二十三夜 妖婉寮 

〜椛side〜


「わぁぁ‥。この仏像‥」


「げぇ、何これ。お前んち何処かの宗教信仰してるわけー?」


 段ボールの中に詰まれた大きめの仏像を出して見つめる。


 源先生に呼び出され、何かと思えば自宅からの仕送りの段ボールが何個も届いたとの知らせだった。

 流石に俺一人では持ちきれないため、鈴や幸気ちゃん、源先生にも手伝ってもらった。



「源先生まですみません‥。ありがとうございます!」


「いえいえ! こんなに沢山の荷物、持っていくの大変でしょう? 丁度仕事も終わりましたし、お安い御用ですよ」


「先生仕事終わったって‥結構容量良いんですね」


「そんなことありませんよ。今回はたまたまです!」



 そんな会話を繰り返しているうちに向かう先は俺達生徒が寄宿舎として使う寮-

妖婉ようえん寮と呼ばれる建物へと近づいてく。


 暮六高等学校は全寮制なため最低限の荷物だけ所持し、後に仕送りすると前々から言われていたが‥‥。



「わぁ、こんなに沢山の仕送り‥片づけが大変そう‥」


「ですが、春夏冬くんのことを気にかけてくれている証拠ですよ。良かったですね!」


「それにしても仏像ってユニークすぎるでしょ」


「あははは、俺んち色んな人達が居るから‥」


「そう言えば春夏冬くんのご自宅は様々な奇人や妖が住んでいるんですよね」


「はい! 俺が学校に行く時『椛に良いもの送るね〜!』と皆にいわれたのでちょっと楽しみにしてたんです」


「椛に良いものって‥仏像が‥? まぁ、縁起の良さそうなものだけど」



 幸気ちゃんはそう言って彼自身の顔より大きい仏像を不思議に見つめる。すると、隣で段ボールの中を探っていた鈴がとあるものを出した。



「この大量の本‥」


「あ、それはエノクさんからだ!」


「エノクさん‥?」


「うん、魔族と人間の奇人で魔術師なんだ! いつも俺に魔術を見せてくれたり魔導書を貸してくれたりしたんだ」


「ま、魔術師って‥‥」


「わぁ‥本当に色んな人が居るんですね」


「うん、あとは落語家の人も居るし〜霊媒師もいる!」


「‥‥(その中に居る椛お前もやべえよ)」




♫♫♫


 荷物の整理も終わり、源先生と鈴は帰っていった。俺と幸気ちゃんは寮の同部屋で、二人が部屋から出た後彼は俺が寝るベットに寝そべる。



「あ”ー!! づがれ’’だ!!」


「何とか収まった〜! ありがとう、幸気ちゃん」


 お礼を言えば、幸気ちゃんは「別に〜?」と余裕の顔をしていたが頬がほんのり桃色に染まっていた。


 幸気ちゃんって案外照れ屋なのかも。


「お前何見てんの、そんなににんまりした顔しやがって‥」


「ううん〜」


「‥そう、まぁ良いんだけどさぁ。あ、そう言えばこの部屋に住んでるのって僕と椛とあと一人‥誰だっけ?」


「うーんと‥‥確か‥」


 ペラペラとこの部屋の名簿用紙を見て俺は呟く。そこには、タイピングで綴られた見本となる文字で、



『 春夏冬あきなし もみじ

  白玉しらたま 幸気ゆげ

  なばり  純麗すみれ 』



「あ、純麗くんだ!」


「隠‥‥と言うことはあの幼児か」


「でも俺達と同い年だ、やっぱり"見かけによらず"なんだよ」


「けどあいつ、見た目まんま子供じゃん。誰が見てもそう疑うのは可笑しいことじゃないでしょ? それにいつも姿を隠すし探すのに苦労するんだけどー」


「あはは幸気ちゃんも大変だね‥」


 今度マッサージしてあげよう。


「本当だよぉぉ。大変と言えば、さっき椛を追った時‥‥」


「?」


 一体何があったんだろう。


 そんな思いを抱きながら首をかしげる。が、幸気ちゃんは俺から目を逸らした。


「いや、何でもない。取り敢えず、夕食まで時間はあるし他の奴の所行こ」


「じゃあ、鈴の部屋に行こう〜! 鈴は確か‥紺太郎くんと同部屋だよね」


「あーあの、化け狐か」


「ば、化け狐って‥‥w」


 せめて妖狐って言いなよ。


♫♫♫


 ドアが軋む音を立て俺達は部屋から出る。先程荷物を運ぶのに必死で感じられなかったが、天然木のタイルで覆われた廊下の模様が変な形をしていた。


 これ全部、顔に見えるなぁ。

 不気味というか面白いが勝つかも。


 それから柱から木の香ばしい匂いも微かにしてくる。この学校の寮もそれなりに年季は入っているはずだがまだ丈夫で若々しい。



「えーっと‥あいつの所は」


 幸気ちゃんが左右をキョロキョロしていると、


「おーい! 見てくれよ俺の必殺技!」


廊下の声で彼の言葉が遮られた。


「あーもぅ、今度は誰だよ! 五月蝿い奴しかいないのかよ此処」


 幸気ちゃんの声は高くて良く響くなぁ。


 にしても先程の声は何処からだろうか。幸気ちゃんに倣って辺りを見回していると向こうの方で人影が見えた。


「廊下の奥からだ! 幸気ちゃん、行ってみよー! もしかしたら怪異が騒いでるのかも!」


「はぁ?! お前バカにも程があるよ‥。そんなに怪異がわんさか出たら祓い屋も大変でしょー?(第一、あの教師が黙って見過ごす訳ないし‥)」


「でも俺は怪異も妖怪も奇人も大好きだから大丈夫!」


「はぁ‥‥。登校初日で死にかけた奴が何を言うんだ」




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