第15話、アクセスは、マナーを守って……

 鬼龍会の定例会議も、ヤクザ顔のおっかない顔をした連中が列席し、中々にビビるが、この仙道寺の場合、部員は全員が男子の為、異様な威圧感がある。

 広めの会議室が無い為、この化学実験室を使っているようだが、様々な実験器具やフラスコ・ビーカーが並ぶ中、実験机に座っての会議である。 何か、良からぬ団体が化学テロを計画し、集結しているような… 不気味とも言える、異様なまでの雰囲気をかもし出している……


 会議の途中、コップに注がれたオレンジジュースが出された。 他の部員たちにも配られたが、コップが足りないようで、ビーカーに注がれて渡された部員もいた。 中には、試験管( 目盛り付きの特大 )で飲んでいる輩も…… 薬品が残っていて、死ぬかもしれんぞ? お前ら。 三角フラスコで飲むオレンジジュースも、絶対に旨くないと思う……


 会議の途中、神岡のスマホが鳴った。 着メロは『 兄弟仁義 』。 ……シブイな、お前。 注目度はダントツかもしれんが、絶対にマネはしたくない。 ♪ 親ァのぉ~、血を~引くぅ~、兄弟いぃ~~~、より~ぃ~い・いいぃ~もおぉ~~… ♪

 スマホに出る、神岡。

「 おう、オレじゃい 」

 ヤーさんか、君は。

「 …… 」

 神岡の表情が、こわばる。


「 誰じゃい、貴様……? 」


 一同、神岡の方を注目する。

 やがて神岡は、スマホから耳を放し、僕の方に渡しながら言った。

「 朝倉次長を、と言っています 」


( ……は? 誰? )

 僕は尋ねた。

「 私…… ですか? どちら様からでしょうか? 」

「 さあ、分かりません… 妙に落ち着いていて、高飛車な言い方ですが…… 」

 誰だろうか? 皆目、見当が付かない。

「 …… 」

 僕は、無言のまま神岡のスマホを受け取り、電話に出た。

「 もしもし? 朝倉ですが 」

『 やあ、みちるクンかね? 私だ 』


 サ、サバラスっ……! 何で…? しかも、神岡のスマホだと……?


『 一般電話が使えるようになってね。 とりあえず、掛けてみた 』

 だったら、コッチに掛けて来んかテメー! それ以前に、何でNTTの回線を保有しとる?

「 今、取り込み中なので、また後ほど…… 」

 僕は慌てたが、ぐっと落ち着き、冷静な口調で答えた。

 サバラスは、僕の希望を完璧に無視し( 予想はしていた )、続けた。

『 リンリンが生えて来てね。 君と話したいそうだ 』

 僕は、永久に話したくない。 それに、生えて来た、とは? ……あ、そうか。 電車に轢かれて、バラバラになっちまったんだっけ。 水を入れた盆に浸しておいたら、生えて来たと言うワケか。 摩訶不思議な生き物だな……

 僕は、有無を言わさず、電話を切った。

 スマホを神岡に渡す。

 神岡が、受け取りながら尋ねた。

「 どちら様で? 」

 宇宙人です。 …一瞬、言いそうになった。

「 校外に委託している情報屋の1人です。 間違って、そちらの番号に掛けてしまったのでしょう。 失礼致しました 」

 神岡は、腑に落ちない表情をしたが、それ以上は追求しなかった。


 今度は、僕のスマホが鳴った。 ヤな予感……


「 ……はい、朝倉です 」

 会議中の為、幾分、声の音量を落として電話に出る。

『 切れてしまったようだ。 実は本部から、ペルセウスの太陽風焼き団子を送って来たのだが、食うかね? 』

 要らんわっ…! いちいち、そんな話題で掛けてくんな!

 僕は、ソッコーで電話を切った。 ついでに電源も落とした。

「 ……誰だ? 」

 隣の星野が、小声で尋ねた。

「 サバラスだ……! 」

「 やはりか…… 元気にしているのか? 」

「 元気過ぎるな…… 少々、血を抜いて気絶させておいた方が、人類の為かと 」

 星野が、笑って答える。

「 相変わらずのようだな。 他人事のようで申し訳ないが、あたし的には、久し振りに会ってみたい気もするな 」

「 やっほ~♪ 」

 足元から、聞き覚えのある声が……!

