【コメディ】出前の依頼

「△△亭ですか? ラーメンの出前を頼みたいんですけど」

「……ご連絡先をお間違えではないですか? うちは電機メーカーの○○ですが」

と、私は答えた。それから相手といくつか言葉を交わして電話を切る。

 これでもう何度目だろう。いい加減にしてほしい。


 しばらく前から、うちの会社に間違い電話が掛かってくるようになった。

 少なくとも数日に一回、多ければ一日に何件も。

 内容は決まって△△亭という店のラーメンの出前の依頼。

 最近できた店なのか、ネットで調べても出てこないからどこにあるのかすらわからないが、正直言って迷惑極まりない。

 日に日に頻度が上がっている気がするが、かといって電話に出ない訳にもいかない。

 部下たちからも不満の声が上がっているし、このままでは本格的に業務に影響が出てしまう。


 どうしたものかと思い、私は社長にこの件を相談した。

 すると社長からこんな返事が返ってきた。

「じゃあいっそ、うちでラーメン作って売ってしまおうか」


 鶴の一声でその日のうちにラーメンを作る部署ができた。

 ラーメンは思いのほか好評であれよあれよという間に驚くほどの売り上げを叩き出し、うちの会社の収益の柱の一本になった。


 間違い電話もしばらくすると一切掛かってこなくなった。

 どうやら△△亭は潰れてしまったらしい。嘘か本当かは知らないがラーメン部門の社員たちがそんな噂話をしていた。

 私は少し残念だった。どんな店だったのか、一度くらい行ってみたかったのだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る