第35話 ヨンバン、今日突然ふってきたの。
聞いて。
「あい」
ショートショートのネタでね、タイトルは『誇大妄想』。
「あい」
苦労して絵描きになったヒロインが、町の絵画コンクールのスタッフ(?)審査員(?)になるのね、そして異質な絵を見つける。
それは子供向けの塗り絵コーナーだったんだけれど、どうもおかしなことになっている。
きれいに塗れてるんだけれど、とうていその年代ではできない芸当。
ヒロインは思うんだ。
ははあ、親が手伝ったんだな、と。
でもそれはルール違反だ、見つけて注意しておこう、と思う。
その子の名前を調べて、それとなく接近、塗り絵コーナーで彼女は「えらいねー、上手に塗れたねー、おかあさんに塗ってもらったのかなー?」って探りを入れる。
しかし、その子は顔をまっかにして真剣な目でヒロインを見るんだ。
ヒロインは、言い当てられて恥ずかしいんだ、きっとこの子は上手く塗れなかった子なんだ、と思いこむ。
すると、その子の母親がやってきて、子供の画才をこれでもかとひけらかす。
ヒロインは「あー、誇大妄想ね」と思う。
クレヨンを逆手にもって塗ってる子が、あんな絵が描けるわけがない、と。
「世にも幸せな親だよ、子供の才能を信じて疑わないなんて」ってヒロインは思う。
彼女は親に反対されながらも美大で勉強した苦労人で、才能が認められるのは一握りだと知っている。
でもだからこそ、自分は選ばれた人間で、苦労した分だけ才能は花開くとうぬぼれてもいたんだ。
で、ヒロインが「残念ですが、おかあさんが一緒に塗った絵は賞に応募できません」というと、そのおかあさんは我が子の塗っている塗り絵をパッととってみせて言うの。
「この絵が、わたくしの手を借りた絵だというの?」
その絵は、輪郭からはみ出して、ごちゃっと色がこすりつけられた、年相応のものだった。
んで、ヒロインは「いえ、こちらの応募作品は、おかあさんが塗ったんですよね。受け付けられません」という。
お母さんは怒り狂って、ヒロインに噛みついていく。
「あんたはわかってないのよ。うちの子の才能をみくびっている。じゃあなに? この子に輪郭がとれてて、はみ出さないだけの小さな器で満足しろというの?」
ヒロイン「そういうことではなくってですね、大人が子供さんの絵を手助けするのはうちでは扱えないと……どういえばいいのかな」っていう。
ぎゃんぎゃんさわぐお母さんに閉口したヒロインは、他のスタッフを頼ろうとする。
お母さんがそれでもついてきて文句を言い続ける。
その間に塗り絵を終えた子供が、母親を呼ぶ。
「おかあさん、できたー」
会心の笑みを見せる子供に、ぷりぷりしたお母さんは「応募するのね? おかあさんは気が進まないけど」っていう。
こどもはうなずいて、お母さんは名前と年齢を書き入れる。
そしてヒロインに「この子はまだ字が書けませんので。これくらいはいいのよね?」
帰っていくふたりの親子に、やれやれと思ってその絵を見ると……常識破りのすばらしいものだった。
スタッフはみんな絵心のある美大生のアルバイトで、その絵の価値がすぐにわかってしまう。
「これは絵を理解している。光線の向き、陰のつけ方、構図まで」と驚く。
ヒロインは親子を追いかけて駐車場まで行く。
すると、お母さんが子供にこう云い聞かせている。
「だから言ったでしょ。あなたを理解する人はいないの。こんな凡庸なコンクールであんな凡庸な人の言うことを聞いてはダメ。もちろんママの言うことも。空気遠近法など、忘れてしまいなさい!」
ヒロインは「こんなすばらしい絵」を描くのは、自分ほどに苦労した才能ある絵描きだと思っていたので、ショックを受ける。
後、その子の絵は大賞をいただくのだが、受賞者は式にあらわれなかったという……。
ヒロインは自分の誇大妄想に気が付かざるを得ないのだった。
おわり。
どお?
「いいね」
お友達には相変わらずと言われた。
「いい意味でしょ」
だったら気が休まるのに。
「いいって」
ありがと、書いてみるわ。
「どうかなあ。運動不足」
腹筋して寝るわ!
「それがいい」
ありがと!
「ううん」
ではねー
「はーいまたー」
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