第118話 『44食目:ハンターの新郎用メニュー』
ということで、ロゼッタ、リーゼ、アン、ルカにライムちゃん…うん、いや、ライムも加えて、正式に嫁さんとしてもらうことになった。
ハンターの結婚自体は、ものすごく簡単だ。届け出を出すだけだ。式すらその日、その場で始められるらしい。だからこそ、今まで籍入れるのを、慌ててなかったんだけどね。
ただし、階級とそして奥さんの数に応じて、かかる金額が変わるらしい。
「はい。では、届け出の方は確かにこれで完了しました。お疲れ様です」
早速、いくつかの書類と届け出した。ロゼッタ、リーゼ、アン、ルカはハンターなので、それで終わり。
ライムも、1枚多く書類を出すだけで、行商ギルドには、ハンター協会から届け出をしてくれるらしい。だから手続きは、これでおしまい。5人は紙切れ数枚で、あっさりと俺の奥さんとなった。
ちなみにこの世界の結婚制度は親が誰かをハッキリさせることが目的だ。表向き、国民と籍をこの世界は厳密に管理している。どうやら魂の器に関することらしく、両親が誰かということについて、かなりうるさい。
だから、男1人に複数の女は、様々な条件はあるが条件をクリアすれば、許される。しかしその逆は許されないという、男女差別甚だしい制度になっている。
ただその代わり、男性の責任に関しては、地球よりも、かなり厳しい。特に2人以上の女性と結婚した場合、生活や育児にかかる費用は、共働きであっても、基本全て男性が負担をしなくてはいけないと決まっている。もし、払えないとなると男が有責の離婚事由にもなる。
生活や育児以外の費用に関しても、法律での縛りはないが習慣的に、男が出すことになっている。だから、複数の妻を持つというは、収入にかなりの余裕がある証拠でもある。
「結婚式の方ですが、シダンさんはかなり覚悟したほうがいいですよ。奥さん5人もいて、しかも美人揃いですからね」
どういうことだ?なんで、5人いて、美人揃いだとなんで覚悟をしたほうがいいんだ?
「何故って、顔してますね?ということは、まだハンターの結婚式に遭遇したことないんですね?」
「は…はぁ?」
「ハンター式の結婚式は、決まった式場…厳密には指定の料理屋で行われます」
「???」
「そこで、職員が司会になって、その場のお客さんに向かって結婚することの報告と、新郎新婦の紹介をします」
え?事前の準備もクソもなく、ゲリラ的にその場で結婚式をするのかよ。その日に式を行えるってそういうことなの?てっきり、自分たちだけのシンプル式なんだろうと、勝手に思いこんでたわ。
「その後は、お店の人全員に、新郎が奢ります。式の基本的な流れはそれだけです。ハンターは、庶民のヒーローですから、身内のためにではなく、その場に居る誰かのために動く、という意味があります」
「おおう」
「階級3、4なら、人の少ない時を見計らって、その場の人たちに。階級5、6は、昼飯時から2時間のお客様全て、階級7からは夕飯時から閉店までのお客様全てになります。あとは、そこの人がどれだけ食べるかになりますが…」
そういうことか。だから、美人揃いだと、新郎に対しての容赦がなくなるから、値段が上がるのか。
「
「料理店…どれくらい人が入るお店なんですか?」
「だいたい100人くらいですかね?夕方の6時から始めますので、閉店の11時まで5時間。3〜4回転ですので、3〜400人のお客さんに奢る、と思ってください」
高い酒も飲んだりして、1人
「私が知る最高記録で、階級7のハンターが奥さん3人貰ったときの魔鋼貨10枚ですが、それを上回るのは間違い無いですね」
「うわーお」
何というか、予想通りというか
※※※※※※
さっきの職員さんが司会も引き受けてくれたので、その日の夕方には、式が行えることになった。慌てて5人の式用のおしゃれ着を調達して、ギリギリで間に合わせた。
結婚式用のドレスという習慣はあまりなく、普段も使えるようなオシャレ服を着るくらいらしい。結婚式用に、ほかには一切使えないようなドレスを用意して着るのは、上級貴族や王族くらいだとか。そこは地球とだいぶ習慣が違うみたい。
「さて、ここで飲み食いされている方に朗報です」
ハンターギルド指定の料理屋『シンカーツ』に今回の司会を引き受けてくれた職員さんの声が響いた。
「もしかしてハンターの結婚式か?」
「お、ラッキー。今日はタダメシだぜー」
「この時間ということは階級の高いハンターか」
ハンターなんて1言も言ってないのに、もう、これだけでわかる人はわかるんだな。ということは結構よくあることなのかな?
