幕間 例え、ハリボテでも。 其の一。

 わたくしの名前はエミリーヌ・ミシェル。わたくしの父親はM&Wコーポレーションの社長ですの。


 父親が言うには、強き者のみが俺の跡を継ぐ権利があるらしく、末に生まれたわたくしは数いる兄弟姉妹の中でも父に見向きもされない上、後ろ盾もおらず厳しい戦いを強いられてるんですの……。


 ――だから後継者を決める戦いがある9月の前に、もっと強くならないといけないのですけど……。


 強くなる為の第一歩。わたくしの学園ダンジョン攻略班には、Eクラスの生徒一人しか居ませんでしたの。


「先生! どうしてわたくしの班はこのEクラスの殿方しかいませんの!」


 当然わたくしは、天音先生に抗議しましたわ。


「あー……それなんだけどね。ほら、ちょっと前Aクラスから欠員が出たでしょう?」


 ――そういえば少し前の騒ぎで亡くなった人も居ましたし、その騒ぎのショックで退学した方々居ましたわね……。


「え、えぇ。そうですわね」


「それで二人余りが出たんだけど、このダンジョンで大人数にすると楽勝過ぎて実習にならないから、二人だけでも問題なさそうな人選で組ませようって話になったわけ」


 ――二人でも問題ない? そういえばこの方。確か堕天の王と邪神教団幹部を一人で倒したとか眉唾物の噂の……。


「ぐぬぬぬ……し、仕方がないですわね」


 わたくしはそう言うと、そのEクラスの生徒に宣言しました。


「わたくしは貴方をEクラスの生徒としてではなく、一個人として評価しますわ! だから絶対にわたくしの足を引っ張らない事! いいですこと!?」


 ――覚悟なさい! このエミリーヌが直々に見極めて差し上げますの! 




「……で、どうしてこうなった」


「なんですの? 文句がおありでして?」


 学園ダンジョン内でわたくしがゴブリンを殲滅していると、鈴木悠馬の文句を言う声が聞こえてきましたの。


 ――全く。このわたくしと組んでいるのになんの文句があるんですの?


 一瞬家族の蔑んだ目が脳裏をちらつきましたが振り払い、わたくしは鈴木悠馬に声を掛けました。


「全く、何をやってますの!? ダンジョンの中でボーっとするだなんて!」


「ごめん」


「全く、このわたくしと組んでいるのだからしっかりしなさい!」


 ――嫌なものを思い出しましたわ、最悪な気分ですの。


「何をしているの? 早くついて来なさい!」


「はーい……」


 無気力に返事をする鈴木悠馬にイラつきながら、わたくし達はダンジョンの奥へと進んでいきましたわ。





 そして、わたくし達は遂にダンジョンのボスであるオークとの戦闘へと突入しました。


「ふッ!」


 ――中々やりますわね。あれで本当にEクラスですの?


 わたくしは首をかしげながら、鈴木悠馬に気を取られて隙だらけのオークへ魔法を放ちましたの。


「ファイア!」


 そしてわたくしの魔法で怯んだ隙に鈴木悠馬がオークを倒し、わたくしはいつも通り虚勢を張りましたわ。


「これで終わりですの? 手ごたえのないダンジョンですわね」


 その時。突然部屋の奥が光り、ワープゲートが現れましたの。


 ――あら? 学園ダンジョンはここが最深部と聞いてましたのに……隠しステージでして?


「やっぱり手ごたえがなさすぎると思ってましたの! さあ行きますわよ鈴木悠馬!」


 わたくしはその先が学園ダンジョンの延長線上だと信じて疑わずに、ワープゲートへと駆けだしましたわ。その先に何があるかも知らずに。





「あら? 随分とここは雰囲気が違いますのね」


 ――それにしても、遅いですわね。鈴木悠馬。


 そんな事を考えながら角を曲がると、蟻に翼を生やし鎌を付けたような出で立ちのモンスターを見つけたので、わたくしは魔法を放ちましたわ。


 しかし、


 ――なッ!? 魔法が効かない!?


