寄り道編 第2話 真司の武器選び

「そういえば真司」


「なんだい、悠馬」


 中学一年生秋、俺達はDランクダンジョン『雑兵の縦穴』に居た。


「その武器、変えないのか?」


 俺はボロボロのショートソードを指差し、真司に聞いた。


「うーん、変えようとは思ってるんだけどね。中々……」


「なんかこだわりでもあんのか? 正直その武器お前の体格にも合ってないと思うんだが……」


 そう言うと、真司は苦笑した。


「いや、そんなこだわりはないよ。長い付き合いだから愛着はあるんだけどね」


「じゃあさ、帰りにM&Wストア寄って行かないか? 俺の双翼の刃もズタボロで、そろそろメンテナンスに行こうと思ってたんだ」


 M&Wストア。大抵ダンジョンの近くにある店で回復薬やら武器・防具様々な物を売っていて、エンフォーサー御用達の店だ。

 ちなみにサブヒロインにはこの店の社長令嬢が居る。


「了解。そういえばこの機に武器も変えてみようかな……」


「おう、いいんじゃないか?」


 そうして、俺達はM&Wストアへと向かった。




「んじゃ俺、双翼の刃メンテに出してくるから武器見ててくれ」


「わかった」


 そう言って俺は武器・防具修理受付用カウンターへ向かう。


「すんませーん。武器の修理お願いしたいんですけど……」


 そう言うと、奥の併設された作業場に続く扉から大男が現れた。


「……らっしゃい」


 ――……生で見るとマジでビビるな。


 彼は全国のM&Wストアに居る謎の人物で、実は顔も何もかもそっくりな全く同じ別人だろ? 

 という至極まっとうな考えの元行われた検証の結果、検証の為に闇討ちをしたプレイヤーをことごとく返り討ちにした。 

 そのプレイヤーがどこのM&Wストアに行っても『貴様が我が領地に踏み入る事は許さぬ』と言うセリフと共に消し炭にされた事から、ほぼ同一人物である事が確定的になった不思議なキャラクターである。


「え、えっと。これの修理をお願いしたいんですけど」


 俺が双翼の刃を差し出すとまじまじと眺めてから、男は俺におかしな事を言ってきた。


「汝、神の気配を漂わせしもの。気を付けよ、遠くない未来。汝は選択を誤れば友を失うことになるだろう。……出来上がるのは一週間ほど掛かる。」


 ――友人? 友人って真司の事か? それともソフィアや冬香、龍斗の事か? 分かんねえ……


「え……? あ、ああ。わかりました、一週間後に取りに来ます」


 男はそれだけ言うと、また奥に引っ込んでいった。


 ――何だったんだ一体。特定条件を満たすと出る特殊セリフ?


