第22話 じゃれず、しっく
放課後になり、さきに教室を出た。彼女は日直だったので、黒板を消していた。
他の掃除はともなく、小学校のころは、なぜか黒板を消すが楽しい時期があった。そんなことを思い出しながら、教室をあとにする。
雑談をしかけてくるクラスメイトもいなかったし、教室に残れる理由もなかった。
なーに、のろのろ、歩けばいいのさ。と、心をきめこんで、校門を出る。風がそよそよ吹いていた。
猫を探しながら歩く。やがて、しばらく手入れもされてない、雑草だらけの空き地を通りかかったとき、みつけた。
灰色っぽい色をした、たまにこのあたりで見かける猫だった。まえに彼女と一緒のときに見かけた。ぜんたいのほんどが灰色っぽい毛で、前足と、顔がちょっと白い。
シックな感じの猫だった。シックという表現が、どういうものを表現するときに、つかうべき言葉なのかわかってないけど、シックな感じのする猫だった。
車だったら、新車、みたいな。
と、ひとり考えながら、猫を見る。
シック猫は、雑草のなかに、伏せるようにして、めり込んでいた。隠れているつもりだろうけど、ヒトからは、シックな感じがまる見えだった。どうやったって、雑草のなかに、なかなか、シックはないので、景色にまじりきらない。
風がそよそよ吹いていた。雑草もゆれている。
ふと、気がついた。よく見ると、シック猫のまわりの雑草は、ねこじゃらし草だらけだった。ちなみに、ねこじゃらしは、その植物の正式な名前じゃない。これも彼女に教わったけど、本当の名前は忘れてしまった。
それはそうと、ねこじゃらしに囲まれた場所に、猫がいる。
しかも、風はそよそよ吹いている。シック猫のまわりのねこじゃらしが、みんなゆれている。
あんなにゆれるねこじゃらしに囲まれ、シック猫は、とびついたりしないんだろうか。
いまはまだ動きはない。力をためている印象もうけなくもない。
シック猫の目先は、風ゆれるねこじゃらしだらけだった。いま、あの猫はどういう心境なんだ。道に生えているねこじゃらしへ、猫がじゃれているのは見たことがない。
眺めていると、彼女がやってきた。いつものように、はんぶんしか開いてないような目をしている。
こっちに近づいてくると、立ち止まって、こっちの顔を見て、雑草の生ええた空き地をみる。それから「いるんだね」といってきた。
「います」と、なぜか敬語でこたえてから、灰色っぽい猫をひろげた右手で紹介する。
すると、彼女は「シックな車みたい」とひとこといった。発送の種類が、おなじだった。
「ねこじゃらしにかこまれてる」と、いった。さらにつづけた。「あんなに風でゆれるてるねこじゃらしに囲まれてて、猫ってじゃれないのかな」
「そういうのも、いて欲しい」
答えではなく、彼女の願いが返された。
すると、シック猫が、むく、っと立ち上がった。そして、ヒゲ先で揺れていた、ねこじゃらしを、じっと見つめだす。
あ、いくのか。
と、思って、手にあせ握りかける。
つぎの瞬間、シック猫は、ねこじゃらしを、ぱく、っと食べた。
「わ、たべた」
おどろいて声を出してしまう。
となりで彼女は落ち着いていった。
「ねこ、ねこじゃらし食うよ」
「なぜ」
「ネコ草としてと、食うときいております」目をつぶり、一礼しながら教えてくれた。
「ネコ草」
「ネコはお腹の状態を微調整する、草くって」
追加でレクチャーしてくれた。いっぽうで、彼女の方はスマホの画面を確認している。シック猫がねこじゃらしを食べた瞬間を、写真へおさめることへ成功したらしい。
でも、ということは、つまり。
あの猫は、どのねこじゃらしを食べようか、じっと選んでいたのか。
シックだし、グルメな猫だ。
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