外伝10話 王族

「マクセルがクーデターに加担して、階級を下げただと?」


吾はシマット商業国の王、エルドラド・シマットである。我が国は、北国の中でも商業が盛んであり、それがそのまま国名にもなっておる。


「マクセルは誰かに負けて階級を下げたのか?」

「はい。どうやら新人の階級7の只人族ヒュームのハンターに負けたそうです…それもクーデターのど真ん中ですわ」


吾は、私室の1つで、王太女のシャーニーから報告を受けていた。シャーニーは、吾の長女であり、能力的に満足のいくものを持っているため、次の王と決めている。


シャーニーの母親は、採掘を主な収入源とする、コクジ侯爵領から嫁いできた鉱人族ドワーフである。もちろん、シャーニーは、その血を継いでいるため鉱人族ドワーフだ。


そのため、ガタイがよく、健康的ではある。


が、多くの只人族ヒュームの大半が抱く美人の感覚とは異なるためか、未だに嫁の貰い手はない。吾は、そういうガタイのいい女は、かなり好きなのだがなぁ。まぁ、そういうのは、人それぞれというか…。


とにもかくにも、そのことが原因で、どうにも若干、卑屈な性格にはなっている。鉱人族ドワーフの中で生きていれば、そんなこともないのだろうが。


だが、次女は身体が弱く、三女は能力はあるがまだ若い。長男は…まだ子供過ぎる。となれば、やはり多少卑屈でも、真面目で、仕事を丁寧にこなし、器用なシャーニーを王太女とする吾の判断は正しいと思っている。


「ならば隠蔽は難しいか」

「そうなりますね。ハンター協会も、そういう理由があるため、マクセルの階級を下げたのだと思われます」


私室で聞く報告で、判断が必要なものは、たいだい嫌なことしかない。上手くいってることは、結果だけ聞いたら終わりだからだ。だから、シャーニーが吾の私室に来て、判断を必要とする報告など、いい報告なわけがない。


「マクセルの処刑人エクスキューショナー認定は取り下げなくてはいかんのう。階級6の処刑人エクスキューショナーなど、対外的に恥ずかしくて使えん」


処刑人エクスキューショナーの認定取り消しは、はっきり言って我が国としてはダメージが大きい。だが、こればっかりは仕方あるまい。


「わかりました。そのように取り計らいます」


しかし、ハンター協会め、忌々しいことをしてくれるものだ。素直に言うことに従って狩りだけしてればいいものを。まさか、権力争いごっこなどしおって、その結果として、吾に迷惑をかけるとは笑止千万だ。


「全くハンター協会め…今回のことでケチをつけてやるわ!」

「それが、少しそうにもいかない事情があります」


シャーニーが、ひどく気まずそうな顔をしながら吾に、そう告げる。そうもいかない事情だと?


「何だと!?それは、どういうことだ?」

「今回のハンター協会で起きたクーデターに際してですが、クーデター側にカナチヨ子爵家の騎士の姿が目撃されています」

「はぁ!?なんだそれは」


何でシマットの貴族が、ハンター協会のクーデターに加担などしていたのだ!?そんなことしたら、こっちが、ケチつけられれてしまう側になってしまうではないか!カナチヨ子爵め、何ということをしてくれたのだ。


「カナチヨ子爵家は何をやっておる!!」

「わかりません。動機も何も不明ですが、ハンター協会から、クーデターへの加担について責任を追求される可能性があります」

「それはそうだろうな…」


くそ。何ということだ。踏んだり蹴ったりとは、まさにこのことだな。


「こちらの方針としては、ハンター協会の話を突っぱねるか、カナチヨ子爵を切り捨てるか、どちらかということになりますが…」

「どうせ、近々、ハンター協会の方から報告がくるだろう。そのときにでも方針は決めるが…まぁ、カナチヨ子爵を切る方向だろうな」


カナチヨ子爵は、何度か話したことがあり、切れ者だと記憶していたのじゃがのう…。何というバカなことをしたものだ。


しかし、いくらバカなことをしたからと言って、あまりに簡単に切りすぎると、国内からの貴族の反発があるだろう。それも面倒なことだ。


カナチヨ子爵に、無茶な要求などを繰り返して、反抗させてから切る。このあたりが着地点だろうな。


「場合によっては…いや、確実にその只人族ヒュームのハンターを処刑人エクスキューショナーに任命する必要があるだろうな。そのハンターの人となりをきっちり調査しておけ」

