第137話 さあ獣人村に向けて出発だ!

 トバルの街で挨拶回りをした夏希。


 出発当日の朝。場所は宿屋[うさぎ屋]。


 ランブル夫婦とサラの父母、アスザックが玄関前で見送りをしてくれる。


「夏希、気を付けて戻るんだぞ。出来れば護衛を付けて欲しかったんだがな」


「ランブル、大丈夫だよ。俺も真冬も強い。そこら辺の魔物や盗賊には負けないよ」


 夏希は馬車に荷物を乗せながら答える。


 馬車は馬車組合から格安のモノを買った。これは帰り道が御者1人になる為、護衛を雇う必要があった。その金額は割りと高く、それならばと購入する事に切り替えたのだ。(ボロいけどね)

 馬は高かったのでロバにした。地球のロバと比べると見た目は変わらないが一回り大きく感じる。まだ若い雄のロバだ。(名前は定番のシルバーだ)

 急遽、購入に切り替えた為、夏希と真冬は馬車の運転を習う事となり出発日は1日延長した。

 馬車は幌も何も無い、ただの荷物運搬用だ。その荷台に毛布やクッションなど快適性を上げるためモノを乗せていく。(他は全てアイテムボックスの中だ)


「またトバルに戻ってくるんでしょ?夏希さんには私たちの赤ちゃんを見てもらいたいの」


 サラはお腹を擦りながら話している。


「夏希兄ちゃん、屋台やることにしたからな。今はチェンリ院長と相談してるとこなんだけど、ホントに材料費と売上げの1割でいいのか?」


「ああ、俺は何もしてないからな。損をしなければ問題無い。しっかり売って俺を喜ばせてくれ」


 夏希はアスザックの頭を撫でながら話す。


「夏希 準備出来た」


 真冬は荷台に乗せたクッションに寝転んでいた。


(俺が運転するのかよ……働けよ真冬)


 夏希は御者台に座り手綱を持つと皆に挨拶する。


「皆さん、この宿はとても居心地が良かったです。戻ったら必ずこの宿に泊まるので宜しく」


 ランブル達は各々に夏希や真冬に声を掛ける。


「それでは行ってきます!はいよーシルバー!」


 夏希は勢い良く手綱を「バシン!」と鳴らす。


 ランブル夫婦はうっすらと涙を浮かべ手を振る。アスザックも両手を上げて振っている。長い間。


「………………………………」


「「「…………………………」」」


「真冬……御者代わってくれ」


「夏希兄ちゃん………」


 真冬と御者を代わり馬車はやっと進んで行く。


(僕はとても悲しいです……)


 街の門に着くとニアが待っていた。


「夏希さん、真冬さん、気を付けてくださいね。あと影の中のスズランさんも。これは子供達が作ったお弁当です。お昼に食べてくださいね」


 ニアは夏希に大きなお弁当を手渡すと、そのまま抱き付き頬に軽くキスをして離れる。


「これは道中が安全になるようにと思って……」


 ニアは照れながら話し夏希は微笑んでいた。


「ニア、ありがとう。子供達にも言っといて「ありがとう」とね。それじゃあ行ってくる」


 真冬が手綱を鳴らし馬車が進みだす。ニアは手を振って送り出してくれた。


 街の門を馬車で出る。


「真冬、ごめんな。俺が手綱握るとシルバーが機嫌悪くなるんだよな。なんでだよ~シルバー」


「ぶふっ、情けないのじゃ夏希は。ほれ、手綱を貸してみろ真冬。ワレが代わろう」


 夏希の影から出たスズランが御者台に座り、真冬から手綱を受け取ると馬車のスピードが遅くな……


「おいシルバー、死にたいのか?」


 前方だけに聞こえるようスズランはささやいた。


 馬車は快適に進んで行く。シルバーは震えながら。


「お?スズランは馬車の運転出来たんだな。なんで俺は上手く出来ないんだ?コツを教えてよ」


「ん?コツか?そうじゃな。夏希はシルバーに対して愛情が足りんのじゃ。愛情がな」


 恐ろしい愛情である。


 馬車か快適に進んで行く。


 太陽が真上を通過する頃に馬車を止め昼御飯にする。夏希がシルバーに水と餌をあげブラッシングする。


「シルバー、頼むから歩いてくれよ。俺もカッコ良く馬車を操りたいんだ。ほれ、塩を舐めなさい。あとニンジンもあげよう。他に要るものある?」


 夏希は懐柔作戦を始めている。


「お前の毛並みは素晴らしいな。そのうさぎの様な長い耳も素敵だ。全体はグレーでお腹と鼻先が真っ白な所がまたいいな。お前モテるだろ?」


 シルバーは「そんなの当たり前だろ?」といった眼差しで夏希を見る。そして「ヒョホー、ヒョホー」と鳴き声をあげてからニンジンを食べ始めた。


(シルバー……その鳴き声はモテないぞ)


 夏希とシルバーは友達になった。


 夏希達はアイテムボックスからテーブルセットを出して孤児院の子供達が作った弁当を食べる。(美味しいね。嬉しいね。幸せだね)


「はいよー、シルバーちゃん!」


「ヒョホー、ヒョホー」


 食事を済ませた後、夏希が御者台に座り手綱を握る。上機嫌シルバーの馬車は快適に進んで行く。


 そして道中何事も無く3日目の昼。


「スズラン、真冬、あれが獣人村だ」


 3人が乗る馬車の前方に木の壁が広がる村が見えてきた。懐かしの獣人村だ。


 夏希は懐かしさで胸がいっぱいになっていた。


「わが愛しき故郷。俺は帰ってきたぞ!」


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