第10話
pHが測定不能とは、数値が極端に変わってしまったということだろうか……。
「……このステータスプレートは『鑑定』できないのか?」
俺は土の上に出てきたステータスプレートに向かって『鑑定』を発動した。
◯pH◯
土壌内の酸度を表す数値。現在の土壌は栽培される作物に合わせた酸度に調整されるため測定不能。
「……またチートかよ。魔法の肥料ってやつは都合が良すぎじゃないか?」
カミラのやつ、いくらなんでもやりすぎだろう。これじゃ農業の醍醐味が台無しじゃないか……。
農業っていうのは、畑の土づくりも栄養素や酸度なんかを調整して、長い栽培期間も病気や虫害なんかに気を抜けない大変なものだった。
それがこうも簡単に進んでしまうと正直に言って大変つまらない。
「まあ、これはこれでポイントを稼げるからいいか」
『資材ショップ』には地球の作物もあった。それは絶対自分の力だけで栽培したい。
最初は文句も言っていられない。カミラがせっかく用意してくれたのだ。使わないわけにはいかないだろう。
とりあえず俺は肥料を撒いた畝に種を蒔くことにした。
昨日は1本だけ畝を立てたので、その畝を3つの区画に分けて栽培することにした。
3つの区画に種を蒔くと、それぞれの植物の種を1袋ずつ消費した。
「あとは水を撒かないとな」
俺は家の裏にある斜面を下りて小川へと向かった。
昨日買ったジョウロを持って流れる川の水を掬う。
「……よくよく考えたら水道で水を救ってもいいのか」
家の中にはどういう仕組みかわからないが、ひねると水が出てくる蛇口がある。
川の水で植物を育てられると昨日は喜んだが、わさわざ家の裏にある小川から水を掬う必要もなかったのもしれない。
次からは水道で水を汲もうと心に決める俺だった。
◇
種を蒔いた場所に水を撒き終わった俺は、とりあえず朝食を摂ることにした。
家に入って補給ボックスを見ると、すでに7時を回っていた。扉を開くと、中には昨日食べたセグリのパンと大きなオムレツのようなものが入っていた。
◯プリュネの卵のオムレツ◯
鳥型モンスタープリュネの卵を使ったオムレツ。プリュネの卵は巨大で、それを存分に使った卵料理はシュクレーゼでも大人気である。
「へえ……これもモンスターの料理なんだ」
やはり、畜産業なんかはあまり発展していないのだろうか?
まあ、こうやって初めて食べるものが毎食出てくるのは新鮮で楽しいかもな。
しかし、相変わらずなのはセグリの黒いパンだ。朝食にはスープもないので、昨日のように柔らかくして食べることもできなかった。
「口の中がパッサパサになってきたぞ……」
俺は喉が詰まりそうになりながらもなんとかセグリのパンを食べることができた。
今後は毎食スープが出てきてほしいと切に願いながら朝食の片付けをした。
再び畑に向かった俺は昨日立てた畝の横にもう1本畝を立てることにした。
まだ植物の種は余っているので、今度は魔法の肥料を使わずに栽培してみたいと思った。
俺は昨日立てた畝の横を鍬で掘り返し、土を耕した。途中、雑草や小石など邪魔なものを除きつつの作業なので、少し時間がかかってしまった。
「本当はここで足りない栄養分を補う肥料を入れるんだけどなあ」
土の状態はあまり良くないので、本来ならここで肥料を混ぜ込むのだが、もちろんここにはそんなものはない。あるのは魔法の肥料だけなので、今回畝を立てた理由に反する。
仕方がないのでそのまま畝を立てていくことにした。
土を掘り返し、掘り返した土は畝を立てる予定の場所に盛っていく。
その作業を1時間以上繰り返し、何とか土を盛り終わった。
そして、俺が大の苦手とする土をならす作業だが、それが終わる頃には昨日と同じようにガタガタの畝が出来上がってしまった。
「昨日もやったのに相変わらずだな……」
なぜこうも上手くいかないのかはわからない。1年も経てば完璧な畝立てができるようになるだろうか?
畝立ても終わり、俺は今日立てた畝に種を蒔くことにした。
今回はこの1本の畝にコブルコの種だけを蒔くことにした。用意されていた種の中で1番栽培期間が短いので、収穫が早い方がいいと考えたからだ。
種を植えるタイミングで、色々試してみることにした。
種の蒔き方にも色々種類がある。今回は筋蒔きと点蒔きを試してみることにした。
俺は今立てた畝を2分割にして種の蒔き方を変える。
筋蒔きは畝に溝を作り、そこに種を蒔くものだ。俺は木材を土に押し当てて溝を作り、3センチほどの等間隔で種を蒔いていった。
畝の半分ほどまで蒔き終わったところで、今度は点蒔きに切り替える。
点蒔きは土に穴を掘り、そこに種を蒔く方法だ。今回、穴は2〜3センチほどの深さにした。それを30センチほどの間隔で蒔いていくと、ちょうど畝の終わり頃でコブルコの種を使い切ってしまった。
「お、丁度終わりか。これも10日後には収穫できるなんて、異世界なんでもありだな」
まあ、隣の畝は明後日かそこらには収穫できるんだろうけど。
種を撒き終わった俺はその後水撒きを行なった。その日は昨日立てた畝の雑草抜きをしてゆっくり過ごした。まだ畑が小さい分、やることも少なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます