第41話 秘密とは、いつかばれるモノ

 休日明け、いつも通り俺は教室のドアを開けて挨拶した。


「おはよう!」


 その瞬間、教室中の視線がこちらに向いてくる。


 ――え……。俺なんかやらかした?


「おはよう花音、なんかみんなから見られてる気がするんだけど……俺」


「おはようございます。ああ、皆悠馬君がSランクエンフォーサーになった事が気になってるんですよ」


「そうそう。お前、前から強い強いと思ってたけど。まさかSランクエンフォーサーになっちまうなんてな」


 そう言いながら、和人が近づいてきた。


「ああなるほど……そのことか」


「そうだぞ! どうやったらそんな強くなれんだ!」


「強くなれる秘訣的なの教えろー! 後、なんでお前が毎朝ソフィアさんと冬香さんの二人と登校してる件についても!」


 ――名もなき地下墳墓に潜ってるからでーす。とも大っぴらに言えないし、ましてや後者については一ミリも触れるつもりはない。下手なことを言えば八つ裂きにされかねないし……。


「強くなるにはダンジョンに潜りまくれ、以上。後者については黙秘権を行使します」


「百歩譲って強くなれる秘訣のほうは我慢しよう。だが! 学年どころか全校のアイドル二人と毎朝登校してる件を黙秘とは……。死ぬ覚悟はできてるんだな?」


 そう言って目をぎらつかせながらこちらに飛び掛かろうとする男子共と、同じ様に血走った目でこちらを見てくる女子生徒に身構えたその時。


「はいはーい! ホームルーム始めますよー!」


 チャイムが鳴り、天音先生が教室へ入ってくる。


「止めないで下さい先生! 俺達はコイツから聞き出さなきゃいけない事があるんです!」


 ――和人、いつの間にそっちに移動したんだ!?


「いやー、先生も強くなれる秘訣は聞きたいけどねー……。まさか一年生の生徒に抜かされるなんて思って無かったし」


「じゃあ!」


「けどダメでーす。重要な話があるから着席して下さーい」


 そうして、渋々俺を問い詰めようとした全員が着席したのを見計らって、天音先生は話を切り出した。


「交流戦は本来、日本内の養成学校とのみ開催されるものでした。ですが今年から海外の名門校も参加することが決定し、開催期間が大幅に伸びたことでフィールドワークが実施困難になった為、急遽来週にフィールドワークの開催が決定しました!」


 ――は? 待て待て待てッ!? 交流戦に海外参加が決まったのも充分原作と乖離してるけど、そんな事よりもどうしてフィールドワークが早まってんだ!?


 フィールドワーク。この無駄にデカい学院の敷地でもある、広大な森林型ダンジョンを踏破するというイベント。そして例のディートハルトとファントムが襲来して花音が死亡するイベントで、本来なら十月に開催されるはずなのだが……。


