第16話 エルフの少女とクッキングタイム

日がまだ落ちてはいないが、わずかに夕方の気配を感じさせる頃。俺は治療の初仕事?を終えて、ハンター協会の治療院から、院長先生と歩いて、孤児院に戻っていた。


先ほど怪我を治したハンターの1人が、タダでと申し出てくれて、大量の肉を積んだ台車を孤児院まで引っ張ってってくれることになった。


「院長先生、お金を得る目処はつきましたが、まだしばらく孤児院でお世話になってもよいでしょうか?」

「今日1日、貴方といろいろ話して思いましたが、貴方はかなり頭がいいようですし、独立して生きていけそうだけど?」

「お金だけならそうかもしれませんが、私はまだ9歳です」


正直、この異世界は不明な要素が多すぎる。金を得る手段が見つかったら即独立っていうのはいくら何でも見きり発車が過ぎるというものだ。


「院長先生という大人の後ろ楯がないと、あるいは軽く見られたり、カモにされたりの危険があがります。できれば卒業する12歳までの3年おいて頂けると…お金も入れますので…」


これが社会人なら子供部屋おじさん一直線だが、リアル子供なら問題あるまい。


「わかりました。ただ、お金は要りません。独立してから、余裕があったらで構いませんから…」

「じゃあ、改めて、これからよろしくお願いいたします!」


頭を下げる。すると、すぐに頭に柔らかい感触がした。まもなく、頭を撫でられてあることがわかった。


「まずは、家に帰って晩御飯を作りましょうか?」

「はい!院長先生。今日はお肉たっぷりで、楽しみですね!」


※※※※※※


「じゃあ、今回も私が腕によりをかけて作るねー」


いっぱいの肉を持って帰ったら、ロゼッタが張りきってそう言った。そういえば、朝御飯もロゼッタが作ったって言ってたなぁ。


「何を作るんですかね?」と何気なく院長先生に話を振ったら、苦笑をした。


何だろう、と思ったら、ロゼッタは、この孤児院に来て1か月ほどらしいが、何故かシチューに拘りがあるらしく、たぶんまたシチューだろう、と話していた。


案の定鍋を出してきて、恐らくシチューを作るだろう準備を始めるロゼッタ。まずは、貰った肉…イブニングバードという、モンスター鳥らしい…のモモ肉を、包丁を使い、慣れた手付きで骨から切り離し始めた。


(この世界のエルフは、肉を普通に食べるんだなぁ…ロゼッタが孤児でそういうことを教えられなかっただけかもしれないが…)


そんな前世の知識よるメタ的なことに思いを馳せていた俺だが、捨てられそうな骨を見て、ふと、あることを思い付いた。


「ロゼッタ、これも料理に使ってみない?」


俺はいま、ロゼッタが肉から切り離して、捨てようとしていた骨を指差す。


「これ?これって、骨?」

「そう骨。イブニングバードの膝のあたりの骨だね」

「えーと、シーくんは、骨をどうやって料理に使うの?硬くて食べられないと思うんだけど…」


うーん。こっちの世界に鳥ガラスープって概念はないのかな?まぁ、燃料使うしなぁ。


「まず、骨を煮るんだよー」

「いや流石に煮ても食べられないよー」

「もちろん食べられない…でも骨を入れて煮ると、スープの味が美味しくなるんだ!」

「ほんとに?それってどれくらい煮るとおいしくなるの?」

「ほんとは3時間くらいがいいんだけど、それだと時間がかかりすぎるから…1時間くらいかな?」

「うーん、やってみたいけど…あんまりたくさん薪使えないかも…」


そう、薪もただではない。


だから、この世界は燃料代がそれなりにかかる。薪の費用も、日本でガスを使うのと比較するとバカにならないようだ。だが…今日、治療院で実験して判明した俺のギフトがあればこれを解決できるのだ!


「それなら任せて!…えい!芽の根ルート!」


足裏から伸びた地下茎が、切れるとバラバラっと薪にぴったりな感じになっていく。この俺のギフトの特性である芽の根ルート。根や地下茎を足の裏から自在に伸ばして、操れるというものだが…。


さっき薬効の子葉メディカルリーフを試したときに、ほかの能力も治療院で検証していたのだ。


その結果…伸ばした地下茎を足から切り離すと、すぐ薪に適した乾燥材になることがわかった。


うん。つまり切り離していけば、このルートで薪を無限供給できるだ。地味だが、まじ便利だと気づいた。ただ、切り離してほっとくと、30分~1時間程度で完全に朽ちてなくなる。そのためストックしておくことはできない。


「おおおお!?すごい!」

「1時間程で完全に朽ちてなくなるから、燃やすタイミングで出していくよ」


野菜切りや準備などはロゼッタに任せて、俺は鍋の火担当、兼、アクをひたすら取る『アク代官』に徹する。


骨を折り入れて、煮込む。途中切り終わって使い道が肥料くらいしかない野菜クズや肉も投入する。ほんとうは分けてやった方がいいんだろうけど、流石にそこまでやってられないから省略!


ひたすらアクを取り続けること1時間。野菜クズもいい感じに溶けてきた。これは、かなり深い味になってそう。骨を取り除くと、白濁のスープが出来上がっていた。


「あれ?野菜クズがない?」

「うん。でもスープに味としては残ってるから大丈夫…味見してみて」


スープを小皿によそってロゼッタに渡す。可愛い桜色の唇から、恐る恐る飲もうとする姿は、なんだか小動物みたいだ。


……白濁の液体をエルフ少女に…という不穏なワードが頭に浮かんだので必死に消した。


「え…なにこれ…まだ味付けしてないよね?」

「うん。塩も何もいれてないよ」

「鳥と野菜の味がするー不思議ー」

「ね?水の代わりにこれでシチュー作ったらおいしそうじゃない?」

「うん!うん!絶対においしいよ!」


ロゼッタが大興奮して、ニコニコになる。クリクリとした目がさらに輝いて、頬が紅潮してる。余りにキラッキラとして可愛らしい様子に思わずこっちが照れてしまって、顔を逸した。


顔を逸した先には、窓があり、外を見ると…外はだいぶ赤みが射してきている。あーラブコメしてる場合じゃないな。急いで晩御飯を作らないと…。


「よし!じゃあみんながお腹をすかせる前にシチュー作っちゃおうか?」

「うん!」

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