第12話、招かざる珍客
「 朝倉が登校していないというのは、どう言う事だ! 」
幹事長の龍二が、副長であるマサに言った。
「 ……分からん。 連絡を取ってはみたが、携帯は通じん 」
腕組みをし、難しい表情で答えるマサ。
鬼龍会の部室には、星野をはじめ、龍二やマサ、風紀委員会局長の芹沢ら、巨頭幹部が集まっていた。
星野が言った。
「 かすみから連絡があったのは、朝だ。 昼過ぎになっても美智子から連絡が無いのは、やはり何かあったに違いない。 ……涼子、その後は、どうなっている? 」
誰かと連絡をしていたスマホを切り、芹沢が答える。
「 依然、消息不明です。 校欠を申請し、捜索人数を増やしましょうか? 」
「 そうしてくれ。 風紀委員を総動員しても構わない 」
「 了解しました! 」
一礼し、急いで部室を出る、芹沢。
龍二が、星野に尋ねた。
「 かすみさんからは、何と? 」
執務机のイスに座り、星野は答える。
「 美智子から、携帯に連絡があったらしいんだが、要領を得ない内容だったそうだ。 おそらく、現状を伝えられない状態だったのだろう…… 」
「 なぜ、かすみさんに連絡を? 」
マサが聞いた。
「 分からん…… 多分、マークされていない、身内以外の人間に掛けたんじゃないのか? 」
実際は、かすみに連絡があったのではなく、その逆だ。 だが、直接的には会話をする機会が無いかすみが朝倉に電話して来るのは、微妙に不自然である。 星野は整合性を考慮し、事実とは違う経緯を皆に伝える事を選択していた。
( サバラスだな……! おそらく星川は、美智子と入れ替わったんだ )
かすみ・星野は、サバラスにまつわる因果を経験している。 お互い、大体の状況から、何があったのかは想像出来ていた。
かすみと事実を推察し、星野は、その情報内容を交換し合っており、結果、状況が伝えられないと言う事は、体が入れ替わった以外に、他にもまだアクシデントに遭遇している、と言う結論に達していた。 アクシデントの可能性としては、やはり先日、『 挨拶 』をして来た偕成商業が絡んでいると見るのが妥当な線だろう……
何も知らない者よりは、不安要素は半減しているが、『 朝倉 』が行方不明であるという事実には変わりはない。
執務机のイスに腕組みをして座り、虚空の机上を見つめる星野。
( 本当の美智子は、星川と入れ替わり、凍結回収状態か…… 星川は、また厄介な事に巻き込まれてしまったようだな )
そう推察した星野は、マサに言った。
「 マサ… 単独で、偕成商業を探れ。 あたしは先日、和田から挨拶を受けたばかりだ。 美智子の件は、多分、ヤツが絡んでいる 」
マサの眉が、ピクリと動く。
「 ……了解しました。 事態が明白になった場合の処遇は、いかが致しますか? 」
「 任せる。 まがりなりにも、鬼龍会幹部を狙ったのだ。 それなりの処置をするように 」
「 御意 」
鋭い眼光を光らせ、マサはそう答えると、部室を出て行った。
どこまでも続く、高架のレール……
ここまで来る途中、何本かの列車が通り過ぎて行った。 線路内で運転手に発見され、騒ぎになっては困るので、その度に、僕は電柱の陰に隠れた。
「 そろそろ、どこかから降りないとな…… 」
駅は待ち伏せされているに違いない。 どこか、適当な場所から地上に降りた方が良さそうだ。
次の高架に作業用のハシゴが付いている。 僕は、そこから下りる事にした。
「 やっ! どうもっ 」
……また、サバラスが現れた。 相変わらず、唐突に出て来るヤツだ。 朝飯はウマかったか? いずれ、殺してやるからな… キサマ。
「 データの修復は、終わったのか? 」
ため息をつきながら、僕は尋ねた。
「 いやあ~、それが中々に、はかどらなくてねえ~ 困ったモンだ。 はっはっは! 」
……楽しそうじゃねえか。
大体、担当者がこんなトコに遊びに来ていて、はかどるも何もないだろう。 見たところ、全然、困ったような様子でもないし、高らかに笑い飛ばしているトコなんざ、その片鱗も見当たらんわ…… いっそ、ブチ殺すか? その方が、心因的にスッキリするような気がするわ。
僕は、脇にあった変電ボックスに腰を下ろすと、こめかみに右手をあてがい、ウンザリしたような口調で言った。
「 用が無いのなら、出て来んな。 はよ帰って、データの修復をしろよ 」
「 たまには、休憩をしなくてはね。 良い仕事は、余裕あるスケジュールからだ 」
あのな…… ミスしてて、良い仕事もクソもあるか。
その『 余裕あるスケジュール 』とやらに、朝飯・ティータイム・昼飯・おやつ・晩飯・夜食以外の予定があったら教えてくれ。
僕は、両膝に両肘を乗せると、前かがみになって深いため息をついた。
レールに、ちょこんと座り、サバラスが言う。
「 時に、星川クン。 このメスは、好きかね? 」
……は?
