十四夜 生徒監視室にて (No side) 2

「あ、帰ってきた」


 ショコラが指さした方向を見ると、そこには仕事を終えて戻ってきた源暁、そして彼の後ろに黒いスーツを着こなしている好青年がが部屋の中に入っていった。


(あいつは確か‥‥)


 冷泉は何かを考え込み始めたが、やる気と明るい声が部屋中に響き渡り冷泉の意識はそちらへと集中してしまった。

 

「皆さん、ただいま戻りました! いや〜、クラスの皆さん本当に良い人達で良かったです!」


「おー! 新入りおかえりー!」


「はい! ライヒェ先生ただいまです!」


 帰ってきた彼をライヒェは、"先生"ではなく"新入り"と呼んでる。本人曰く、唯一1年生に関わる教師が暁だけ年下であり後輩だからだそうだ。


 戦闘癖せんとうへきがある癖に、一応後輩には先輩らしい所を見せたいのだろう。


(全く、ライヒェのそう言う所は良いんだが‥‥)


 冷泉は暁とライヒェが会話している姿を見ながらそう感じた。


 しかしそれと同時に、時が過ぎればその考えは直ぐに無くなるか。と否定的な考えも過ぎった。


「ライヒェは、一度決めても直ぐにすっぽかして忘れてしまう。‥‥はぁ、これでは暁先生新任に対して凶暴になりかねない、時間の問題だ」


「まぁまぁ、良いじゃないか。ライヒェもこれで暫くは落ち着くと思うし」


だろう? その期限が過ぎたら見てみろ、何人ものの教師がズタボロで帰ってきたか。黒鳥お前も分かっているはずだ」


「それはそうだけど‥‥。それもライヒェの優しさと考えれば良いんだよ」


「あの怪力野郎の何処に優しさもクソもあるか!!」


(ほんっとに、黒鳥お前は甘やかしすぎるな‥‥!)


 拳をギュッと力強く握りしめ、その無駄に綺麗なエメラルドグリーンのヘアをぐっしゃぐっしゃにしてしまおうかとも冷泉は考えた。本当に、柯楓の"心の広さ"は少々冷泉に対する投げやりにも感じてしまうくらいだ。


 冷泉は、彼に気づかれないように睨みつける。その先でショコラと柯楓がコソコソと話し始めた。


「あいつ、直ぐに忘れるからね〜。前世鶏だったんじゃない? 色合いも肌以外似てるし」


 鶏とショコラが発言し、柯楓は思わず吹き出しそうになった。いつも筋トレや体術など、アクロバティックな動きを行う彼のイメージは逞しさを印象付ける虎やライオンなどが物凄くお似合いだろう。


 その程よくつけられた筋肉ボディは、柯楓の細く皮しかない身体からすれば健康体で羨ましいとも感じるくらいだ。この前、ショコラに、「ガッリガリじゃん! 骨?!」と驚かれた事を思い出した。


(冷泉も僕よりも背丈が低い割には、体がしっかりとしてる。それは、彼の半分に機械がつけられている事もあるからかな‥)


 しかしまさか、勇ましいライヒェとは裏腹、ライオン達とかけ離れた、ちんまりしたサイズの生物が彼に似てるとは‥‥。


 想像もしない事だ。


「ふふwww 確かにそうかもね。料理にされた鶏の色と彼の肌の色とかこんがり焼けてるし」


 柯楓の思い付いた言葉に、ショコラは「ぷはっ!」と吹き出し、口から見える八重歯を見え隠れさせる。


「ちょいちょい、それ言ったら余計にあいつがそれにしか見えなくなるからやめてww あー、今日の晩飯焼き鳥にすっかね〜。ねぇ、鴉〜何処か美味い焼き鳥店探しといてよ」


「もう、しょうがないな〜。冷泉も一緒に探してくれるかい?」


「やらん。と言うか、貴様らふざけた話をするな。晩飯の話は後にしろ」


 「はぁ‥‥」 そろそろこいつらの予想外な行動を把握しきれない自信しかない。冷泉は再びため息を吐き出した。


「兎に角、ライヒェお前。これ以上面倒な事をするなよ? さもないと‥、その隣にいる祓屋後輩に魂ごと祓われるぞ」


 冷泉は、チェーングラスに隠された黄色瞳を鋭くさせを睨みつけた。


 (一つは脅し、もう一つはの為に)


 その言葉に、ライヒェは目をパチクリさせなんて事ない顔をした。そして、すぐに楽観的な発言を口から出してケラケラ笑った。暁もそれに元気よく頷いた。


「まっさかぁ〜、それはないない! こんな可愛い新入りがそんなことする訳ないでしょ〜。 ねー!」


「はい! ライヒェ先生はとても優しくて強い方ですよ! 僕もライヒェ先生を目指して頑張りますね!」


「強い‥‥ね。あんたよく言うじゃん」


「あっははは、それは頼もしいね。これから愉快な人達が増えて更に楽しく過ごせるよ」


 彼等が和気藹々と明るい声をあげる中、冷泉は1人暁に対して目を凝視させていた。


(源暁。噂とはかけ離れたイメージだな。周りがああ言うから少し冷酷な奴だと思っていたが、まるで社会人で俗に言うやる気のある新人‥)