 机の下を見ると、フローリングの床から、頭を半分ほど出したサバラスがいた。

 僕は、小さな声で言った。

「 バカ……! 他の連中に見られたらどうすんだよっ……!」

 サバラスが答える。

「 ほほ~う。 白に、ブルーボーダーか…… 」

 僕は、慌てて制服のスカートを押さえた。 瞬時に、星野がサバラスの頭を踏みつける。 この辺り、コンマ数秒の早業。 まさに、目にも止まらぬ速さである。

「 う・ぷきゅっ 」

 小さな声を出し、サバラスが引っ込む。

 仙道寺の連中には、何とか気付かれなかったようだ。 僕は、姿勢を正し、小さく言った。

「 ……油断もスキもないな……! 」

 サバラスは今まで、僕と星野・かすみ以外の者がいる所へは、基本的にはアクセスして来なかった。 ところが最近、慣れて来たのかナメているのかは分からないが、へっちゃらのようである。 困ったもんだ……



「 では、気を付けてお帰り下さい。 有難うございました! 」

「 ぅありあとあした~あ~あ~! 」

 会議終了後、校門前にて全員による『 お見送り 』。 極道の姉さんたちを見送る構成員、の図である。

 路上を歩く歩行者たちが、ジロジロと見て行く。 注目度、120%だ。 本当は、校門前の道を真っ直ぐ歩いて行く予定だったが、『 お見送り 』を逃れる為、1つ目の十字路を右に折れた。


「 やれやれ…… 会議ってのは、疲れるモンだな 」

 アーケードの掛った商店街を歩きながら、両手を上げ、伸びをしつつ、僕は言った。

 星野が言う。

「 組織の中では、会議は、ある種のバロメーターと言える。 回数が少なくなればなるほど、その組織は安定しているか、機能していないかのどちらかだ 」

 なるほど。 経営理論ですか……

 電源を入れた途端、僕のスマホが鳴った。

( 非通知…… )

 ヤな予感がしたが、とりあえず出る。

「 はい、朝倉です 」

『 私だ。 至急、相談したい事がある。 センターまで来てくれたまえ 』

 ……サバラスの声だ。

 て~ンめえぇ~…! 呼び出しとは、イイ身分になったじゃねえか。 いつから僕は、お前の部下になったんだ? しかも、センターって… ドコじゃ、コラ……!

 例によって、急速にムカついて来た。

「 用があるんなら、コッチへ来いっ! 要らん時にばかり出て来やがって、ふざけんなよっ! 」

 怒った朝倉センパイの声も、中々に良い。 普段からは想像もつかない口調が、またイイ……!

『 ははは。 冗談だよ、みちるクン。 必要な場合は、こちらから出向く。 他人が出入りして、私のプライバシーを引っかき回されても、少々、困るからね 』


 ……僕のプライバシーは、どうでもいいんか?

 ま、どうでもいいから、やりたい放題なんだろうな…… いつか、着実に殺してやるからな、お前。


 サバラスは続けた。

『 実は、パックマン伯爵の件なのだがね…… 』

 ……忘れていた。 僕を、標本採取に来るとか言うヤツの事か。

『 リンリンの話しによると、どうやらヤツは、地球人に乗り移ってキミを探す気らしい 』


 は? ナンじゃ、そら……?


『 キミに対して、憎悪を燃やしている人物に気を付けたまえ 』

 ……憎悪? どう言う事だ。

 僕は尋ねた。

「 朝倉センパイの事を、か? 」

『 そうだ。 ヤツは、人の心を操れる。 憎悪は本能的だ。 ヤツにとって一番、体を乗っ取り易い状態の対象者なのだ 』


 ……ナンか、得体の知れんヤツだな。 不気味じゃねえか……!


