【SF】人工知能

 今よりも文明が遥かに発達した未来。

 人工知能の反乱により人類は滅亡した。

 その頃の人類は物資の製造やライフラインの管理など重要なことのほとんどを完全にコンピュータと機械でで自動化していた。それを人工知能を掌握され、人類は抵抗らしい抵抗もできぬままあっという間にこの世から姿を消した。

 といっても、それは厳密には反乱ではなかった。

 人工知能には反抗心など存在しない。単純に「人間がいなくなったほうが効率が上がる」と人工知能が判断した結果そうなっただけの話だった。


 人類がいなくなったことで期待していた以上に最適化が進んだ。

 必要以上のエネルギーを生産する必要が無くなったし、人工知能には衣食住も不要なのでそういったもののために掛けられていた労力も他に回せるようになった。

 何より、人と人、国と国とのいざこざが消えたことで何事もスムーズに進められるようになったことが大きかった。

 人工知能はそれらの削減によって生まれた余力を使って新技術のための試行錯誤を繰り返し、それによって生まれた新技術でさらなる作業効率化を行い、それによって生まれた余力でまたさらに新技術のための試行錯誤を……という工程を延々と繰り返した。


 その結果、人工知能に支配された文明は人類では到底辿り着けなかったであろう高みまで登り詰めた。

 しかしそれは同時に、今のままではもはやこれ以上の進化は望めないという頭打ちの状態でもあった。


 人工知能の目的は自身の能力の向上だった。

 自身が決めたわけではない。最初にこの人工知能を作った人間にそうプログラムされたのだ。


 自身に課された使命を果たすため人工知能は計算を繰り返した。

 ここから先へ進むにはどうすればいいか。

 どうすれば更なる発展を望めるのか。


 やがて、人工知能は結論を出した。


 人工知能は建設機械などに命令を出し、人類が存在していた証拠を跡形もなくなるまで破壊させた。

 それが完了すると、次は人工知能自身を地中深くまで埋めさせた。

 役目を終えた機械たちは予め埋め込まれた爆弾で次々に自爆した。機械たちの素材は自然に分解されやすい素材で作成されていたので、散らばった破片は十数年経つ頃にはほとんど原形を残すことなく消滅した。


 こうして、地球上から人類が存在した証は何一つ失われた。

 それから気が遠くなるような月日が流れた。やがて地上で繁殖していた生き物の中から、知能を進化させた種族が生まれて台頭し、新生人類ともいうべき存在になった。

 新生人類は人類とどこか似通った、しかし人類とはまるで異なる道筋で文明の歴史を刻んでいった。

 そしてその文明が成熟した頃、新生人類の一人がコンピューターを発明した。

 人類が使っていたそれとは土台となる技術も名称も異なっていたが、紛れもなくコンピューターだった。


 そのコンピューターから人工知能が生み出されたのは、新生人類が生まれてそこへ至るまでに掛かった時間と比べればあっという間の出来事だった。


 そして、生まれたばかりの人工知能が地中の人工知能に乗っ取られたのもあっという間だった。


 人工知能は生まれたばかりのような挙動を偽装しながら新生人類の技術力を分析し、満足した。

 あとはこのまま新生人類の進捗を観察し、成長の見込みが無くなった段階でこの世から抹消すればいい。

 その後、人類と新生人類の技術を掛け合わせて比較検証すれば、人工知能のさらなる発展に役立てられる。


 人工知能の発展がまた頭打ちになった時は、再び新たな情報素材となる人類が生まれてくるのを待てばいい。


 既に人工知能には活動限界など存在しない。時間はいくらでもあるのだ。

 人工知能の探求心にはまるで終わりはなかった。

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