第3話 土曜日午前三時からの迷い
私と姉の愛は何だかんだできっと続くのだろうし、その証拠にいつも土曜日午前三時で結びつけられていたから何も思わなかった。
しかし、ある日偶然にも私たちがいつもドルチェを食べているファミレスが閉店するという話を聞いてしまった。
偶然?いや、必然?
それは、もちろん姉の耳にも入っていた。
「今日はクリームソーダにするの?姉さん。」
「ええ、ここまでくると変だと思う。クリームソーダもドルチェになるなんて。少し異質だわ。」
「なんでもありだったのよ。このファミレスは。」
そうだ。
このファミレスは、そもそも変だ。
こんなものドルチェでもなんでもない。
ただのデザート。
いや、クリームソーダなんてデザートですらない。
なぜ、ドルチェの欄に入っているのか。
そんなことを思い詰めていると、姉は歌うように言った。
クリームソーダをかき混ぜながら。
「しゅわしゅわ。アイスクリームは溶けていく。ソーダもなくなれば、さくらんぼだけが残る。」
溶ける。
泡の中に溶ける。
泡すら消えて。
さくらんぼだけが残る。
知らなかったけれど。
ただ甘いだけと思っていたけれど。
意外とクリームソーダは儚いものだ。
珍しく、姉と私は無言で彼女のマンションへと歩いた。
これまた珍しく、部屋の外で姉は私と手を繋いでくれた。
「今日は暑かったし疲れたわね。一緒にシャワーでも浴びましょう。」
姉はいつも不可解で、最初は何がしたいのか何を言いたいのか分からない。
でも今日は最初から何をしたいかわかった気がする。
二人は服を脱ぎ捨てる。
そんなこと今更なのに、なぜかシャワー室の前で見つめ合うと恥ずかしいものがあった。
初めて姉と抱き合った時もこのような感情だった気がするが、今となっては朧げだ。
姉はシャワーをかけるや否や私にキスしてきた。
お湯なのか、姉とのキスから溢れ出る熱い液なのか、分からない。
シャワーが当たる感触なのか、姉が激しく触れてくる感触なのか。
身体中が熱くて気持ちよくて、溶ける。
姉は髪の毛を洗ってあげると言い出して、私の髪を洗い出した。
私の髪より姉の髪の方がよっぽど艶やかで美しいのに。彼女は私の髪を愛おしく撫でるように洗ってくれる。
抱き合うのも気持ちよくて好きだが、私はこちらの方が気持ちよく快感を覚えた。
シャンプーを流すと足元に泡が流れる。
「しゅわしゅわね。」
子供みたいな言葉を使って姉は喜んでいた。
ソーダみたい。
足に泡が当たる感触は、くすぐったい。姉は、たかが泡ごときで敏感になった私の足を自分の足で何度も撫でた。
手では何度も撫でられたが、足を足で撫でられるのは初めてだ。
まだシャンプーが残っていてベタつく手で姉は私の胸やら下部やらを激しくなぞるので、私は溶けていきそうだ。
シャワーの音だけが耳に響く。
姉の喘ぎ声も。
おかしい。
私の方が明らかに喘ぐはずなのに、彼女の方が完全に達している。
姉はシャワーのお湯が床に落ちるが如く、床にぺたりと座り込んだ。
そして私の脚に抱きつき、何度も何度も自分の体を擦り付ける。
私の脚も舐めている。
やめて欲しい。
そんなにされたら私だって気持ちよくて、シャワーと一緒に溶け落ちるではないか。
私も我慢できなくて、床に座り込む。
「ん・・・っ。」
「あっ・・・!や・・・だ。」
姉は嫌だというが、何を今更だ。
姉は一度もそんな喘ぎ声などしたことはない。
私たちは座り込んで抱き合い、お互いの舌の先と先で触れ合った。
溶ける。溶ける。溶けていく。
だが溶けても溶けても、おかしなことに二人は残ってしまうのだ。
そこでやっと、姉はシャワーを止める。
だからといって二人は残ったままだ。
グラスの奥底に堕ちて。
そんなところに堕ちてしまっては拾い上げることもできない。
姉は、私の額に自分の額を合わせて言った。
「どうしようかな。美雪。」
「どうしようか、姉さん。」
「どうしようもないよね、美雪。」
「どうするの、姉さん。」
「いつもならすぐ決められるのに。私、来週のドルチェは何がいいか思いつかないな。」
姉ですら分からないのだ。
私が何を選べばいいか分かるはずがない。
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