「というわけで、各々準備しておくように!」


 その後のホームルームを俺は上の空で聞き流す。


 そんな俺を心配したのであろう、花音が俺に声をかけてきた。


「大丈夫? 悠馬君」


「あ、ああ。大丈夫」


 ――ファントムは、真司はこの世界じゃ敵じゃない。だったら相手はディートハルトだけのハズ、途轍もない強敵だけど大丈夫……。大丈夫なハズだ……。


 その後、俺は新たに出来た不安の種を抱えながらも授業を受け続けた。





「行こうぜ悠馬」


「おう」


 放課後。俺は和人と共に龍斗の家で遊ぶ約束をしていたので、まずはお菓子とジュースを買い込むためにスーパーに向かっていた。


「さて、ジュースは買ったし……。オイ悠馬、納豆トリュフ味のポテチだってよ。買うか?」


「買わねーよ」


 そうしてお菓子を吟味していたその時。


「こらイア! カートにお菓子を放り込むんじゃない!」


 俺が咄嗟に顔を上げると、イアを叱る姉さんと無言で頬を膨らませるイアの姿が目に映った。


「あ、主」


 そしてイアはこちらに気がつき、とことこと近づいてきた。


「主。これ欲しい」


「悠馬? 友達の家に遊びに行くんじゃなかったのか?」


 和人はイアと姉さんを見て目を白黒させると、俺の肩を掴んでくる。


「お、オイ悠馬。テメエこれどういう事だ。生徒会長は……良くはないが兎も角。この超絶美少女は? ことと次第によっちゃあ……」


「きょ、姉弟! そう! 姉弟なんだ!」


 ――はい、嘘です。


「いや、悠馬。私はそうだがイアは……もがッ」


「ごめん姉さん、ここは話を合わせてくれ……」


 俺は瞬時に姉さんの口を塞ぐと、慌てて誤魔化す。


「いや、だけどこの子。お前に似てねーぞ、一ミリも。お前と違って滅茶苦茶顔整ってるし」


 ――うるせぇ! モブ顔なのは自覚してるけど、他人に言われると腹立つんだよこの野郎!


 俺は顔を引きつらせながら、言い訳する。


「い、いや。うちの家庭環境って複雑でな、ホラ。姉さんも血は繋がってないけど姉弟だし……」


 俺がそう言うと、和人は気まずそうな顔をした。


「お、おう……。なんか、スマン」


 ――何度も言うけど噓なんですけどね……。スマンな、今は亡き会ったこともない鈴木悠馬父よ。


「姉さん、今回だけは一つだけイアにお菓子買ってあげて欲しいな」

 

「だが……」


「主、大好き」


 俺は苦笑いしながら、抱き着いてきたイアの頭を撫でる。


「全く、あまりイアを甘やかしてほしくないんだが……」


「ゴメン、姉さん」


「これ、姉弟っつーより。夫婦の会話じゃね?」





「なあ、ババ抜きでもしねえ?」


 そして、龍斗の家にて。だらだらしながら皆でゲームをしていると、和人がそう言った。


「良いけど……」


「構わないけど急にどうした」


「良し! じゃあ全員参加決定ってことで良いな!」


「お、おう」


「これより、ババ抜き大会を始める! ちなみに敗者には、なんでも一つ質問に答えてもらうからな!」


 ――しまった! 嵌められたッ!?


「それじゃあ。下の階にトランプ忘れて来たから、取ってくる」


 そして和人が下の階に行ったのを見計らい、俺は龍斗に交渉を持ち掛けた。


「なあ龍斗……」





「くっそー、後もうちょいだってのに」


 残り手札三枚で、和人がぼやく。


「ま、早々簡単には行かないさ。さて、と。2はどれかなー」


 俺がそう言いながら龍斗の目を見ると、龍斗は瞬きする。


 ――-・・- ・-・-・ ・-・ ・-・・。なるほど、真ん中か。


「おい龍斗、大丈夫か? さっきから瞬きしまくってるぞ?」


「ん? 大丈夫だよ」


 そう。俺はスキルオーブと引き換えに、龍斗にモールス信号で求めているカードを教えて貰っているのだ!


「よっし! 残り二枚!」


 ――楽勝だぜ、この勝負貰った!


「あー、僕はどうやら勝てそうにないや……」


「まだ勝負は分からないぜ、龍斗」


 俺は残り手札四枚の龍斗に、にやけながらそう声をかける。


「よし、俺の引く番だな……残り手札二枚か。クソ、悠馬も後一枚。次で上がりじゃねえか」


 ――悪いな、勝負は始まった時に既に着いて居たのだよ。


「さてと、ラストは7かー。縁起がいいなー」


 ――--・・- -・ ・・ --・ ・-・・ ・・・ -・-・ -・・・ ・・ ・-・-・ -・・・-。なるほど、左から二番目か……。


「この勝負、貰ったぜ!」


 そして引いたカードを裏返しで見たその時。


「なッ!?」


 ――6、だと? まさか龍斗の奴間違えやがった!? いや、違う。これはッ!?


「ふふふ……驚いたかい? 悠馬」


「ハハハ! まさか共闘を持ち掛けたのがお前だけだと思ったか? だとしたら甘い、甘すぎるぜ!」


「一体何時から!? そんな時間は無かったはずだ!」


 俺がそう言うと、和人はほくそ笑む。


「あの後。お前がスーパーでトイレに行ってる間に、龍斗に電話してたのさ!」


「馬鹿なッ!?」


「この勝負、貰ったぞ!」


「ズルいぞ! 正々堂々勝負しやがれ!」


「お前が言うな!」


 俺が自分の事を棚に上げて言った直後、遂に和人の手札が一枚になる。


「さあ、もうお前に勝ち目なんかねえぞ!」


 ――いや、まだだ。まだ終わらんよ!