 わたくしの存在に気が付き、迫って来るモンスターに魔法を放ちましたが、どれもこれも弾かれわたくしは悲鳴を上げました。


「お願い効いて!」


 しかし倒すどころか聞いた様子もなく、わたくしの心が絶望に染まりかけたその時。


「な、なんで魔法が……! 嫌! 来ないで!」


 ――まだ死にたくな……。

 

 わたくしの窮地を救ったのは、あのEクラスの生徒。鈴木悠馬でしたの。


「鈴木悠馬!?」


「先行しすぎだ! 死ぬつもりか!?」


 鈴木悠馬はわたくしを叱りつけると、虫型モンスターと向かい合いました。


「まさか新鮮な肉が二つも現れるとは! ああia ia 繝上せ繧ソ繝シ!」


「いあ……ハ? ……なんだって?」


「我々本来の発声器官で我が神の名を発音すると、人には聞こえないらしい。まあいい、どうせ新鮮な肉になるだけなのだから!」


「舐めるな!」


 ――神? それに、モンスターがしゃべるなんて。まさか、このモンスターは邪神の眷属ですの!?


 そして戦闘が始まると鈴木悠馬は、まるで未来が見えているような動きで眷属を翻弄し始めましたわ。


 ――凄い。こんなの、Sランクエンフォーサーでも簡単に出来る動きじゃありませんわよ!?


 わたくしが切り刻まれ魔力へ還って行く眷属を見ていると、鈴木悠馬がわたくしに手を差し出しながら聞いてきました。


「あー……立てるか? お嬢様?」


 ――も、もちろんですわ! 今すぐに! ……あら? 足に力が……。


「あの……その……」

 

「ん?」


「腰が抜けてしまたみたいですわ……」


 ――助けられた上に醜態を晒すなんて……今日は厄日ですの……。




「それにしても、あの噂は本当でしたのね」


 わたくしは鈴木悠馬に背負われながら、話を切り出しました。


「ん? あの噂?」


「貴方が堕天の王と邪神教団幹部を撃退したっていう噂ですわ」


 ――あの動きに、あの技の威力。あれを見た後で馬鹿げた噂扱いするほど、わたくしの目は節穴じゃなくてよ。


「……あぁ」


「わたくしも皆と同じく、馬鹿馬鹿しい噂だと思ってたんですの。だってSランクエンフォーサーの尾野真司さんと学園長が倒したという話の方が、Eクラスの生徒が倒したという話よりも信用できる話ですもの。てっきり、偶々生き残ったEクラスの生徒がホラを吹いているのかと……」


 わたくしがそう言うと、鈴木悠馬は苦笑いで否定しましたの。


「まぁそりゃそうだな、けどそれも違うぞ」


「ですがこの強さなら……って違うんですの?」


「倒したのは俺一人じゃなくて、皆で力を合わせた結果だ。特にSクラスの龍斗、アイツがいなければ今頃死んでた」


 ――力もないのに虚勢を張るわたくしとは違って、この方はあれだけの力を持っていても驕らないのですわね……いつかわたくしもこうあれたら……。


「あ、また虫型眷属見つけたから降ろすぞ?」


「お、お気を付けて!」


 ――いつだってわたくしは弱いままで、今も彼の足手まといになっているだけ。わたくしは、こんな自分が大嫌いですわ……。



「着いた……」


「ここがこのダンジョンのボス部屋……ですの?」


 わたくし達は、遂にボスの部屋までたどり着きました。


「それじゃあ戦闘開始と共に俺が突撃するから、自慢の魔法で援護してくれ」


「わかりましたわ」


 ――やっと彼の役に立てますわ!


 気合も十分に 扉を開けたわたくしたちの前に広がるのは、空っぽの部屋でしたの。


「なんだ……これ……」


「ボスがいませんわね……」


 しかし、わたくしはダンジョンクリアの報酬が置いてある部屋に繋がるポータルを見つけ、気分を高揚させながら駆け出しましたわ。


 ――これだけの高難易度ダンジョンですもの! きっと報酬も強力な何かのハズ……父に見ても貰えない、弱くて情けなくて虚勢を張るだけの自分から脱却してみせますの!