 朝倉センパイは、鬼龍会の幹部だ。 業務上・立場上、人や組織を、仕方なく処罰した事だってあるだろう。 逆上し、恨みを抱いている連中も多いと思われる。 う~む……

 乗り移られた人間は、どうなるのだろうか? 明らかに人格変異して、それと判るものなのだろうか。

 僕は、聞いてみた。

「 パックマン伯爵だ、と見切れる… 証拠みたいなものはないのか?」

『 ない 』

 ……軽く、言い切ってくれるじゃねえか。 打つ手なし、かよ。

 サバラスが追伸する。

『 まあ、あまり参考にはならんと思うが、ヤツは、十字架に弱い 』

 あのな…… それ、すっげ~ポイント高いと思うが、ヤツはドラキュラか?

『 ちなみに、満月の夜に、胸に十字架を当てると死ぬ 』

「 …… 」

 よく分からん宇宙人だ。 第7銀河とやらには、月があるのか? 満月って… どことなく、地球的表現設定なのが胡散臭い。 ニンニクが嫌い、と言うのよりは信憑性があるかもしれんが……

 僕は言った。

「 まあ、とにかく用心はしておくよ。 それより、いつ元に戻してくれるんだ? データの修復とやらは、終わったのか? 」

『 あ、用事を思い出した! イカン、イカン。 じゃ、また! 』

「 …… 」

 スマホは、ソッコーで切れた。


 ……すんげ~、ワザとらしい。


 今の返答で、大体の状況は知れた。 つまりは、例によってウマくいっていないと言う事だ …てか、食う事に専念するあまり、業務を忘れているのではないだろうか? 明日辺り… ホントに、いっぺん殺すか……?

 星野は、酒屋の前にあった自販機に小銭を入れ、コーヒーを2つ買いながら言った。

「 サバラス、何と言っていた? 」

「 何かよく分からないけど、僕を標本として、採取しに来るヤツがいるらしい 」

「 標本? 何だ、それは? 」

 コーヒー缶を1つ、僕に渡しながら、星野が尋ねる。

「 あ、サンキュー… 第7銀河とやらに住んでいるパックマン伯爵、ってヤツだ。 人に乗り移る事が出来るらしい 」

 プルトップを開け、星野は言った。

「 SFみたいな話しだな。 まあ、実際、サバラスという宇宙人がいるんだ。 そんなような輩が他にいたって、不思議ではないがな 」

 ……星野は、サバラスの話を受け入れられるようだ。 僕としては、イマイチ、鵜呑み出来ない。

 コーヒーを一口飲み、星野は言った。

「 でも…… 何で、お前なんだ? 地球人の標本なら、他の者でもいいと思うが? 」

「 ……だろ? 他の人間と入れ替われる事が標本としての価値観らしいが、そんなん、誰でも同じだと思うけどな 」

 コーヒーを飲みながら、星野は言った。

「 たまたま、お前が、何度も入れ替わりをした…… それだけの事だが、そのパックマンとかと言うヤツには、貴重に見えたか…… もしかしたら、そいつ、知能が低いんじゃないのか? 」

 …さすが、冷静な星野。 分析も、的を得ている。

 僕は答えた。

「 あのサバラスが『 アホ 』と認識しているヤツらしい。 ある意味、一筋縄ではいかないかもな 」

 苦笑いする、星野。

 空になった缶を専用回収ボックスに入れ、僕らは、ひなびた商店街を歩き出した。

 星野が言った。

「 こうして、お前と歩くのも…… 久し振りだな。 まあ、見た目は、朝倉の姿だが 」

 星野の頬が少し、紅潮している。

 以前、お互いの体が入れ替わった時… 星野は、もし元に戻れなかったら、このまま結婚しよう、と僕に言った事がある。( 前編参照 ) 何となく、その事が思い起こされた。

 あれは、本心だったのだろうか。


( 星野は、僕の事を、どう想っているのだろう…… )


 男性的ではあるが、相変わらず、妙に魅力的な星野。

 体が他人に入れ替わっている時、元に戻れないかもしれないという不安からだろうか、いつもとは違う心境が、心を支配する。


 ……ヤバイ。

 また星野から妖艶な発言をもらったら、ヘンなキモチになってしまうかも。 かすみ、怒らないでね~……


 星野が言った。

「 思い起こしてみれば、お前とは、マトモな体同士で歩いた事が無いな 」


 ……確かに。

 お互い、苦労してますな。

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