「なあ龍斗、お前は本当にそれでいいのか? 今なら、スキルオーブ二つ付けるぞ」


 俺の言葉を聞いて、龍斗は悩みだす。


「でも……」


「惑わされるな龍斗! 俺達で誓い合ったじゃねえか! 必ず悠馬に秘密を吐かせるって!」


「なあ龍斗、俺達は上手くやっていける。そうだろ? 今なら金色のスキルオーブを付けてやろう。さあ、俺の手を取れ。龍斗」


 ――負けるか……負けてたまるもんかよ!


 そして、俺と和人が龍斗に詰め寄った。


「龍斗! 俺はお前を信じてるからな!」


「さあ龍斗! どちらの手を取るッ!」


 遂に、この勝負の勝者が決まる!




「おっしゃあ! 俺の勝ちだ!」


「裏切ったな龍斗……俺を裏切りやがったなァァァ!」


 その後。地面に膝を突く和人と、天に向かってガッツポーズをする俺の姿があった。


「それじゃあ勝者として聞こう、お前の気になってる人は誰だ!」


「クソッ! 俺も男だ、約束は守ろう。俺が気になってるのは、この前さっきお前と言ったスーパーで会った、金髪碧眼の滅茶苦茶綺麗なメイド服着た外人さんだ。スーパーで袋が破けてリンゴが転がってった所にその人は現れて、俺の落としたリンゴを拾いながら笑いかけてくれたんだ……。まるで天使の様だったよ。ああ、俺の彼女になってくれないかな……でなきゃ、俺と結婚してくれないかな……」


「お、おう」


 ――それ、エミリーさんじゃね?


 思わぬ所で要らん物を掘り起こした俺は、慌てて方向転換した。


「そ、そういえば! お前に借りてたゲーム返そうと思ってたけど、家に忘れてきちまった。この後帰る時、少しだけウチに寄ってくれないか?」


「ん? ああ……」


 ――確かソフィアと冬香は、エミリーヌと遊びに行くとか言ってたはず……。



 


「悪い、お待たせ。これ、お前に借りたゲームな」


「おう。どうだ、面白かったか?」


 家の玄関にて、俺は和人に貸してもらったゲームを返して談笑していた。


「ああ、やっぱり死にゲーは面白いな。気がついたら徹夜してた」


「だろ! 俺なんか一つ目のボスに六時間かかったぜ」


「最初から難易度設定バグってるよな……」


 その時だった。


「ただいまー」


「ただいまっ! あれ? 悠馬、確かその人ってEクラスの……」


 ――あっ、終わった。


「遠山和人だ、よろしく」


「よろしくね、遠山君! それじゃあ私と冬香は、今日の夕食当番の円華さんの手伝いしてるから!」


「あ、ああ……」


 そして、満面の笑みを浮かべる和人に俺は逃げ出す準備をしながら言った。


「それじゃあ、俺はこれで……」


「サウンドウォール」


 俺は、和人のスキルで出来た透明な壁を必死に叩きながら叫んだ。


「ソフィア! 冬香! 助けてくれ!」


「サウンドウォールはその名の通り音の壁……無駄な抵抗は辞めろ」


 和人はそう言うと指を鳴らした。


「さあ同士諸君、狩りの時間だ」


 すると電柱の影やマンホールの中、お隣の家の庭や建物の陰からクラスメイト共が飛び出してくる。


「どっから出て来たお前ら!? 待て、何をするつもりだ! ヤメロォォ!」


 その後。五時間程クラスメイト相手に命がけの鬼ごっこをする羽目になり、俺は何とか逃げ切って九死に一生を得た。



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 やっぱブラックブレット面白いわ……。アレに性癖歪まされかけたのは俺だけじゃないハズ。危うく長谷川昴になるところだった。

 所で、ブラックブレット二期と新刊はまだかのぅ……。あと甘ブリ。


 最近、日常回の題名考えるのが一番難しく感じるようになってきた……。

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