第10話、拉致

 シャッターの下りた商店脇に、明和の制服を着た女生徒( いかにもヤンキー風 )が数人、たむろしている。

 その中に1人だけ、私立の名門 武蔵野明陵の制服を着た女生徒( 僕 )がいる。


 ……何とも、不可思議な図だ。


 道行く通勤者・通学者たちも、何人かが振り返って見て行く。 キミら、何かヘンだと思ったら、僕を助けてくれたまえ……!

 

 背の高い、茶髪の女生徒が言った。

「 真澄、ちょっと目立たない? あたしら 」

 梶田が、道の駅方向を見ながら、答えた。

「 カンケーないわよ。 イザとなったら、処分するだけだから 」


 ……な…… 何すか? 処分って。


 梶田のナイフは相変わらず、僕の脇腹を捉えたままだ。

 ワンレングスの女生徒が言った。

「 でも、勝手に処分したら、まずいんじゃないですか? 」

 彼女を振り返ると、睨むように見つめ、梶田は答えた。

「 岸本…… 今回、シメてるのは、あたしよ? あたしらなのよ……! 」

 この拉致は、梶田の先導らしい。 作戦には、相談すべく相手がいるとみえる。 複数校による行動なのだろうか……?

 梶田が追伸した。

「 アンタは、イマイチ甘いよ。 海南と、ツルんでいた頃からね 」

 ワンレングスの女生徒が、申し訳なさそうに下を向いた。

( ……確か、榊原を暗殺した際、水面下で海南の副長 武村とつながっていたのは、梶田と… 岸本とか言う2年の渉外だった、と会議で聞いた記憶があるな。 コイツか…… )

 かつて( 前編 )の記憶を、思い出す僕。

 僕の上着の、内ポケットに持っていたスマホが鳴った。 例によって、この端末だけは僕のものである。 今の時間から察するに、かすみからだ。 いつもJR中央駅構内で待ち合わせ、一緒に学校近くまで行く。 今朝は来ないから、電話して来たのだろう。

 梶田以下、皆が一斉に僕を見た。

「 ……出ても、いいかしら? 」

 僕の問に、梶田は躊躇する。


 無言の空間に鳴り響く、スマホの着信音……


「 …いいよ、出なよ。 ただし、余計な事は、喋るんじゃないよ? 」

 突き付けていたナイフを握り直しながら、梶田は答えた。

 スマホをゆっくりと出し、着信に出る。

『 みちるぅ~? ナニやってんの? 遅刻だよぉ~? 』

 …あんま、デカイ声で喋るんじゃねえよ…!

 僕は言った。

「 もしもし、今、ちょっと手が話せないの。 後で掛け直すから 」

『 ……誰? あなた。 みちるじゃないの? 』

「 星野会頭に伝えておいてくれる? 少し遅れるって 」

 かすみの問に、答えられる訳はない。 しかも、平然と、意味不明な事を言わなくてはならない。 これは、かなり錯乱する可能性が……

『 星野さんって…… あなた、誰? 』

「 副長の、鬼頭でもいいわ 」

 吉祥寺の狂犬 マサを、呼び捨てに出来る人物……! かすみ、考えろっ…!

『 あなた、龍二さん? 』

 アホかっ! 人間凶器、内田 龍二は、男だろうが! この気品ある声の、ドコが野郎か!

『 あ、分かった! あなた、サブさんね? 』

 なっ… たわけ! 何か、サバラスと話しているような錯覚に陥るぞ? 男から離れろ、男から…!

「 ちょっと、電波の入りが悪いみたいね。 かすみさん、聞こえる? 」

 時間を稼ぐ為、演出する僕。 梶田が、何か言いたげに、僕を見つめる。 そろそろ強制終了らしい。

「 とにかく、星野会頭に連絡をして。 じゃ 」

 僕は、スマホを切った。

 梶田が言った。

「 …命拾いしたわね、朝倉。 おかしな事を喋ったら、今頃、血の海の中で絶命していたところだったわよ? 」

 梶田は、僕のスマホを取り上げ、電源を切ると、岸本に渡した。

 

 駅の方角から、1人の男が来る。

 ほとんどの通行人が駅方向に歩いて行く中、その男だけが、逆方向から歩いて来る。 白いTシャツの上に黒のパーカーを羽織り、グレーチェックのダブダブの学生ズボンを履いていた。


 何と、偕成商業の和田だ……!


「 おはようございます、和田さん! 」

 岸本以下、金髪ポニーテールやワンレングスたちが、和田に挨拶をする。

 和田は、挨拶は返さず、右手を軽く挙げて応えると、真っ直ぐに梶田の所へ来て言った。

「 捕捉出来たようだな 」

「 まあね。 意外に、抵抗も無くて助かったわ 」

 そう言って、梶田は僕を見た。


 ……ナイフにビビって、動けなかったのが半分以上です……


 和田が、僕に言った。

「 星野のように、暴れるヤツではないとは思っていたが… あまりに大人しいと、返って不気味だな。 何か企んでいるのか? え? 参謀さんよ 」

 不敵な笑みを浮かべる、和田。

 背の高い、茶髪の女生徒が言った。

「 ここまで落ち着いていると、憎らしくなるわね。 お高く、とまってるつもりかしら? 」


 だから、半分はビビって、黙ってんですって……


 彼女は、右手を僕の顎下に添え、僕の顔を仰け反らせるように持ち上げる。

「 …キレイな肌、してんじゃない。 後で、遊んであげようか? あたし、優等生さんとは、したコトないのよね~? その清楚な顔、ヒイヒイ言わせてあげる……! 」

 クスっ、と笑った彼女。

 ……じ、冗談じゃない。 ノーマルな経験すらしていないのに、アブノーマルから体験出来るか、つ~の…!

