東美晴の怪奇録 第二巻 〜桜散る緑の季節に〜
@hakotenamane
第三の録 『琥珀川と晴明』
夢を見た。懐かしい夢。心が苦しい。
「ねぇ、琥珀川」
美晴が琥珀川のことを呼ぶ。そしてテレビを見ていた琥珀川は『なんだ』と返事をする。そう言うと美晴が
「そういえば琥珀川ってさ。平安時代の陰陽師だったんでしょ」
と言ってきた。
「あぁ、そうだが。それがどうかしたか」
と琥珀川が言うと
「んじゃあさ、安倍晴明に会ったことあるの?」
と言った。
「あぁ、あるぞ。と言うより、晴明は俺の親のような人だ」
と言うと立て続けに琥珀川が
「そうだ、美晴。今から晴明神社に行くぞ。俺も久しぶりに晴明に会いたいと思っていたところなんだ」
と言って、美晴と琥珀川は晴明神社に足を運ぶのであった。
バスを降りて一の鳥居をくぐり、二の鳥居をくぐろうとした時、衝撃的な物を見た。
これでは晴明に来るなと言われているようでなんだか嫌な気持ちになる。
とかなんとか考えていると琥珀川が笑って
「美晴、安心しろ。来るなとは言っておらん。ただ少し待てと言ってるだけだ」
と言う。すると突然何処からか声が聞こえてきた。
「久しいな、琥珀川。お前と会うのは何年ぶりだ」
と。
美晴は『えっ、この声が晴明の声』と思う。
「あぁ、そうだな。お前と会うのは十二年ぶりか……式神よ。」
えっ、と美晴は思う。『なんだよ、この声晴明じゃ無いのかよ』と。
「それより式神。門を開けてくれないか」
と言うと式神が、
「あぁ……そうだな。おい琥珀川。今の晴明様は少しご機嫌斜めだぞそんな時に晴明様と会っていいのか」
と言いため息をつきながら、
「まぁ、がんばれよ……こちらは新しい琥珀川の
と言ってきた。
美晴は『えっ、マジかよ。やば』と思ったが、そこには突っ込まないことにした。
「まぁ良い。門を開けるように、晴明様に説得してくる。ちょいと待て」
と言い、式神の気配が消える。
そして二分後、門が開いた。
「行くぞ」
と琥珀川が言い、ズカズカと本殿に向かう。そして本殿に着き、本殿の屋根に顔を上げ、一言
「晴明様。琥珀川天流でございます。御姿をお見せください」
と言った。
すると何処からか低い声で
「琥珀川ぁ……」
と聞こえてきた。その声は怒っているような声だった。その声を聞いて琥珀川が
「何を怒っていらっしゃるのです?お話なら聞きましょう。どうぞ、御姿をお見せください」
と言った。
琥珀川が言っても
そうすると琥珀川が
「おい、美晴。最終手段だ。参拝しろ。そして心の底から『晴明様、御姿をお見せ下さい』と願え」
と言った。
そうすると突然、東の方向に向かって風が吹いてきた。
そして琥珀川が少し声を張って言う。
「おい!美晴。晴明様だ!東の方向を見よ!」
と。
『えっ』と思いながら東の方向を見ると、本当に晴明がいた。
『うわ、この人が安倍晴明か……』と思っていると晴明が口を開く。
「琥珀川ぁ……お前……」
怒られると思ったのか琥珀川が半歩後退りする。
「おい琥珀川……お前、あいつが新しい解決役か……」
そう晴明が言う。それに対して琥珀川は
「そうだが、それがどうかしましたか。晴明様」
と言うと晴明がうっすら笑みを浮かべて
「歴代の中で一番お前好みの女だな」
と言った。
『またその話か……』と美晴は思った。そんな事を思っていると晴明が
「まあまあ、そう拗ねるでない。そうだ、こんな所で立ち話とはなんだ、中に入って話をしようではないか。新しい解決役とも話がしたい。遠慮なく入れ」
と言って美晴は普段は滅多に入れない本殿に上がれることになったのだ。
本殿は外からの見た目のような空間では無く、まさに平安時代の
酒や魚、果物などが出てくる。晴明は遠慮せずに食えと言うがこれは全て供えられた
