【ホラー】古城の怪物

 怪物が棲み着いていると噂される古城があった。

 本当かどうかはわからない。近所に住む人々は気味悪がって近寄らなかったが、確かに時々何者かの気配がするという。


 怖いもの知らずの若者が一人、その怪物の正体を暴いてやろうと考えて人の目の付かない夕暮れ時に古城にこっそり入り込んだ。

 怪物など迷信にきまっている。何か他に原因があるに違いない。それを映像に収めれられればきっと俺は有名になれる。若者はそんな風に考えていた。

 どうやら過去にも若者と同じようなことを考えた人間がいるらしく、城内は荒れ果てていた。あちこちにゴミが散乱し、壁には落書きなどもされている。

 迷惑な連中もいるもんだな、と若者はそんな城内をカメラで撮影しながら、持ち込んだ食料を取りつつ何か変化が起こるのを待った。

 忍び込んでしばらくは何も起こらなかった。

 しかし、完全に夜も更けたころ、若者は奇妙な音を聞いた。


 ビチャ、ビチャ、ビチャ……。


 水たまりを何かが歩いているような音。ほんの微かな音だったが確かに聞こえた。

 音の出所を辿っていくと、隠し部屋と地下へと伸びる階段があった。若者は興奮と期待を覚えながら懐中電灯とカメラを手に地下へ下りて行った。

 地下はまるで迷路のように細く入り組んだ通路でできていた。湿気が酷く、嗅いだことのない嫌な匂いが漂っていて、ところどころに水たまりができている。

 耳を澄ましたが先程の足音は聞こえなくなっていた。

 若者は息を殺して迷路を進んでいった。しかしいくら進んでも同じような通路が続くだけで何も変化がない。

 一体どこまで続くのだろうか。若者は段々気味が悪くなってきて、一度戻って仕切り直そうと考えた。


 ところが、どうしたわけか来た道を戻っても地上への階段は見当たらなかった。


 同じような通路ばかりだからきっとどこかで道を間違えたのだろう。冷静に探せばきっと近くにあるはずだ。

 若者は込み上げてくる焦りと恐怖に気付かない振りをしながら出口を求めて歩き続けた。



 その地下通路は城への侵入者を閉じ込めるために作られたものだった。

 隠し扉を開けると仕掛けが作動して地下への階段が現れる。

 しかし一定の時間が過ぎると仕掛けは戻り、階段は壁に塞がれて使えなくなってしまう。

 この城に忍び込んできた盗人や間者をそうやって閉じ込めていたのだ。

 城で暮らす者が誰一人いなくなったあとも、この仕掛けはこの城を守っていた。

 若者が聞いた足音は、若者の前にこの城に忍び込んだ人間のもの。

 その人間はすでに迷路の奥で力尽きている。

 城への敬意を払わず、興味本位や欲に駆られてやってきた侵入者が怪物の正体だったのだ。


 ビチャ、ビチャ、ビチャ……。

 足音が聞こえる。若者は未だに出口を求めて歩き続けているらしい。

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