第12話 魔王

 現れたグレゴリーはジェームズの方を見ると、こう問いかけた。


「この堕天使の召喚者はオマエか?」


「あ、ああ。そうだが?」


「召喚に使った媒体は?」


「何故そんな事教えなきゃいけない」


 ジェームズが答えた次の瞬間、グレゴリーはジェームズの腹部をその手で貫く。


「へ? ……ゴボッ!?」


「もう一度聞こう。召喚に使った媒体は?」


「ひ、ひぁぁ!? この召喚石だ!?」


「この石か」


「も、もういいだろう!? だから……やめッ!?」


 ジェームズから召喚石を奪い取ると、グレゴリーはその貫いたままの手でジェームズを真っ二つにした。


「フ、フフフ。ハハハハハ! 堕天使の気配を感じて奪い取りに来てみれば、俺の腕を奪った奴と出会えるとはなぁ!?」


「いや、お前とは会ったことないと思うんだけど」


「ん? あぁ、そうだよなぁ。仮面付けてちゃわからねえよな」


 そう言うと、グレゴリーは顔を覆っていたピエロの仮面を取り去った。


「お前……あの時のサモナーか!?」


「大正解ー! ついでに口調も昔に戻してやろうか? ようザコ虫! まだ名乗ってなかったっスね、俺の名前はグレゴリー! 今度こそ殺してやるっスよ!」


 グレゴリーの正体は昔、俺が左肩を切り落としたサモナーの男だった。




「復讐に来たのか?」


 俺が尋ねると、グレゴリーは口調を戻した。


「いや、偶々だ。元々は堕天使の気配を感じて俺の物にするために来たんだが……まさかお前とこんな所で出会えるとはなぁ! 俺の片腕の分、たっぷりとお礼してやるよ!! 来い! アバドン! そして名も無き堕天使たち!」


 グレゴリーは地面を手を付いた、すると醜いイナゴのような怪物と上級堕天使二体が現れた。


「悠馬!」


「俺達も戦うぞ」


 俺が身構えていると、真司と茜が俺の横に降り立った。


「生徒の避難は?」


「他の教師に任せてある!」


「んじゃあ俺は中央のイナゴモドキをやるから、二人は脇の堕天使を頼む」


「わかった」


「了解、悠馬も気を付けて」


 そして俺達はそれぞれの相手へ走り出した。




「セイッ!」


 俺は手始めにイナゴモドキの怪物を切りつけたが、一瞬で傷が塞がった。


 ――クソ!? ここは律儀に原作再現しなくても!


 危うくイナゴモドキ……アバドンの反撃を喰らいそうになったので、慌てて回避する。


「やっべ!?」


 回避した後、俺はパワースラッシュを発動させてアバドンを攻撃するが、やはり効果はない。


 ――やっぱりコアを狙うしかないか。


 アバドン。イナゴ型の悪魔で、その体はイナゴの群れによって形成されていて無限に回復する。しかし強攻撃のイナゴブレス(命名俺)の直後、イナゴの数が足りなくなるのかコアが頭のてっぺんに露出する。


「クソったれ!」


 俺はアバドンの突進を避けながら愚痴る。


「ハハハ! さっさと死ね! そうすればきっと俺の切られた傷の疼きも治まるだろうよ!」


 高みの見物を決め込んでいるグレゴリーを尻目に、俺は考え事をしていた。


 ――アバドンの強攻撃は、ガワのイナゴの群れへ一定ダメージ与えないと放ってこない。


「やるしかねぇ!」


 俺は効果の途切れそうな疾風迅雷・真が続いている内に、勝負を決めることにした。


「ハァァ!」


 先ずは、噛みつき攻撃を繰り出してきたアバドンの攻撃をスレスレで回避してレイスラッシュを叩き込む。


 次に、鎌のようになっている前足を繰り出してきたので回避。


「この!」


 そのままがら空きになったアバドンの胴体に、イグニススラッシュを叩き込む。


 そして懐に潜り込んだまま、俺はアバドンを切りつけ続けた。


「おっと!?」


 すると、アバドンが一瞬溜め動作をしたので後ろに下がる。その直後、アバドンは円を描くようににして毒をまき散らした。


「あぶねえあぶねえ!」


 範囲攻撃が収まったのを確認すると突撃し、レイスラッシュを発動させて前足を切り落とす。

 即座に再生するが、そんな事は気にせず攻撃を続けようとしたその時。


 ――来る!


 アバドンの目が赤く光り一瞬硬直し、その直後にアバドンの口から大量のイナゴの群れが放たれた。


 ――うへぇ、リアルで見ると吐き気がしそうだ。


 俺は追って来るイナゴの群れを回避しながら、アバドンの開いたままの口の中にある赤く光った球体目掛けて致命の一撃を放つ!


 すると形容しがたい絶叫が辺りに響いた後、アバドンは魔力に還っていった。


「ふう……クソめんどくさい敵だった。さて、次はお前の番だぞグレゴリー」


 俺がグレゴリーに向き直りそう言うと、真司と茜も堕天使を倒し終えたのか、俺の隣に降り立った。


「いよいよ本丸って感じだね」


「気を引き締めて行くぞ」


「へぇ、俺を倒す気でいるのか? まだ一ミリも本気出してないのに。うんじゃあそんな夢見がちのお前らに、少しだけ俺の切り札見せてやるよ。来い! ルシファー!」


 グレゴリーがそう言った瞬間、あたりが暗くなった。


「なんだ!?」


「これはちょっとヤバそうだね」


 ――ここで来るか、ルシファー!


 ルシファー。グレゴリーの切り札の内の一つ。広い攻撃範囲と高い魔法攻撃力が強みの、一体でSランクエンフォーサー五人相当と言われていた化け物。


「呼んだか? グレゴリーよ」


「あぁ。準備が整ってねえから本気だせねえが、どうやらコイツら俺を倒す気らしくてな。舐められてるみたいでムカつくから、コイツら全員片付けろ」


「了解した」


 そう言うと、ルシファーは手に光を集め始めた。


 ――クソ! 初っ端から明けの明星かよ!?


 明けの明星。ルシファーの使う強攻撃で、超威力の光球が空から雨の様に降り注いでくる。

 量が量なので回避がとても難しい。


「回避準備!!」


 俺がそう二人に警告して、身構えた瞬間。誰かが全員避難したはずの観客席から飛び出してきて、ルシファーを切りつけ攻撃を中断させた。


 ――あれは!?


「龍斗!?」


 飛び出してきたのは我らがラスティア主人公にして、神と龍の力を継ぎし者。鳴神龍斗その人だった。




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 本来グレゴリーは大量の悪魔や堕天使、ネームドモンスターを複数体同時召喚する化け物ですが、諸事情(ゲーム的な大人の事情+設定)でまだ本気が出せません。もしグレゴリーが本気を出せれば、今の悠馬ではまともに戦闘すらできずに大量の攻撃に巻き込まれて死にます。神威を同時発動出来ても今のレベルでは互角がいい所でしょう。



 

 

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