何を言っているのか意味が分からず、僕は無言でいた。
サバラスが続ける。
「 いや、どうも私が思うに… 入れ替わりの相手は、本人が気に掛けている相手と入れ替わるような気がしてね 」
う~む…… 一理、あるかも。
だが、例外もあるだろう。 ヒゲ親父と入れ替わった時は( 前編参照 )、ナニも考えていなかったはずである。
僕は答えた。
「 確かに、当てはまる事はあるな。 だが、全てじゃない 」
「 ふむ…… で、このメスは、好きなのかね? 」
「 ……まあ、そりゃ…… 魅力的だとは思うけどな。 でも、年上だし 」
「 一発、ヤリたいとか? 」
「 ブッ殺すぞ、てめえ! 」
「 あとで、じっくりと、ナニをいじくり回してみたいとか? 」
「 死ねええぇ~~~ッ! 」
言うや、サバラスの顔面を蹴り飛ばす。
……こいつは、蹴り飛ばされる為に、出て来るのではないだろうか? 毎回毎回、節操の無い発言には、いい加減、ウンザリだ。
下り側の線路まで吹っ飛んだサバラスが、プルプルと振るえながら起き上がり、言った。
「 いやぁ~… 実は、紹介したい者がいてね 」
……紹介? まさか、お前がオリオン辺りに出張で、後は、後任に宜しくぅ~、ってんじゃないだろうな? 敵前逃亡も甚だしいわ。 軍内部だったら、銃殺刑だぞ。
「 ∈§仝Ω*:~! 」
突然、聞き慣れない声が、僕の耳に聞こえた。
「 ? 」
辺りをうかがうと、奇妙な『 モノ 』が線路脇に立っている。
一切、毛が無い丸い頭に、大きな丸い黒目と小さな口。 極端に撫で肩の体に、ひょろ長い腕と足。 体の色は、薄い茶褐色だ。 ウエットスーツのような銀色の服を着ていた。
……ナンだ? コイツ。 生き物か……?
「 ≦∴/∞! 」
サバラスが、ワケの分からない言語で応答している。
「 おい、コイツ… お前の仲間なのか? 」
「 M523星雲、第5惑星のリムタイト族だ 」
……ナンじゃそら。 知らんわ。 だいたい、そんな星団、聞いたコトもない。
だが、確かに宇宙人なのだろう。 こんな格好の人間など、地球上に存在するハズもない。
得体の知れない宇宙人は、更に、サバラスに話し掛けた。
「 ⊆∀~ΩΩ、ΘΠ∴∞-∴Σ? 」
サバラスが、ヘンな言語で答える。
「 Σ/仝~∽、∴§~∴ 」
すると、ヒョロヒョロ宇宙人が、言った。
「 これか? う~ん… 面倒一杯なコトバねー。 」
日本語だ……! コイツ、日本語が喋れるらしい。 ビミョーに変だが……
サバラスが言った。
「 言語ソフトは、それだ。 チェック、入れておきたまえ。 …あ、星川クン。 彼は、私の友人で、リンリンだ。 物理学者でね。 今回の地球調査は、彼との共同ミッションなのだ 」
……風体に似合わず、可愛い名前じゃないか。 妹は、ランランかな?
僕は、とりあえず挨拶した。
「 あ、ども… 」
宇宙人… いや、リンリンは、折れそうに細い足を折り曲げ、砕石の上に正座すると三つ指を突き、丁重にお辞儀をした。
…う~む、宇宙人にしては、日本文化を良く研究しているようだ。 サバラスとは全然、違う。
やがて、僕の方に顔を起こし、リンリンが挨拶を返した。
「 宜しくしたれや、おお? たわけ 」
……へし折ったろか、てめえっ……!
仰々しく正座したかと思えば、『 たわけ 』と来たか。 ありがた過ぎて、殺意が芽生えるわ。 多分、言語の変換ミスだとは思うが、態度と言葉が全然違う。 サバラスの友人だけに、ワザとやっているように思えるのは、僕だけか……?
リンリンは続けた。
「 実は、大変な事になってね 」
…もう、なっとる。 これ以上、もっと大変になったら… 僕の精神は、崩壊するぞ? アンタ。
「 体を入れ替えられる事に、非常に興味を持ったヤツがいてね、君を標本として採取しに来るらしいんだ。 愉快、痛快、日本海 」
「 なっ… 標本? 」
……今、何気に寒い、しかも、意味不明のシャレを言ったか……?
僕は、小学校の頃の、夏休みの宿題にあった昆虫採集を連想した。
「 …… 」
標本制作は面白かったが、『 される方 』となれば、話は別である。
針で刺されて、赤い液体とか黄色い液体を注射されるの……?
ぜっっっっっっっ…… た~~~~~~~~~~~~~いに、イヤだッ!
それに、体が入れ替わるのは、僕だけに限った事じゃない。 何も、僕じゃなくても、イイんじゃないのか……?