「そういえば、解決役よ。お前の名前はなんと言うのだ?」
そう晴明が言った。
「ん……私の名前ですか?」
と美晴が言うと、晴明は
「そうだ。というよりお前以外で解決役の人間がいるのか?」
と言った。
ここで美晴は思う。『あれ……そう言えばこれ、優馬ってどういうポジションだ……』と。
「えぇっと……まず私の名前は東美晴と言って……私の他に一人寺内優馬という……助っ人的ポジションの人がいます」
と美晴は晴明に言った。すると晴明は
「そうか。助っ人として一人いるのか」
と言った。
続けて晴明が何か言いにくそうに
「実はだなぁ、琥珀川、美晴。折言ってお願いがある」
と言った。
「なんですか?晴明さん」
と美晴が言うと晴明は
「……実はな。会いたい人がいるのだ」
と言った。
『なら普通に会いに行けばいいじゃない』は思う。
そう思っていると琥珀川が
「なら晴明様、何も我らに相談せず会えば良いではありませんか?」
と言う。『琥珀川……よく言った』と心の中で美晴が言う。それに対して晴明は少し顔を赤らめながら
「それが出来ればとっくにやっておるわ。わしも会おう会おうと思うて探しておるが見つからんのじゃ」
と言う。そして美晴が少し考えて
「わかりました。晴明さん」
と美晴が言う。そして続けて美晴が
「それで、晴明さんの会いたい人とは誰なんですか?」
と言うと晴明が恥ずかしそうに
「――さまだ」
『えっ。なんて言いました?』と美晴が聞き直すと晴明が
「お母様だ!恥ずかしいから何度も言わせるな!」
と叫ぶ。すると琥珀川が
「ほほぅ。晴明様のお母様ですか。それでは
と言うと晴明は、
「あぁ、そうだ」
と言った。
それから少しして、晴明と別れ美晴は図書館へと向かった。
「えぇっと、なになに~。『葛の葉伝説とは葛の葉は、伝説上のキツネの名前。葛の葉狐、信太妻、
と美晴が呟く。
結局、一時間程図書館にいたがなんの成果も得られなかった。
「ただいま~
そう言って美晴は茶の間のテーブルの座る。
「おかえりなさい。美晴さん。夕御飯もう少しでできるのでちょっと待ってて下さい」
台所で夕飯を作っていた優馬が言う。
「あぁ、まって優馬。手伝うよ。二人いた方が早いでしょ」
美晴が言う。
食事や家事などは基本日替わりでやるというのが同居のシステムなのだが、この頃最近は優馬に任せっきりで罪悪感を感じていた所だった。
それに対して優馬は
「あぁ、いや、いいですよ。美晴さんはそこで待ってて下さい。こっちには桜狐がいるんで、もう充分です」
と言った。
それから少しして、夕御飯が出来上がった。
「はい。どうぞ。今日の夕御飯はチキン南蛮です」
そう言って優馬がテーブルにおかずであるチキン南蛮とご飯、みそ汁を置く。
いただきますと言い、おかずに手を伸ばす。
「んー!おいしぃ。やっぱり優馬の作るご飯は美味しいよ。ありがとう、優馬」
そう美晴が言う。
「そうですか。ありがとうございます」
そう言って優馬が照れる。
それから少しして夕御飯を食べ終わり、皿洗いの手伝いをしてフリータイムとなった美晴は今日の晴明神社での出来事を優馬に話した。
「――ってことになったのよ。分かった、優馬」
「はい。一応」
と優馬が言うと美晴が首をがっくりと折り
「はぁ、マジでどうしたらええんかなぁ。明日から平日、仕事行かなくちゃならへんのに……はぁ」
とため息をつく。すると優馬が、
「じゃあ平日は俺が調べて、休日は美晴さんが調べるってゆう感じでどうですか?」
と言う。それに対して美晴は
「えっ……優馬、大丈夫?優馬は社長さんやろ?うちよりずっと忙しいんとちゃうか?」
と言う。優馬は大丈夫ですと言わんばかりの顔をして