 冷泉は、身体中を舐めるように暁を見続けた。かと言って、何処か怪しそうな所は見当たらなかった。強いて言うなら、彼はいつでも対処出来るようにおふだを所持している点だろう。


(やはり、人は見かけに依らず‥か)



♫♫♫


「そんで‥‥」


 笑い声を上げていたショコラがふと話を切り出し、視線の方向を変える。


「あんたは〜? てか、そんな端っこに居ないでこっち来たら良いのに〜」


 そう言って、入り口の近くで何やらメモをしている青年—黒脛くろはばき そうに声をかけた。一人で淡々と小さな紙ペラのノートにペンを削らせる姿に、暁はギョッとした表情をした。


「はっ! ごめんごめん霜くん! す、すっかり忘れてた‥‥!!!! 本当に、ごめん!」


 暁が、45°キッチリに頭を下げ彼に謝罪をする。傾けた身体がブレることなく霜に対する誠意ありまくりの態度に先輩教師方は称賛した。

 

「おぉ、何て華麗なお辞儀(今度、輩どもに"黙る! 正しいお辞儀の仕方"を叩き込ませよ)」


「ショコラ、貴様今変な事を考えなかったか?」


「べっつに〜?」


 ギロっと睨みつける冷泉に、ショコラは「知らない〜」としらを切った。


 一方、謝罪をする暁とそれを驚きながら見てる霜。初めは、暁が勢いよく頭を下げた姿に動揺が隠せずにいた霜だが、すぐに瞼を閉じて気持ちを切り替える。


「いえ、わたくしの事はお気になさらず。源様も教員のお務めで大変忙しいのは重々承知していますので」


 霜は淡々と述べ、「私の事は空気の様に扱いくださいませ」と補足を付け足しクスリと微笑んでは彼お得意の食えない笑顔を暁にぶちまけた。その何ともなさそうな顔を見て、ショコラは小さく眉を顰めた。


「へぇ、源様‥ね。随分とを侍らせてるんだね。肝が座ってるじゃん」


「あの‥ショコラ先生? 霜くんはそんなんじゃありませんよ? 霜くんは、僕のクラスの美留町さんの執事さんで、彼女の護衛の為に特別加入という事で‥‥」


 暁がそこまで伝えるも、「あ〜、確か暁と同じ祓い屋一族ね」彼女は理解するも、再び刺々した言葉を紡いでゆく。


「と、言う事は君は黒脛くろはばき家の奴か‥。相変わらず、紳士な態度の割に胡散臭さが丸見えだよ。あたし、そう言うのは分かるから」


「え?! ショコラ先生?!」


「おいブラッディ。あまり、挑発的な言葉をかけるな。喧嘩まで発展しても俺は知らないぞ」


「何〜喧嘩?! オレも混ざる〜!」


 "喧嘩"その言葉にライヒェが食い付かない筈がない。先程も言った通り、戦闘癖のある彼からすれば"喧嘩"と言うものはワクワクする物の一つに値するのだ。


 例を使うなら、"怪異"と誰かが言ったのに対して「え、怪異?!」と椛が飛びつくのも同じである。


「ちょっとちょっと、冷泉先生、ライヒェ先生も?!」


 これには流石の暁でも、戸惑いを隠せなかった。


「ほぅ、所でショコラ様は、吸血鬼の一族と聞きました。それで何ですが、大蒜にんにくと十字架はお好きですか? 今こちらで丁度所持していまして‥。もし良ければ、差し上げますが?」


 そう言って何処から出したのであろうか、霜の右手には袋に詰められた何個もの大蒜、そして左手には金属で出来た十字架が握られていた。


「あ、それ‥!」


 両方ともそれは吸血鬼の苦手なものだと暁は直ぐに理解した。それと同時に、暁はこの先の展開が良くない方向に進むとも。


 そして、あわあわと焦る暁は恐る恐るショコラの方向を見ると、彼女は予想通り、額に青筋を立てて今にもキレそうだった。


「腹が立つのも口だけにしときな、若人。‥‥まさか、胡散臭いって言われてキレそうなの? 少しは鴉のような広い心持ったら〜ww」


 その怒りの表情が剥き出しになりながらも、自分を取り乱さす淡々と彼をdisり続ける。彼女が片手に持っているグラスにひびが入っている事を除けば、至って正常でいられていた。


(二人共、すごく怒ってる!!!)


 ピクッ。暁の隣にいた霜の肩が一瞬だけ震えた気がする。思わず暁は霜に目をやると、


「‥はい?」


彼は人をうっかり殺してしまいそうな満面の笑みを浮かべてショコラ先生に突っかかろうとしていた。


「わー?! ちょっと二人とも落ち着いてくださいよ!!! 喧嘩は行けません!」


 ギョッとした暁は、直ぐに霜達を宥め始め、何とかしてでも喧嘩は阻止しなてくはと使命感に狩られていた。


 そして、彼等のやりとりを見ていたライヒェは「あ!」と何かを思い付くような声を上げた。



「てかさぁ〜。オレ、ソー(霜のこと)を見て少し思い出したことがあるんだけれど、





‥‥‥何で、ヒーちゃん先生が1年専用の生徒管理室に居るの?」

 



 ライヒェが反対の方向を指さしながらそう呟く。


 その先を他の皆が視線を移すとそこには、寝癖一つも見られない美しい髪、鮮やかな和服を見に纏ったともしび ヒスケがモニターを眺めていた。

 

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