「本日、結婚することになったハンターは、なんと先日10人目の
その声に応じて、司会の横に俺が立った。うわーたくさんの人がいるなぁここ。この人たち全員に奢るのか…。
会場からは、「あいつ、ついに結婚か」「年貢のおさめどきだな」とか囁きが聞こえる。俺、別に女遊びしてないのになぁ…いや、王の嫌がらせ…で、そんな評判になっちまったんだよなぁ。
「余りある幸運を、ここに居合わせた皆様におすそ分けしたいとのことで、本日、終業時間までのここでの飲み食いは全てハンターシダンが出してくれます!皆さん拍手!」
パチパチパチ、と盛大な拍手が鳴り響いた。
「では、ハンターシダンが射止めた、美しい新婦たちを紹介します」
新婦たちという司会の言葉に反応した男たちがいっせいにブーイングをした。すでに空気がやばいほどに殺気だった。
「ハンターシダンが結婚するのは…何と5人」
もはや、ブーイングは、会場が割れんばかりの大合唱となっていた。酒瓶がいくつか飛んできたので、
「酒瓶は投げないでくださいー。私に当たると痛いですからねー」
「………」
俺に当たるのはいいのかよ。一応、俺が主催者ってことになっているはずなんだけど!
「では、1人1人紹介しましょう!…まずは一人目が
ロゼッタは、少しタイトでスリットの入ったロングスカートに、上は長袖の襟なしのシャツを着ていた。長くなった髪の毛は背中に大きな三つ編みで纏めている。
「次がハンターシダンと長年パーティーを組んでいる
リーゼはロゼッタとは真逆のミニスカートにへそがギリギリ出ないミニシャツみたいなものを着ている。何か、ステージに立っているアイドルみたいな服だなぁ。髪の毛は前にリザ村でデートしたときみたいにツインのピッグテールにしていた。
「3人目は、足が悪かったハンターシダンを献身的に支えてきた
アンはいつも通りのメイド服…かと思ったら、ミニスカートのいわゆるフレンチメイドスタイルだった。ここは秋葉原か?髪の毛はいつもの纏めて、上げて、俺のプレゼントした櫛で留めるというスタイルは変えていない。
「4人目が、
ルカはシンプルに髪の毛と同じ色のワンピース。髪の毛はやはり最近定番のラビットイヤースタイルのツインテール。
「5人目に、カナチヨ行商ギルドのアイドル、カレーの伝道師
ライムもワンピースだったが、薄手、袖なしのルカとは違って長袖、厚手のワンピース。髪の毛は…うん。まとまらなかったのかいつもと同じだ。
俺の奥さん、みんな美人過ぎだよねぇ。だから紹介されるたびに、会場の殺気はさらに増していき、最後の方では、固体とも言えるほどの濃密さになっていた。
※※※※※※
ハンターの新郎用メニューというのがあるそうだ。結婚式のときに必ず出されるもので、嫁さんになる女性が、料理をして出すというものだ。
式中にそうした仕事があり、服もやはりドレスではないとは言え、オシャレなのを用意する、と式中は女性には負担がそれなりにかかる。平等を期すため、結婚式の費用は全額男性持ち、というルールがある。つまりここから、男性全額持ちの習慣が開始されるのだ。
5人の紹介の後、5人は厨房に引っ込んだ。どうやら、これから俺のために、そのハンターの結婚式用メニューを作ってくれるそうな。
うちの奥さんたちの料理の腕前についてだが…。
アンは上手い、というか、プロが裸足で逃げ出すレベルだ。ライムもドールルの手際や、カレーを広めたことなど見るにかなり上手いだろう。ロゼッタはコーダエで一緒に練習して、問題ないレベルには到達している。
問題は、うちの