「いや、この時期は繁忙期でもないし、大丈夫です」
と言う。
「そうなんだ。じゃあ、そういう感じでおねがい」
そう美晴は言うのであった。
それから少し日が経って、夕御飯を食べ終わったタイミングで優馬がパソコンを使いながら調べたことを報告してくれた。
「まず、
さらに優馬は続ける
「ちなみに葛の葉は現在の大阪府
そう優馬が言う。
「ふーん、そうなんだ。ありがと、優馬」
そう美晴が言う。
『よし。休日の予定は決まったな』そう美晴は思った。
美晴が優馬を呼びかける
「はい」
そう優馬が言うと美晴は
「今週末は大阪に行って信太の森で現地調査するよ。あとちょっと息抜きで大阪旅行でもしよ。今週末は三連休やから、ちょうどええよ」
そう言った。
そして休日の土曜日、さっそく美晴達は大阪に向かった。京都駅から大阪駅まで電車で向かったのだが、琥珀川達と桜狐が電車内でおおはしゃぎし、朝から疲れる移動であった。
「ふぅー。着いたー」
大阪駅に着いた時、美晴はそう言って背伸びをした。
「美晴さん。まだまだですよ」
そう言って優馬がため息をつく。
美晴は『そりゃあそうなんやけど本当のこと言わんでおくれ』と思った。
それから少し移動をして、やっと信太森神社に着いた。
「ここかー」
そう言って美晴は辺りを見回す。神社名に森と入っているだけあって森がもりもりとしている。
ここで一つ美晴はひらめいた。ここは信太森神社、葛の葉の家のような所なのだから一生懸命祈ったら出てきてくれるのではないかと。
「優馬」
美晴が呼びかける。
「今から一生懸命『葛の葉さん出てきてください』って祈るから優馬も一緒にやって」
そう言うと琥珀川が呆れた顔をして
「そんな事で出てくれるわけなかろう。相手を誰だと思っとるのだ?宇迦之御魂の第一神使だぞ」
と言われると美晴が琥珀川の方を睨み
「そんな事やってみなくちゃわからないでしょ。なんか奇跡が起こって出てきてくれるかもしれないし」
と言った。
『桜狐、おいで。一緒にやろう』と優馬が桜狐を誘って、美晴と優馬と桜狐で出てきてくれないかと祈ることにした。
何分経っただろうか。音沙汰がない。そのうち他の参拝客がやってきて『何をこの人らはこんなに熱心に祈っているんだ』と思われそうなため美晴達は潔くやめておいた。
「なんだ、もうやめたのか?」
そう琥珀川が言ってくる。それに対し美晴は
「そうよ。渋々ね」
と返した。
『これからどうしよう』美晴はそう思った。息抜きに大阪旅行とは言ったがこんなに早く調査が終わるとは思っていなかった。まぁ調査らしい事はしていないが、それでも何か解決の糸口が欲しかったと美晴は思った。
「図書館にでも行って調べてみる?」
そう美晴が言うと優馬は
「いや……そんな事しても意味ないと思います」
と言う。美晴が『なんで』と問うと優馬は
「
そう言った。
「ところで美晴さん。こんなのはどうでしょう」
優馬が言う。
「まず一つ目に、そもそも葛の葉は伏見稲荷大社に御祀りされている宇迦之御魂の第一神使なんですよね、ならば伏見に行って宇迦之御魂神にお願いしたらどうですか?そして二つ目に、稲荷神の神使、すなわち
そんな事を言ってくる優馬を心底考えが幼稚な人だなぁ思っていた。
だが、やってみなければ進展も何も無いのでとりあえず帰ったらやってみようと思う美晴であった。
次の日からは大阪観光となり、とても楽しかった。桜狐はもちろんのこと、琥珀川と
三連休最終日、美晴達は京都に戻り伏見稲荷大社に行って宇迦之御魂にお願いをしに行った。
『お願いします、宇迦之御魂神様。葛の葉さんに合わせて下さい』一生懸命お願いした。
すると突然、強い風が吹いてきた。
美晴達が目を開けるとそこには……何も居なかった。
