第17話 病院

マイを先頭に、閉院した病院を目指して小走りで進んでいく。ユウスケとマイ以外は全く状況を理解していないが、俺の手にこびりついた血と、真面目なユウスケの言葉で、何か大変な事が起きているのは感じているようだ。


俺は走りながら、この先の事を考えている。これで小学校で起こるはずだった惨劇は避けられるはずだ。しかし新たな問題が出てくる。今から行く病院は映画に全く出てこない。つまり病院内で何かが起こっても、俺にはその展開がわからない。

果たして、病院に逃げ込むことによって、映画のストーリーとこれから起こる事がどこまで乖離かいりしてしまうのか。最悪、小学校で起こる以上の悲劇が待ってるかもしれない。不安しかないが、それでも俺は病院こそ、1番リスクが低いところだと思っている。それにユイも、例の謎シーンのような行動は、さすがに起こさないだろう。


(・・・旅館で注意したけど、念を押しておくか)


ふと俺は空を見上げた。相変わらず雲の動きが早い。前は触れなかったが今夜は満月だ。実はこの満月こそが村全体に狂気を産み出していた、だったら朝を無事に迎えたら終わるのに。なんて考えるのは現実逃避か。映画のストーリーから変わっていったとしても、明日の朝も追われているのは変わらないだろう。ではどうすれば終われるのか。


映画の中のコウとミクが生き残れた理由、それは3つの御神体の破壊に成功したからだ。映画の終盤の詳細な記憶はあいまいだが、それだけははっきりと覚えている。ただし、それをやり遂げる間に犠牲者が2人も出る。タイキとマイだ。

御神体の破壊は絶対やらないといけない事だが、2人とも死なせたくない。それに犠牲者になるはずだったユイとユウスケもいる。俺だけ頑張っても、もう限界だろう。


「そこです」


先頭を走っていたマイが走るのをやめた。俺達もそれにならって歩き出した。そして閉院した病院の正面で立ち止まった。無人のため電気は付いていない。


「思っていたより、かなり大きいな」


コウが呟いた。俺もだが、おそらく全員が村の病院を聞いて、個人が経営していた病院を想像していたに違いない。実際の病院は鉄筋3階建てで、ちょっとしたビルだ。おそらく入院も出来たのだろう。


「どこか開いていればいいけど・・・」


ユイは開いてるわけないと言いたげな表情だ。とにかく、全員で病院の周りを見ようと歩き出そうとした時、マイが話しかけてきた。


「あの・・・ちょっといいですか?」


「マイちゃん、どうしたの?」


タイキも不思議そうな顔をしている。


「一度旅館に戻ってもいいですか?」


「え!どうして?」


タイキ含めて全員が驚いた顔をした。


「私も含めて皆さんに危険が迫ってるのは、なんとなく理解してます。広場にいた村の人全員に追われると言ってましたよね。あの広場にいた時、一瞬でしたけど叔母・・・女将さんを見たんです。もし女将さんが旅館に戻ってきて、客室を見たら皆さんが泊まっている事を知られてしまいます。その事を村の人に伝えるかもしれません。そうなる前に、皆さんが部屋に置いた荷物を隠してきますね。もちろんひとりで行ってきます!」


「そ、そんなことしなくても!」


マイの申し出にタイキが狼狽えている。皆も難しい顔をしていた。俺はマイの発言のを考える。

映画でのマイは、村の事を知っているため、主人公達のナビゲーター的な役回りもしていた。その役回りがここでも通用してるのなら、今のマイの申し出は、何らかの意味があるのかもしれない。マイにとってはかなり危険だが、ここは任せよう。


「マイさん。すまないけど、お願いするよ。たぶん必要な事だと思う」


俺の言葉にマイは微笑んだ。タイキは渋い顔をしている。


「任せてください。すぐに戻って来ますから!」


マイが旅館のほうへと走っていく。


「大丈夫かな・・・?」


「マイさんなら《今》は大丈夫だろう。俺達も早くしよう!」


不安そうにしているミクに、俺はついつい本音を言ってしまう。それを隠そうと慌てて、全員に早く探すよう促した。ユイが俺をジッと見つめていた。


ほどなくして、勝手口らしきドアを見つけた。


「開くとは思えないけど・・・」


ドアを見ながらすでに諦めているユウスケがドアのノブに手を掛けた。カチリとノブが回った。ゆっくりとドアを引いていく。


「あれ?」


ドアが開いた。偶然なのか、映画の世界だからなのか。いずれにしろ、どこも壊さずに済んだ。

1人ずつゆっくりと病院の中に忍び込んだ。最後に入ったタイキがドアを閉めて鍵を掛けようする。


「あれ、この鍵壊れてるじゃん」


それで開いていたのかと俺は納得した。


真っ暗な室内を見回す。どうやら事務室らしい。ぼんやりと机と棚が見える。


「ライトはつけるなよ」


全員に注意し、俺が先頭になって事務室を出た。


「上の階に行って隠れよう」


階段を目指し、暗闇の廊下を進んでいく。


このとき俺は思い違いをしていた。もしも勝手口のドアノブを詳しく見ていたら気付いただろう。本当は壊されていたことに。暗くてよく見えなかったのもあるが、開いた事、それ自体に気が向き過ぎていた・・・。

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