては閑散としている。

 だがこんな時間でもバンキシャ部のポスターの前に立っている女子生徒がいた。フードを被り、ロリポップを舐めている。一見見ると高校生には見えない。身長も低く、胸もほとんどないと言っていいだろう。

 だが目つきだけは異常に鋭かった。


「へぇこんなことやってんだ」


 少女は呟いた。いや少女というのは語弊があるか。幼女体系をした女子高生が壁に手を突き、ポスターを握りつぶす。


「でもこれってさぁ、ウチに対する宣戦布告と捉えてオケ?」


 そう言って、舐めていたロリポップを噛み砕くのだった。


 ********


「部長殿、このような記事はどうでしょう」


 岩寺が完成させたポスターを雷伝に見せる。

 バンキシャ部の活動の軌道に乗り始めていた。一週間に一回は新しい記事を掲示する。そのたびに学校を激震させるような暴露や激写を載せていた。

 巷ではバンキシャ砲などと揶揄され、恐れられている一変、楽しみに待ってくれるファンも獲得できていた。特に学校のカースト下位ランカーに受けがよく、バンキシャ部が一矢報いるさまを陰ながら応援してくれている。


「なるほど野島先生のかつら疑惑に切り込む記事か面白いな……ならここをこうして」


 雷伝が岩寺のパソコンを操作し、かつらの毛量を増やした。


「やるならこのくらいダイナミックにやったほうが良いだろう。銀河のようにな」


「部長殿、こちらの記事も完成いたしました」


 次に一風の記事を見る。


「お前これよく取ってきたな」


 それは図書室での生徒と教師の密会を激写したものだった。これはちょっとまずい気が。まぁ問題はないだろう。


「よし採用だ!!」


「部長、その記事って確か……」


 岩寺がパソコン画面をのぞき込む。


「これって学校の裏サイトにも同じのがあった気がしますね」


 ギクっ 

 一風の表情が曇った。


「灯、もしかしてやったな」


「す、すみません。ついネタを探しをしていて、裏サイトの情報を流用してしまいました……」


「まぁ多少は仕方がないが……我らはその足で稼ぐのが仕事だからな。参考程度にしておけ」


「以後気を付けます」


 上場に見えるバンキシャ部。しかしここで一つの問題が生じた。


 ネタ切れである。


 クオリティの低い記事を出してはこの部活のブランドが下がる。

 良質な情報を暴露しなければならない。だがそれには三人という人数では少なすぎる。それに、たかが学校の仲だけではネタなどすぐに尽きる。

 今でも生徒会は寝首を掻こうとその目を光らせているはずだ。休刊が続けば、活動内容の不十分を盾に廃部に持っていくだろう。青橋が雷伝に対して恨みを持っていないわけがない。

 その危機的状況のため学校の裏サイトから情報を取ってきてしまうのも無理ない。ネタ切れという苦難を乗り越えない限り、一風を責め立てることもできないのだ。


「取り敢えず、裏サイトと同じ記事を出すのは禁止だ。それをしてしまったら我らが我らである所以ななくなってしまう」


「とは言っても僕たちがその目で見た情報だけでは無理がありますよ」


 岩寺はそう言うと、バンキシャ部のホームページを開いた。


「そのサイトまだあったのか……」


「ええ、結構使えるので……ここ見て下さい。色々な生徒からかなりリークが来ています。まぁみんな何かしら暴露してほしいことがあるのでしょう」


「どれどれ……」


 雷伝がそのメッセージ画面を見ると、そこには様々な情報があった。


「これを記事にしてしまうのはどうでしょう。それなら読者のニーズに合ったものを提供できますよ」


「まぁこれなら記事にしても問題ないだろうな」


 結論から言おう、問題はだった。


 リークした情報を記事にした翌日、部室の扉がノックされる。入ってきたのは風紀委員会である。

 委員長の弓原ノエルを筆頭に上裸で首輪をされていた筋肉隆々の風紀委員会がずかずかと中に入ってきた。


「な、何事!?」


 驚く雷伝、すぐに立ち上がりノエルの元に向かった。

 そしてなんだこの風紀委員は。この集団が一番、学校の風紀を乱しているではないか。


「ちょっとそこのあなた、それ以上近づかないことね」


 そう言って、ノエルは乗馬鞭をビシッと叩いた。一歩引く、雷伝。その横を全力で駆け抜けていく岩寺。案の定、鞭打ち(岩寺にとってはご褒美)を貰った。


「クーンッ♡」


 その醜態を全員が無視したのは言うまでもない。


「なぜ風紀委員会がここに来たのでありますか」


 一風が問いかけると、数枚の記事が胸ポケットから取り出される。


「この記事よ」


 それはホームページで募ったリーク記事だった。


「それが何か問題でも……もしかして貴様、青橋の差し金か!!」


 雷伝は手刀の構えで身構える。


「いいや、あたしは別にあなたたちの活動に口出すつもりはないわ。この学校は表現の自由が認められているからね。でも……盗作は立派な校則違反よ」


「と、盗作だって」


「これは裏サイトの管理者からの告発。あなたたち同じ記事を使ったでしょ」


「そんな馬鹿な。これは一般生徒からリークされた情報であって」


「じゃあその一般生徒が裏サイトからの情報を横流ししたことになるわね」


 クソ、それだけは気を付けていたのに、確認不足だったか。雷伝はその場で肩を落とした。


「一応、規定により備品は没収とさせていただくわ」


 ノエルの号令と同時に、風紀委員会は生命線であるプリンター、そしてソファ、さらには三角木馬を担ぎ出していった。

 これでは活動が出来ない。まぁ他のプリンターを使えば何とかなるか。雷伝は唇を噛み締めながら、じっと考えるのだった。

 だが最後にノエルから衝撃の一言を告げられる。


「規定により、あなたたちは一週間の部活動停止を言い渡すわ」


「そ、そんな」


 絶望する雷伝、だがノエルは振り返ることなく去っていった。

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