第11話変わらないもの
次の日になるとやっぱり月野に触れることはできなくて、またいつもどおりに戻ってやりたいことを聞いた。でも月野は何も言わなくて、もう思いつかないと言って、俯いて、何もしなくなった。
「たまにはぼっとするか」
「うん」
いつもの天地川で朝からただ流れる川を見る。
「あと14日くらいかな」
なにがなんて聞こうと思ったけど、自分の中で答えは出てて、この月が新月になるのは多分これくらいでそしたら月野は見えなくなる。それまでに成仏できたならまだいい。でももし成仏できなかったら、月野は一人ぼっちでまた過ごすことになる。それは嫌なんだ。
「不老不死ってこんな気持なのかな」
もう死んでるだろと昨日までだったら言えたのにこんな風になってはなんて言葉をかけたらいいのかわからない。
「死んでるだろって突っ込んでよ」
「ごめん」
「謝らないでよ」
成仏ってどうすればいいんだよ。月野はやりたいこともう無いっていうんだから。
「夜になったらまた絵を描いてもいいか」
「許可なんている?」
「月野を描きたいんだ。この絵の主役にしたい」
「描いてもなくなるよ」
「写真だったらそうかも知れない。でも絵なら月野かどうかなんてわからないから残るよ」
「そっか。ならお願いしようかな」
僕にできることは絵を描くことだけだ。出会った頃と同じように絵を描いてそれを月野が見て、ゆっくりと描き上げる。この絵が完成するのはこの月が新月になる少し前と決めた。それから何日もたって何一つ解決しなかった。ただ、噂が流れてきた。
亡くなった家族が帰ってきた。そんな馬鹿げたことが囁かれていた。もしかしたら月野みたいに。でもそうだとしたら新月が見えた日からその噂があるはずだ。
「ところで明後日にはお父さん来るんじゃないの」
「あぁそうなんだよ。どうしよ」
「千鶴は抱えるものが多くて大変だね」
「どれも大切なものだから」
お父さんのことどうにかできることではない。お父さんはきっと無理矢理にでも家に戻そうとする。家事なんかもほとんど僕がやっていたし、大変なことになってんじゃないだろうか。会いたくないな。憂鬱な気分になってどれだけ願っても時間は過ぎている。
「大丈夫だよ」
「何が」
「お父さんのこと。ちゃんと向き合えば」
「それは月野の家族がそうだっただけだよ」
「それでも大丈夫。そうじゃなきゃこんなにもここにいること許してくれないよ」
「今日は帰るよ。僕もちゃんと考えて話す」
「うん。そうしな。生きてる間にしかできないことだから」
その言葉でわかってしまった。月野が成仏できないのは不安に思っていることが家族のことだからなのだろう。死者が死者に未練を残すのは何よりも残酷なことだと他人事に思う
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