( だが、これは確かに、今以上に大変な事だ……! ヘタをすると、命の存亡に関る。 まあ、今もその危機は、脱してはいないが…… )
しかし、こんな大事な事、休憩がてら知らせに来たのか? キサマら。 緊迫感、ゼロだな。 たいがいにしとけよ、ホンマ。
サバラスが、リンリンに尋ねた。
「 ヤツ、とは? 」
正座したままのリンリンが、答える。
「 第7銀河の、パックマン伯爵だ。 やっほ~ 」
あ、そのゲーム、昔、よくやったよ? ……あと、最後の『 やっほ~ 』ってナニ?
サバラスが、腕組みをしながら言った。
「 う~む… よりによって、特に厄介なヤツだな。 ペルセウスの太陽風焼き団子を、1パックも食べるんだ 」
……よく分からんが、食欲と僕の標本危機と、どういう関係があんの?
だいたい、1個2tもある団子を1パックだと? それを入れる入れ物って… 採石場のスーパートラックか?
リンリンが、正座したまま、サバラスに提案する。
「 カシオペアの、水晶うどんじゃダメかな? 実は、拙者… 激しく濃厚に、それが好きでありんす 」
……水晶うどんって、ナニ? あと、お前、ドコの生まれ?
「 リンリン。 ヤツは、大の甘党だ。 せめて、アンドロメダの宇宙線焼きクレープでないと…… 」
……食いモンの話か? てめえら……!
土産をくれてやれば、僕の標本危機は去るのか? 随分と、チープな伯爵だな。
僕は言った。
「 よく分からんが、食い物を与えれば、それで解決するのか? 」
サバラスが両手を開き、呆れたようなゼスチャーで答える。
「 簡単に言ってくれるね、星川クン……! ヤツは、おやつに、アンタレスの亜高速焙煎風味フォカッチャを食するのだよ? 」
……比較対象が、分からんわっ!
そもそも、食欲と危機回避の連鎖性を語れ、ちゅうとんじゃ!
お前らと会話していると、草原を吹きぬける『 春のそよ風 』の如く、いとも爽やかに、残虐的殺意が芽生える。
僕は、額に手をやり、ため息をつきながら言った。
「 分かった、分かった……! それで? どうしたらいいんだ? 」
「 このままでいてもらう 」
「 ……は? 」
言い切ったサバラスを見つめる僕。
サバラスは言った。
「 生身の人間をかくまうのは、限界があるのだよ。 今回、入れ替わったメスは、凍結回収しておるから問題は無いのだ。 記憶操作の手間も必要ないしね。 君を冷凍回収して『 避難 』させても良いのだが、保存場所に乗り込まれて来られたら迷惑だ。 まあ、凍結回収した居所など、ヤツの知能では見つけられまいがね。 ふっふっふ……! 」
……お前らより、アホなの? その伯爵って。 可哀想に… 救いようがないな。
僕は立ち上がると、スカートの尻に付いたホコリを払いながら言った。
「 しばらくは、このままって事か…… ま、とにかく現在の危機を脱する為に、今は、おいとまさせてもらう。 アホ伯爵の件は、またな 」
……しまった。 朝倉センパイの、お尻を触ってしまった。
すんげ~、柔らかい……! 女性は、皆こんなに柔らかいのだろうか?
少し顔を赤らめた僕に、サバラスが、しみじみと言った。
「 君も、苦労が絶えんな。 同情するよ 」
……あのな。 誰のお陰で、こうなったと思ってんだ? 平然と、他人事のようなセリフ、吐くんじゃねえよ。
リンリンが、軌道内に正座したまま追伸する。
「 心中、お察し申し上げますだ、お代官様 」
……お前は、状況の設定が、常に意味不明だわ。 ついでに、意識不明にしてやろうか?
電車が、またやって来たようだ。 薄黄緑色の車体が、こちらへと近付いて来る。
僕は、リンリンに言った。
「 おい、電車だ。 早く避けろ 」
「 足がしびれた 」
「 余裕コイてんじゃねえよ……! マジ、やばいって、ホラ。 早く逃げろ! 」
電車は、みるみるうちに近付いて来る。 僕は、電柱の陰に避難した。
ふと軌道内を見ると、まだ、リンリンが正座したままだ。
「 何してんだ、リンリン! 」
「 ウンチも、したくなって… 」
「 たわけっ! 」
途端、轟音と共に、電車が通過した。
「 …… 」
電車が通り過ぎ、一抹の風が通り抜ける。
何事もなかったように、軌道内は静かになった。 電車の運転手は、居眠りか脇見運転をしていたのだろうか。 見事に、リンリンを轢いて行った。 軌道内には、バラバラになったリンリンの体が散乱している。 乾燥した枯れ枝を、粉砕したような様相だ……
サバラスが、足の一部を拾い上げ、言った。
「 このくらいの大きさなら、水を入れたお盆に浸しておくと、また生えて来るよ? 」
……『 青年の木 』か、ヤツは。
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