 どうやら彼女は、ソッチ系らしい。 妙な色香は、その影響か。 因幡女子に、ピッタリなお友だち、いるよ?( 前編参照 ) 戸村 早苗ちゃん、て言うコなんだケド… 紹介してあげようか? あと、監査役の理恵ちゃんも、実はソッチ系でね。 おっと、これはシークレット情報だったな……

 僕のアタマの中には、この彼女と、戸村・二見の3人が入り乱れている乱交シーンがプレビューされて来た。


 タイトル、『 肉欲の学園:悦楽の境地を彷徨う娘たち 』


 ……うおおっ、イカ~~~ンッ! ナニ、たわけた想像しとんじゃ僕はっ! ホントに、変態になってしまったのか?

 顔を赤らめた僕に、彼女は言った。

「 あら、赤くなってる。 意外と、カワイイのね 」

 悪戯そうな目。

 これは、マジでヤバイ。 朝倉センパイの純潔が、イケナイ世界の住人によって、危機にさらされているようである。 サバラス、早く収拾せい……!

 和田が、ニヤニヤしながら言った。

「 ふっ… 由美子は、ヤベえ女だからな。 スキャンダルで、鬼龍会の威厳を削ぐのも一興だな 」

 …させるか、アホウ。 デタラメな中傷で、結束が揺らぐほど鬼龍会は甘くないぞ?

 だが…… 猜疑心は、肉体的一撃にも勝る。 小さなヒビは、やがて大きな脅威となる事だろう。 まさに自己破壊だ。 小さな『 種 』を植え付けさせておくだけで、後の大きな有効となる…… 結果的に見ると、少ない労力で、かなりの効果を得られる策略的な手段とも言えよう。


 僕は、拉致された。



 すぐ横を、私鉄の高架が走っている。

 電車が通過する度、その振動で、畳の床が揺れた。

 昭和50年代の築かと思われる、2階建てのアパート…… 外壁は、ねずみ色のトタンだ。 建て付けの悪そうなサッシ窓の雨戸入れの中からは、ハトのヒナの鳴き声が聞こえた。


 そのアパートの、2階の一室。 一番端の部屋に、僕は軟禁された。 2DKの、南側の4畳の部屋である。 キッチンと一緒になった続きの洋間に、岸本が控え、僕と一緒に、由美子とか言う、あのアブナイ女生徒がいる。

( 2階とは言え、窓はあるし… 両手は、ナイロンロープにより、後ろ手に縛られているだけだ。 スキを見て脱走しようかな )

 座っている横に、窓がある。 チラリと外を見やると、高架の柱が迫っていた。 飛び移れば、何とかなりそうだ。 だが、そこから下へ下りるには、両手が使えないと、ちとマズイ……

 下は、雑草が茂る地面だ。 高さは、およそ5~6メートル。 う~む…… イザとなったら、飛び下りるか。 もし捻挫したら、朝倉センパイ、ごめんなさい。

 僕は、脱走の機をうかがった。

 由美子は、僕の正面に座り、女性雑誌を読んでいる。 キッチンの岸本は、LINE中。 ただ、窓にはカギが掛っている。 コイツを、開けさせねば……

 僕は、おもむろに言った。

「 ねえ… ちょっと、暑いんだケド? 」

 雑誌を読んでいた顔を上げ、窓の方を見ながら由美子が答える。

「 そうね…… 少し、開けようか 」

 鍵を外し、由美子は、自分側の窓を少し開けた。

「 あと、縄がキツイのよね。 手が鬱血して来ちゃったわ 」

「 もうすぐ、真澄が手錠を持って来るから。 それまで我慢しなよ 」

 ……ヤベーじゃんか。 梶田が来る前に、トンズラしないと……!

 僕は、尚も言った。

「 手が、しびれて来たのよ。 少しでいいから、緩めて 」

 読みかけの雑誌を畳の上に置き、面倒臭そうにため息をつくと、由美子は立ち上がった。

 僕の後ろへ回り、縄を調整し始める。

( 仕掛けるか…… )

 僕は、両足を組み直すフリをして、制服のスカートをはだけた。

 

 …白く、柔らかそうな太モモ。 朝に履いた、ペールブルーのボーダー模様のハンツが露になる。


( のわっ…! )

 自分自身、アセった。

 だが、由美子の目にも映った事だろう。 縄を調整する手が止まった。

「 …… 」

 由美子の左手が、そっと、僕の股間に伸びて来る。

( キタ、キタ、キタぁ~~~……! )

 下着の上から、股間をまさぐる由美子。

( ひえっ、ひえっ… あ~~れぇ~~~……! )

 ちょ… あ… あまり、ソコ… するな… っちゅうに……! ナンか… あん☆ ヘンな… キモチに……!

 スマホをいじっていた岸本が、由美子の行動に気が付く。

「 ナニしてんの、由美子。 手を出したらダメだって……! 」

「 ちょっとくらい、イイでしょ? 」

 …ヤバイ。

 誘導し、由美子の腕を掴まえる予定が…… ヘンな気分になって来た……!

 イカン、イカンぞ! これ以上の記述は、コンテンツの領域を超える。

 僕は、理性を最大に呼び起こし、窮地を脱するべく行動に移した。

( ええいっ…! ままよッ! )

 両足で由美子の右腕を挟み、右肩に由美子の体を乗せる。

「 ちょっ… ナニすんのよ! 」

 動揺する由美子を尻目に、そのまま僕は立ち上がり、前転するように、宙に体を預けた……!

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