リーゼは丸焼き以上、何もできない。火加減すら怪しいので、中は生焼けだったりする。それを超えて、ルカは、そもそも食事の経験が少ない。ご飯を食べるようになったのが、俺に再会して以降なのだ。
「どんな料理が出てきても、新郎は完食して美味しいと言わなくてはいけません。それが新婦への愛を示します」
司会が嬉しそうに会場に向かって説明した。この司会の女ぁ…絶対になにか知ってやがるな。
「まず、一品目ですね…ライムさんの作った…こ、は今、話題のカレーですね」
一品目はライムのカレーだ。最初だけは一緒に試行錯誤したが、その後、自分で工夫を重ねて、店に出せる品として完成させたらしい。
食べてみると…素晴らしい。これは地球で食べたスパイス系のカレーに近い。マーガイモは入れずに、蒸かして別皿に添えてある。
東京の神保町に、俺がよく食べに行ってたカレー屋があるんだけど…あそこの味に近いかもしれない。懐かしさもあって、あっという間に完食した。
「二品目は、これは…一体?ロゼッタさんが作ったようですが…不思議な長いものが器に入った汁に浸かっていますが…?」
おお!さすがロゼッタ。これはヤマーメンだ。温泉地でこんなすごく美味しいのがあったよーって雑談をしたことがあったが、なんと再現したらしい。
食べてみると…おおお、豚骨ではなく鶏ガラスープだ。食べたかった料理に、ロゼッタとの古い思い出の鶏ガラスープを使ってくるとは、さすがの演出だ。
一緒に乗ってる鶏チャーシューもまたかなり美味い。このショウスメインの味付けはアンに教わったな。あとでアンにもお礼を言っておこう。もちろん完飲。
「3品目…ルカさんのですが…氷?」
これは氷だ。料理という概念ですらない、氷の塊だ。フォークで突くが、いや、そりゃあ硬いよな。しかし齧ってみると妙に甘い。んんん?この妙な甘さ…食べた、いや飲んだことあるな…あ…これ…ルカの体えk………もちろん完飲。
「4品目の…え?これは?リーゼさんが作ったそうですが…ええと、炭?」
これは炭だな。なんの料理かすら原型を留めていない。単なる炭だ。俺は、この炭を食うの?ええと、痛覚や不快な感覚を遮断して…一口目を食べる。
うう、苦味は消せたが、臭さがすごい。臭いも遮断するが、口の中のゴワゴワ感は残った。ゴワゴワ感を消すと噛めないからな…諦める。
うぷ…。最近のギフト進化で得た感覚遮断がなかったらヤバかったわ。
「5品目…アンさんのですね…5人の中で1番の料理上手との前情報ですが、疲れ果てた胃を気遣ってか、ラコメットのお粥です」
ありがとうアン。この手のことにかけて、アンの嫁度の高さはありがたい。リーゼやルカの異次元料理を見て、きっと、これにしてくれたんだな。何という気遣いだ。
ああ、染み入る…優しい味だ。炭の後だと余計に口当たりのまろやかさや、ほのかな出汁の香りが心地よい。もちろん1度切った五感は、現在、フルに稼働している。この安堵感を全身で味わいたい。
「さて、新郎のシダンさん、5人の花嫁の手料理如何でしたか?」
「5人ともありがとう。美味しかった」
「炭もですか?」
「ええ、はい」
歯切れが悪くなったのは勘弁してくれ。炭だぞ。見ると厨房の出入り口に5人が並んでいたが…リーゼだけが、泣きそうな顔になってる。
何でも手出しが一切禁止のルールがあるらしい。ロゼッタ、アン、ライムはきっと助けてあげようとしていただろうな。後でみんなをフォローしてあげないと…。
そんなこんなで夜まで続いた結婚式は、お会計にして魔鋼貨23枚という空前の新記録を叩き出して終了した。
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