第20話 ホラー比較

「ここは映画の中ではない・・・?」


リカは映画のことは知らず、ゲームをやっていたという。俺はゲームには興味がないため、そっちの情報には疎い。いずれにしろ、映画とゲームの内容が全く同じなら問題ない。だが、もしここがゲームの中で、映画の内容と違っていたら、俺の映画の知識は無駄になる。


「そんな顔してどうしたんですか、おにいさん?」


俺が難しい顔をしていたらしく、リカが不安そうにしている。


「悪い、考え事をしていた。俺の名前はシンだ」


「シンさんですねー。わかりました、おにいさん」


どうも調子が狂うが、それよりもリカに聞いていくつか確かめないと。


「ゲームの事を詳しく教えくれないか?」


俺が頼むと、リカは腕を組んで天井を見上げ、色々考えているようだ。


「うーん、そうですねぇ。ジャンルはアクションアドベンチャー、かなりリアルなつくりのゲームですよ。人気はあまりないかなぁ。それで、男性か女性、どちらかのキャラを選んで、村の中を探索したり、逃げ回ったり・・・」


なるほど。だから町の風景を知っているのか。俺は頷いてマイに続きを促した。


「基本は村人から隠れて移動するんですけど、倒すことも出来ます。だけど倒すと憎悪ヘイトが溜まって、襲われやすくなるんです。」


「なるほどね。ストーリーは?」


「えーと、5人の学生たちが乗った電車が、おにかくれ村の駅で停まってしまうんです。学生たちは動かない電車を降りて、村の商店街に向かいます。泊まろうとした旅館で、出会った子と一緒に、山に登ってお祭りに参加するんです」


ここは映画と同じだ。


「祭の最中に学生のひとりがいなくなって、全員が探しに行くことにしたんです。そしてある建物で――」


「ちょっと待ってくれ。いなくなった学生を残りの5人で探すのか?」


俺は慌ててリカの言葉を遮った。映画といきなり違うじゃないか。


「うん、そうです。操作するのは1人だけで、残りはついてくる感じです。ここはチュートリアル的な感じかなぁ。探索中に回復アイテムをゲットしたり。そして建物を見つけて窓から覗き見ると・・・」


チュートリアルとは、ゲームの基本的な操作や知識を理解してもらうための手法だ。ストーリー序盤に組み込ませているゲームが多いはず。回復アイテム云々はゲームだからだろう。


「建物の中では黒い影みたいなのが、人を切り裂いている光景が!いやいや、序盤なのにここがかなり怖いんですよー」


突然楽しそうに話し出すリカに、俺は困惑する。


「あ、あの・・・。あたし、ホラーゲームが好きなんです」


俺の表情に気付いたリカは、恥ずかしそうにしている。


「あー、もしかしておにいさんもと同じように、女がホラーゲーム好きなのはヘンだと思ってるんですかぁ?」


今度はリカが上目遣いになって俺を見ている。俺はこいつは突然何を言っているんだと、少し呆れてきた。とはリカの兄なのだろう。リカが、まだ身の危険を感じていないのはわかっているが・・・。


「それは君の好みの問題だろう。女性が何のゲームをしようが構わないよ。それより、続きを教えてくれ」


「おー。おにいさんはわかってくれてるんですね!んーと、建物にいた黒い影に発見されて、そいつから逃げるんです。逃げてる途中で、最初にいなくなった学生の死体を見つけて・・・」


このあたりは似ているようだ。やはりユウスケは殺されてしまうのか。


「そこで立ち止まってる間に、黒い影に追い付かれて襲われちゃうんです。5人でなんとかソイツを倒して、街まで逃げるんですよ」


「街の中ではどうするんだ?」


俺が1番気にしているところだ。小学校ではなく病院に来た事で、何が変わるのかヒントがあるかもしれない。


「街の中はオープンフィールドになっていて、自由に探索できるんです。もちろん村人に見つからないようにですけど。この村の謎を解き明かしたり、いろんなストーリーシナリオがあったり・・・」


ああ。完全にゲームオリジナルだ。映画には村の謎なんて出てこない。


「小学校シナリオだと、突然お色気シーンが始まって・・・。お兄ちゃんは物足りないようでしたけど・・・」


リカがカラカラと笑っている。


「でもそこで学生のひとりが殺されちゃうんです」


「殺されるのは避けられないのか?」


ここも一応気になる点だ。リカに聞いてみる。映画でも小学校でユイが殺された。ゲームでも同じなのだろうか。


「シナリオではゲームを進めていると、強制というかムービーが始まるんです。そのムービーの中で殺されるので、映像を見てるだけですね」


「わかった。他には?」


つまり、今の状況は映画ともゲームとも違う事になる。今後は臨機応変に行動する必要があるだろう。


「そうですねぇ。各シナリオに出てくる黒い影を倒す必要がありますね。さっき言った小学校と村役場と公民館、それと祭会場かな。ソイツたちを全員倒さないと先に進めないんです」


(・・・そうだった!)


リカの話を聞いて、俺は自分の記憶に、重要な事が抜けていた事を思い出した。

リカが言っていた施設には御神体の一部が、神棚の様なところに祀られていて、映画でも主人公たちがそれらを全て回収して燃やしていた。そして御神体の一部の近くには、必ず黒子が居座っていた・・・。


主人公たちがなぜそんなことを始めたのか・・・。

ああ。小学校で偶然見つけた"村の成り立ち"という本に御神体の事が書かれてあったんだ。こんな状況で本なんてと思うが、そこは映画だろう。その本を読んだ主人公達が、御神体を破壊しようと決めたんだった。


「すべてのシナリオをクリアすると最後の・・・?」


俺がリカに聞くとコクリと頷いた。


「そのシナリオクリアがなかなか難しいんですよー。最後のラスボスは御神体の本体で、これがまた強いの何のって!」


最後の戦いの厳しさを思い出したのか、リカはこぶしを突き上げた。

戦闘は完全にゲームだろう。そこは気にしなくてもよさそうだ。


「話は戻るけど、病院はどうなんだ?」


「あー。病院はサブシナリオなんです。そこに行ってないからよくわからないですねー。他にもサブシナリオあるんですけど、やらなくてもゲームは進められるので」


うーん。ここの病院に隠れる事の、良し悪しの判断の参考にしようと思ったんだが、無理か。とりあえず聞きたいことはこれくらいだろう。


「ありがとう。よくわかったよ」


俺がお礼を言うと、リカは得意気な顔をする。


「ゲームのことはまかせてください!・・・それよりも・・・」


リカが俺の手元を見ている。


「おにいさんの手にこびりついている黒いのは・・・?」


「ああ。これは血だよ。黒子・・・黒い影のことを俺は黒子と読んでいるが、奴の血だよ」


俺の言葉にリカが驚く。


「ということは・・・」


「俺が殺した」


リカの目が大きく見開く。


「えーー!」

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