第5話 2年と少し前に
──パチリ、と。目が覚めた。
「…………………………………は……?」
そこは、懐かしい、ライラック家の私の寝室だった。
※※※
どうなっているんだろう。
私がほうけている間にも、懐かしい侍女によってあれよあれよと私の身支度は進んでいく。
「あの、クレア……?」
「はい、どうされました?お嬢様。今日もお美しいですわ」
「ありがとう。クレアも素敵ね。……あの、今日は、何年の何月何日だったかしら」
我ながらとてもマヌケな質問だと思う。
幼い頃からの侍女であるクレアは、ぱちくりと瞬いた後に、心配そうに眉を下げた。
「まあ……お嬢様。どうされたのです?体調が優れませんか?」
頬を触れるクレアの手は、懐かしいまま。
私を見つめる目も、とても優しい。
──『そのような方だとは思いませんでしたわ』
最後に見た、冷たい目とはまるで違う。
その事に、胸が締め付けれれるような、──モヤがかかるかのような、不思議な感覚がした。
「本日は星歴786年、3月14日ですわ。今日で学園の1学年の日程が全て終わります」
──告げられたその日付は、私が流行病で死ぬ、2年と少し前のものだった。
※※※
頭痛を抱えながらも、たどり着いた懐かしい学園。
……正直、学園にはあまり、いい思い出はないのだけれど。
それでも、クレアも、あの後会ったお父様達もそうだったように、友達もまた、『昔』のように私に笑いかけてくれた。
……本当に、2年前に戻ってしまっている……?
頬を抓っても、火傷するような熱い出来たてのスープを飲んでも、目は覚めなかった。
朝食の席でそんなことをしたものだから、お父様やお母様に本気で学園を休むように諭されてしまった。
どういうわけか、流行病で死んだ私は、2年前にタイムスリップしてしまったようだ。
なんでこんなことになっているのか、分からない。
けれど、2年前ということは──……
「ヴィオラ!」
柔らかな声が、背後から聞こえる。
16年生きて、家族よりも聞きなれた声。
ああ、やめて。
その声は、その、柔らかい声音は。
「おはよう、ヴィオラ。……?顔色が優れないね。どうしたんだい?」
なんて、懐かしい。
──『君との婚約は、間違いだったようだ。残念だよ』
最後に見たのは、私に婚約破棄を突きつけた時だった。
「………………………アレン、様……」
そこには、懐かしい、……もう、私に向けられることはないと思っていた、大好きな柔らかな笑みを浮かべた、最愛の人が立っていた。
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