Dawn front −ドーンフラァントゥ−
雪片ユウ
プロローグ
鉄臭く錆びた臭いが鼻につく。
目の前が真っ赤なスクリーンのように広がった血の海。
それを生み出しているのは両親と妹の死体。
水野は自分が息を吸っているのか吐いているのか分からなかった。
”どうして”
”何故”
頭は動いているはずなのにこの惨状に対する疑問だけがドラム式洗濯機のように回って止まらない。
石像のように体が固まって動かない。
何時迄も動けない時間が続いてた。
詳しくは思い出せないが、尻ポケットに入れていたスマホで救急車と警察を呼んだ。
救急車が来る頃には家族は死体になっていた。
否、呼ぶ前から死体になっていた。
警察が言うには死後6時間経っていたらしい。
水野のアリバイは学校に行っていた事で確実。それに家から金品が無くなっていた為警察は強盗殺人を1番視野に入れている。
家族に怨みを持つ人物がいなかったか聞かれたが心当たりが無かった。
水野はこれが現実である実感がなかった。夢であって欲しかった。
ふわふわと宙を舞う埃のように意識に重さがなかったからだ。
しかし水野は現実を取り戻したのは遅くない。
「すみません水野さん、この男を知りませんか?」
「この人は・・・?」
金髪にサングラスで真っ黒なコートを羽織った男。
「今のところ1番の重要参考人です。向かえの家のドライブレコーダーに写っていました。あなたの家に最後にいたのはこの男だと思われます」
此奴が父さんを母さんを妹を殺したのか?
霧の中に居たかのようにあたりが見えなかった思考の世界が晴れた。
水野はその男の写真をジッと見ていた。
「水野さん?」
警察官は不思議そうに水野を見る。
写真を見つめたまま動かない水野を不思議に思うのは無理もない。
この人は?と水野が聞いたら時点でもうその人のことは知らないと確定しているのだから。
「この写真もらってもいいですか?もしかしたら父の知り合いかもしれませんのでアルバムとかから探す為に」
「構いません」
それだけ言うと警察官は捜査に戻ると言って帰った。
警察官からもらった写真を眺める。
「この男が、此奴が殺したのか」
憎しみが詰まった声だった。
青年は目の奥深くで淡い復讐の炎に燃えていた。
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