「はい。わかりました、お父…国王陛下」


考えようによっては、僥倖かもしれないな。マクセルは龍人族ドラゴンニュート故に、変にプライドが高く、とても扱いづらかった。こちらの命令も、なかなか思い通りに聞かなかった。


それに比べて、只人族ヒュームのハンターなら、女か金か権力、どれかを握らせれば大抵は従うだろう。むしろ、前よりもやりやすくなって便利かも知れぬなぁ。


※※※※※※


「例の只人族ヒュームのハンターについて、報告があります。よろしいでしょうか?」


数時間後。シャーニーがまた報告に来た。紙を手に持っているから、大体の調べがついたのだろう。いや、この時間だ。すでに目をつけていたのだろう。


「続けよ」

「年齢は14歳。北方蛮族イーサマータの生まれで、コーダエの孤児院で育ったようです。まず性格ですが、話し方などは理知的ではありますが、ハンターらしく好戦的な性格も持ち合わせています」

「高レベルのハンターにはよくあるタイプだな。しかし14歳か。その年齢で階級7とは、相当な麒麟児なのか…」


現場におけるシビアで、迅速で、リアルな判断と、強大なモンスターに立ち向かっていく狂気。これを兼ね備えているのがハンターだ。高レベルのハンターの性格が、自然とそういう方向に収束するのは理解できる。


「その年齢で、その階級ということは、かなり優れたギフト持ちなのだろう?ギフトは、どんなものを持っているのだ?」

「かなり珍しいですが、植物の技能憑依ライカンスロープでランクはAということです。治癒系統魔法キュアブランチングマギーに依らず、傷や病気の治療が出来るそうで、そのギフトの貴重さから9歳の時点ですでにハンター協会に囲われていた様です」

「治療のギフトだと!?そんなのを処刑人エクスキューショナーに出来たら価値は計り知れないではないか!?」

「はい。その有用性から9歳にして、階級3を与えられていたそうです。階級6の時点で鶏体蛇尾コカトリスを狩り、階級7に昇格。その際、ハンターにおけるあらゆる場面で1流にこなせることから万能の天才オールラウンダーという2つ名を得ています」


まるで、演劇の、架空物語に出てくる主人公みたいな奴だのう。


「ちなみに、かなりの女好きのようで、周りにはいつも女を侍らしています。グルメでもあり、珍しい食べ物などにも、目がないようです」

「何だ。輝かしい経歴の割には、ひどくわかりやすい俗物か。まぁ、英雄は色にだらしないとは良く言うからな。それを地で行くということか」


マクセルと違って、面倒なやつではなさそうだ。安心したわ。処刑人エクスキューショナーの使い勝手がよくなるなら、面倒なことにはなったが、結果的には利益の方がでかくなりそうだ。


「よし、ならば、女でも宛てがってやれ」

「わかりました。誰にしますか?」


女の細かい好みなどは、深く本人にインタビューをしないとわからないからな…。階級7なら、最終的には、中下級貴族に、見た目や性格など、そのハンターが1番好みの娘を差し出させることになる。


だが、貴族の娘を見繕う前に、まずは無難に大衆から美人と言われるタイプの女を選び、好みを探っていく必要があるだろう。


「アーツロー劇団に人気の新人女優がいただろ?」

「ああ、ミレイですね?最近は、上は貴族から下は庶民まで、かなりの人気みたいですね」

「そうだ…そいつだ。それをだな…うむ。いま開発中の温泉地があっただろう、あそこの宣伝を一緒にやらせるという名目で、宛てがってやれ」


温泉地は、これから伸ばしていきたいからな、人気のハンター使って宣伝もすれば、一石二鳥だろう。


「個人指名権を使いますか?」

「それは、使うしかないだろうな。階級7のハンターで、女好きだとしたら、あまり露骨な誘惑には飽きてるだろう。温泉地で、女。ふむ。吾にしては親切だな。女好きのそやつも、喜んで尻尾振るだろうよ」

「私には男のそういう機微はいまいちわかりかねますが…。女に無節操な癖に、ロマンを求めるものなのですね」

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