『なんだ。何も無いのかよ』そう美晴が思っていると一つ、おかしな事に気づいた。静かなのだ。空間が。
『えっ』と思い後ろを振り向くと……今までいた参拝客が一人もいないのだ。
「えっ……何これ」
と美晴が呟く。
幸い優馬や琥珀川達はいる。
『よかった。優馬はおるな』そう思っていると優馬が本殿の屋根を指差して言う。
「美晴さん!あれ、葛の葉さんじゃないですか」
と。
『マジで』と思いながら指の指す方向を見ると確かに誰かいる。
琥珀川にあれは葛の葉かどうかを尋ねる為、琥珀川の方を見ると、美晴は確信的なものを見た。琥珀川達と桜狐が平伏しているのだ。
正直言って稲荷神の中での琥珀川達の位がどれ程の物か分からないが、白菊命婦の事を様づけではなく呼び捨てで呼べるのだからそれなりに高いと思っているが。
とかなんとか思っていると、屋根にいた葛の葉らしき人物がジャンプをして美晴達の背後に着地した。
「琥珀川、添、鈴、華、白蘭、そして桜狐。おはよう」
そう葛の葉らしき人物が言うと琥珀川達は口を揃えて
「おはようございます。葛の葉様」
と言った。
『よし』と美晴が思う。いや、優馬もそう思っていた事だろう。
「あの!葛の葉さん。あなたに会いたいと思っている人がいるんですけど」
美晴がそう言うと葛の葉が美晴を睨みながら
「おい人間。口の聞き方には注意したまえ」
と言った。
美晴が謝ると続けて葛の葉が
「まぁ良い。それでなんだ。
と言う。
「そうなんです。あなたの子ども、晴明が会いたいと言っているんです」
と言うと葛の葉が少し首を傾げて
「晴明?……あっ、
童子丸とは安倍晴明の幼名だ。
「はい。会っていただけますか。晴明に」
と美晴が言うと葛の葉は少し考えて
「あぁ、よいぞ。お前ら、信太森神社に行ったらしいな。宇迦之御魂様が会ってやれとうるさいから出て来てやったのだ」
と言った。
それから少しして、葛の葉含め美晴達は晴明神社へと足を運んでいた。
一の鳥居を通り、二の鳥居である四神門の中央に晴明がいた。気づけば美晴達以外の参拝客がいなくなっていた。
「お母様‼︎」
と晴明が叫ぶ。そのままスタスタと葛の葉の方へ小走りで行き目の前で立ち止まり一言、
「お母様、今までどこにいたのですか?散々探しましたよ」
と言った。それに対して葛の葉は
「知っている。それに……お前が探し回ったところ全てにおったぞ」
と言う。
晴明がポカンという顔をして
「では何故出ていらっしゃらなかったのですか」
と言うと
「いや、ただ改めて出るとなると恥ずかしくて出なかっただけだ」
と言う。
『ただ……それだけで』と晴明が言うと葛の葉も『あぁ、ただそれだけだ』と言った。
「ふぅ~。これで一件落着ってことやな」
晴明神社の帰り道美晴はそんな事を言った。
「えぇ、そうですね。美晴さん」
と優馬が返す。続けて優馬が
「大阪旅行、楽しかったですね~」
と言う。
「うん。楽しかった」
そう美晴が言うと優馬は少し何かを言いたそうにしている。
美晴がどうしたのと尋ねると優馬は
「いや、なんでもありません」
と言った。
「そう言えば美晴さん」
優馬が言う。
「蝉っていつから鳴くようになりましたっけ?」
と優馬に聞かれて耳を澄ますと確かに蝉の声が聞こえる。
「あぁ……大体、三日前くらいから」
と美晴が言うと優馬はそうですかと頷きながら言った。
そんな事を言いながら優馬は思っていた。
(言えるわけないよなぁ。俺が美晴さんの事、好きだなんて)
もう季節は夏。梅雨が明け、夏本番がもう少しでやって来る所に、美晴へ密かに想いを寄せる人がこんなに間近にいる事を美晴はまだ、知らなかった。
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