「行きますわよ! 鈴木悠馬!」


「あっちょっと待て!」




「凄い……ですわね……」


 ――ここがこのダンジョンの最深部……。


 わたくし達が降り立ったのは、とても厳かで清廉な雰囲気を醸し出す神社でした。


「気を付けよう、何があるかわからない」


「え? けどわたくしたちが使ったのは、ダンジョンクリアのワープゲートでしてよ? ……わかりましたわ。貴方の忠告ですもの、用心しますわ」


 ――他ならぬ彼の忠告ですもの、用心するに越したことはありませんわね。


「ああ」


 しばらく何かに葛藤する鈴木悠馬を眺めていると、ついに決心が決まったようで声を掛けられましたわ。


「行こう、ミシェル。ここで迷ってても埒が明かない」


 ――今更他人行儀なのは嫌ですわね……。そうですわ!


「そうですわね、行きましょう。それと……その……特別にわたくしの事はエミリーヌと呼んでくれて構いませんわ! その……貴方に沢山助けて頂きましたし、本当に特別でしてよ!」


 ――決して他意はありませんのことよ!? ホラ! お友達としてですの! お友達として!


「わかった、改めてよろしくな。エミリーヌ」


「はい! よろしくお願いしますわ!」




「なんだこれは!?」


 わたくし達が神社に足を踏み入れた瞬間、冷や汗を掻きながら鈴木悠馬が叫び、わたくしは心配して鈴木悠馬に尋ねました。


「どうかしましたの?」


「い、いや。なんでもない。行こう」


 ――明らかに大丈夫と言えるような様子では無かったと思いますが……。まぁいいですの。


 そして、わたくし達はいよいよ報酬部屋にたどり着きましたわ。


「ここが報酬部屋でして?」


「ああ、恐らくな。行くぞ」


 そして鈴木悠馬が扉を開けると。待ち構えていたのは、鎖でつながれた殿方でした。


 ――なにか特殊な行為中でして……? 何故ダンジョンの最奥で鎖に?


「ようこそ、名も知らぬ者よ。よくぞここまでたどり着いてくれた」


「えーっと、どなたですの? そして何故鎖に?」


「この鎖か? コレは、俺の中に巣くうモノを縛り付けるための物だ」


 ――この殿方。凄腕の変人かなにかでして?


「俺は妻を……イザナミを蘇らせようとしたんだ。だけど失敗してしまった。その上、禁術を通して奴に目をつけられ浸食される始末さ」


 そう言うと、殿方は急に苦しみ始めましたの。


「イザナミ……まさか、貴方は神のイザナギ様ですの!?」


 ――わたくしったら! 何を勘違いしてましたの!? よくよく考えればこの神聖な気配、神の一柱でもおかしくありませんわ! イザナギ様は今も学院のダンジョンの中にいるという噂は本当でしたのね! それしても、禁術? 浸食される始末? 一体なにを……。


「グ……もう時間がない。君には俺の力と俺の武具を、女の子には俺の妻が残した力を上げよう。君達には迷惑をかけるが、どうかコイツを……!?」


 ――凄い! 力が溢れてきますわ! これなら……!


 わたくしが自分の中で急に湧き上がってきた力に驚いていると、イザナギ様の姿に罅が入りました。


「なッ!?」


 ――なんですの!?


 そしてイザナギ様がが砕け散り、まるで脱皮をするように中から黄色い衣を纏い仮面を付けたナニカが現れましたの。


 ――風ですの? 


「あ、あぁ……」


 その瞬間わたくしは意識を失いました。



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 お嬢様言葉って難しいな、結局一話で収まらなかった……。すいません、予告してた話はもう一話挟んだ後になりそうです。


 昨日だけで星60増えてました……。ほんと、読者の方々にはなんて感謝したらいいのか……。


 ここ一週間PVも減ってランキング順位も落ちたうえに寝不足で、なんかつまらないもの作っちゃったかな? と不安になり、全部一括非公開にして見直そうかと迷うほど一時期相当キツかったですが。皆様の温かなコメントや支援の数々に救われました。


 支えてくれている読者の皆様には感謝してもしきれないくらいです。本当にありがとうございます! 

 これからも本作、『自称泣きゲーのモブに転生~メーカーは泣けるとかほざいてるけど理不尽なヒロイン死亡エンドなんていらねぇ!!』を楽しんで頂けたら幸いです。





 

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