七.五夜 さなちゃん (語り終了後)

 美留町さんは、話終わった後目の前にある蝋燭一本に息を吹きかけた。その途端に、蝋燭の炎は煙を立てながら静かに消えていった。


 炎が1つ消され、ほんのり明るいこの空間が少しづつ闇に染まった気がした。


「‥‥おぉ‥」


 背筋が震えた俺は感激してしまい言葉を漏らす。


 この話‥‥、初めて聞いた。


 彼女—さなちゃんの悲惨な状態を、想像するだけでも神経に電気が走るような感覚が襲ってくる。


 あぁ、この感覚だよ!!

 俺が好きなのは!


 洒落にならない怖い話も大好きだが、最後にくる衝撃的な結末で締め括る話も捨てがたい。



「な、何何スか‥‥。めちゃくちゃ怖いじゃないっスか!! 俺夜トイレ行けないっスよ!」


「も、もうお風呂で頭洗ってる時、後ろ振り向けねぇよ‥‥」


「(何言ってるんだ。お前ら、俺達が妖怪なの忘れてるのか?)」


 向かい側で、顔が青白くなってる紺太郎くん。着けている面布まで青くなっているので表情が見えなくてもよく分かる。彼の隣、影京くんも震えていた。


 そして、その様子を見た結羅くんは呆れて何か言いたげな顔をし、美留町さんは微笑みながら、


 

「怪談は怖すぎぐらいが丁度良いんですよ」


と得意げな顔をした。



「確かにそうかもしれない、背筋がゾッとする話は凄く大好きだよ!!」


 美留町さんの言葉に、俺は賛成する。


 やっぱり、興味があるものは止まらない!衝動を抑えきれない。てか、抑えることできるのか?


 俺も今までずっと怖い本を読み漁ってきたけれど、いつか、"もう耐えられない‥‥!"って思えるような怖い話に巡り会いたい!


「大好きって‥‥、椛お前正気?!」



「そう思うの椛くらいだよ」


 俺の発言に、俺の肩の上で幸気ちゃんはちょっと涙目になっていた。そして、隣では鈴やれやれの顔をしてそう呟いた。

 


「でも、何だか考えてみれば悲しい話ね‥」


 その時、氷見谷さんが浮かない顔をしてそう言った。



「‥‥? 何故ですか?」


 隣にいた恋仲さんが、彼女に問いかけた。


「だって、遥ちゃん家の玄関に居たのって亡くなってしまったさなちゃんでしょう? そこまでして遥ちゃんと遊びたくて会いにきたっえ思うと切ないって思って‥」


 そう言って、眉を下げた。



 確かに、じっくり考えて見れば怖いけれどなんだか切ない話にもなる。

 


 彼女の言葉に、俺も他の皆も「成る程〜」と納得の顔をした。



「確かに、そうですね。あとは、さなちゃんはもうこの世には居ることが出来ないから、遥ちゃんに"最期のお別れ"をしに来たとも私は考えました」



「あー‥‥。最期のお別れ、か‥。どちらにしろ切ない話にもなるっスね」



 美留町さんと紺太郎くんも軽く相槌をした。



 怪談話は、語り合えた後にその話の感想を皆で話し合うのも俺は好きだな。色々な人の様々な意見も聞けて考察したりするのも個人的には楽しい。

 

 殆どが、最後の結末で背筋が凍る場面が含まれる話が多いがこの話は最後が怖い分少し悲しい話にもなる。




 成る程、これがあと10話。他の人達は、どのような話をしてくれるだろうか。


 俺の出番は最後だし、皆の話をしっかり聞いて決めるとしよう。あまり、被らない話がいいな。


 なんて思っていると、お腹部分が妙に違和感を感じた。じわじわと焼けるような、ホッカイロをお腹部分に貼っているような気分になった。


 な、なんだ‥‥?お腹部分が暖かい。


 俺はジャケットを脱ぎ、一体なんなのか調べてみる。


「あ‥‥。この本」


 制服のジャケットの、内ポケットにひっそりしまっていた本。その本が、熱を発生させているのだった。

 

 俺、この本中に入れてたの忘れてた‥‥!

 ごめんよ、本。存在を忘れてて‥‥。


 謝罪の意味を込めて、例の本の表紙を捲る。



「‥‥あれ?」



 目に留まったのは、1番初めのぺージだった。

 今まで、白紙の束が収まった本だと思っていたのだったが、そこには、見た人が印象に残るように太く、"1話 さなちゃん"と書かれた題名。その隣に、小さい文字で文が並べられていた。俺は、少しその文章を目で追うが、それは先程美留町さんが話した内容にそっくりに書かれていた。


 まるで、聞き取った話を完全にコピーしたかのように。最後の結末まで、しっかりと執筆されていた。



"「これはね、誰かが話した怪談をこの本が自動で聞き取って執筆する本なんだ」"


 そう言えば、あの人そんな事言ってたな。


 俺は1年前に起こった出来事を思い出して、1人で納得した。


 実はあの本を貰っていえに戻った後、住人の中に霊媒師をしている人が住んでいるんだけど、その人がその本を見た途端何故か怖い顔をして「暫く預かる」と言って預けて、そのまま一年が経過したんだよね。


 それで、返してもらったあともその人なんだか不安そうな顔をしてたし、この本ってそんなに危ないのかな‥?


 まだほぼ真っ白状態だけど。


 俺はその本をマジマジと見つめていると、


「何ですか?その本」


 俺の様子が気になった美留町さんが声を掛けてくれた。

 

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