 俺は首をかしげつつ、真司の元へ向かった。




「よー、真司。決まったか……」


「あ、悠馬。ちょっと僕これ使ってみようと思うんだけど、どうかな?」


 真司が持っていたのは鉄で出来たトランプだった。


 ――なんでコイツはよりにもよって、ラスティア運営がエイプリルフールにノリと勢いでアプデ配信してきた、ネタ武器集の一つを持ってくるんだ……


「あー……まぁ、あれだ。ココには武器を試せる場所あるし、そこで一度振ってみたらどうだ?」


 俺達は早速試し切り用のカカシが置いてある場所へと向かった。




「えい! ハッ!」


 俺はカカシをトランプで必死に切りつける真司を、死んだ魚のような眼で見ていた。


 ――え? 俺アレと一緒にダンジョン潜んの? 嫌だなぁ……。


「あっ」


 俺がそんな事を考えていると、頬の横を何かが掠めた。


「ごめん悠馬! 手が滑った!」


「お、おう。気にすんな……それより、多分その武器お前に合ってないから変えた方がイインジャナイカー?」


 俺は頬から血を流しながら額に冷や汗を浮かべつつ、慌ててトランプを拾いに行く真司に別の武器を選ぶよう誘導することにした。


「カッコいいと思ったんだけどな……」


 ――それはお前だけだ。


「他の選んで来い他の! 俺はここで待ってるから!」


「うん分かったよ。それじゃあちょっと待ってて」


 そう言うと、真司はまた武器を選びに戻って行った。


「全く……」


 考えても見て欲しい。自分が双剣で戦っている中、隣で戦う仲間の得物はトランプ……どう考えても絶対落ち着かない。

 そんな事を考えていると、真司が戻ってきた。


「おう今度こそまともな……まとも……まともか?」


 真司が次に持ってきたのはモーニングスターだった。


「ほら、僕ってあんまり攻撃力高くないでしょ? だからそれを補おうと思って」


 ――いやー、そのセレクトはどうなんだ? けどなぁ。コイツラスティアに居なかったし、真司の得意武器教えてやりたくてもできねえんだよな……


 「あっ」


 真司の間抜けな声がした瞬間。俺の頭の三センチ横をモーニングスターが横切り、練習場の壁を砕いた。


 俺はさび付いたような動作で首だけ後ろを向き、ひび割れモーニングスターがめり込んだ壁を見ると、額に青筋を立てながら出口の方を親指で指しながら真司に言った。


「オマエ、ホカノニシロ。命ガイクツアッテモタリン」


「ごめんごめん。そして何故にカタコト?」




「全く……」


 俺はまたも真司が新しい武器を持ってくるのを待っていた。


 ――今度こそ大丈夫だよな。


 俺は恐らく、代々ココを使った人がつけたであろう壁の破壊痕を見ながら、さっき真司が破壊した壁の破片を蹴って遊んでいると、真司が入ってきた。


 ――さて、今度は何を……


「ちょっと待てぇ!?」


 真司が持ってきたのは、背丈と同じくらいあるバスターソードだった。


「なんだい悠馬?」


「お前は本当にそれで戦えると思ってんのか!! そんなもん振れるわけないだろうが!?」


「やってみなきゃ! わからない! だろ!? おっとっと!?」


 真司はそう言ったがカカシを切りつけようとして失敗し、バスターソードは俺の鼻スレスレを通って地面に振り下ろされた。


 ――ヤバい、このままじゃ命がいくつあっても足りない。


「お、おい真司。何も近接戦にこだわる必要はないんじゃないか? 確かお前みたいな不器用な奴でも扱えるようにアシストの付いた銃とかあったろ」


「僕は不器用じゃない! けどわかった……確かに銃ってかっこいいし」


 真司はバスターソードを引きずりながら、戻って行った。




 20分後。


「アイツ、遅すぎるだろ!」


 俺がイライラしながら待っていると、真司が大型のナニカを持って入ってきた。


「……真司君や、それは?」


 真司はデカブツを構えながら俺に言った。


「試作型フォトンプラズマライフルΩだって、かっこいいから試し撃ちさせてくれって頼み込んだんだ」


 ーーあ、ヤバい。この先の展開、俺にも読めた。


「まッ!?」


「発射!」


 その瞬間、俺の視界は光に染まった。


「ギャアァァァァァ!!?」





「それで? 結局刀に決めたのか?」


 俺はアフロになった頭から煙を立てながら、真司に聞いた。


「うん。使ってみたらしっくり来た」


「そうか」


「それに……」


「それに?」


 そう言うと、真司はバツが悪そうに頭に手を回しながら目を逸らして言った。


「元々刀にしようかなって最初から思ってたから……」


 俺はそれを聞きにこやかに笑った後、一度深呼吸をして拳を繰り出した。


「最初からそうしやがれぇ!!?」


「ぶべらッ!?」


 俺の拳を受けた真司は空中で三回転半すると、地面に落ちた。


「ひ、酷い! お母さんにも殴られたことないのに!」


「黙りやがれ! じゃあなにか? 俺は無駄にひどい目にあってただけか!?」


「いや、だって面白そうな武器があったからつい……」


「ぬがァァー!!!」


 その後、真司は無事に足軽の刀を買った。ボロボロになりながら。

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