第109話 模擬戦 夏希 VS スザンヌ(2)

 スザンヌと模擬戦をして善戦した夏希。


 夏希は訓練場で休憩している。


(ふぅ、ビエラさんも強かったなぁ。攻撃しても素早い動きで躱されるし、それにあの両手に持つ長手ナイフ。もうあれは生き物だね。クネクネするんだよ。クネクネ。怖いよね)


「夏希、もういいだろぅ?早くやろうよう。もう待ちきれないよ。お・ね・が・い・」


 さっきから隣に居る筋肉がウザい。無視だ。


(さて、これから魔法ありの模擬戦だ。ルンバ師匠以外で魔法を使うのは初めてだな。楽しみだ。そろそろ体の疲労も抜けたから始めるかな)


「スザンヌさん、やりましょうか。ここは人が居るので奥に行きます? ベッド無くても大丈夫なんですか? 俺は外は恥ずかしいなぁ。でもそ……」


「ドスッ!」「ボゴッ!」


「はい……真面目にやります」


 夏希は左脇腹を手で押え、右足を引きずりながら訓練場の障壁スペースに向かった。


(最初は筋肉が悪乗り発言してたじゃん…俺は便乗しただけじゃん…戦う前からボロボロじゃん…)


 今回の模擬戦は魔法を使うので魔法障壁に囲まれたスペースに移動する。この魔法障壁は中級クラスまでの魔法を吸収する優れものだ。

 ただ非常にコストが掛かるのでギルドではあまり使用されていないのだ。だが流石Aランク筋肉二人組だ。大金を惜しみなく出してくれた。


 夏希とスザンヌが向き合い戦闘態勢に入いる。その2人の距離は10メートルだ。


(まずはいつもの水刃で御挨拶だな)


 夏希は頭上に拳大の水刃を10個浮かべた。威力は落としてある。


「ほお、無詠唱ときたか。夏希はランク詐欺だね。何処にAランクと剣で互角に闘い、無詠唱で魔法を使えるヤツが居るのかね。知ってるかい?この帝国で無詠唱出来るヤツは100も居ないんだよ」


「水刃」


 夏希はスザンヌが喋り終わると同時に10個の水刃を左右から間隔を開けて打ち放った。


「風壁」


「「 バシュッ、バシュッ、バシュッ 」」


 スザンヌを中心にして小さな竜巻が発生し全ての水刃を弾き拡散させた。


 だが夏希は魔法を放つと同時に動いていた。剣に高速振動する水魔法を掛けて風壁を斬る。


「スパッ!」


 夏希の剣は風壁を容易く斬り裂き、その中に居るスザンヌを襲った。


「うわっ、危ない剣だね。殺す気かい?」


 スザンヌは大きく後ろに飛び下がって構える。


「必ず避けると思ってましたよ。後ろに」


「水縄」


「「 ズバッ、ズバッ、ズバッ 」」


 スザンヌ周辺の地面から10本の細長い水の縄が出て物凄いスピードで襲い掛かる。スザンヌは風刃と槍を使って弾き返すが手間取っていた。どうやら風壁は魔力の消費が多そうで今回は使わないみたいだ。


 夏希はその間にスザンヌに向かって走る。


「風刃」


「水壁、水刃」


 スザンヌが夏希の接近に気付き、水縄は槍で弾き、風刃で夏希を攻撃する。


 夏希は走りながら左右からくる風刃は水壁で防ぎ、正面は水刃で相殺した。


 スザンヌが全ての水縄を消し去った時には、夏希との距離は3メートルも無かった。スザンヌは槍を構えながら夏希に向かって特大の魔法を放つ。


「風球!!」


 それは夏希の突進を止める為に放った直径1メートルの風の固まりであった。本来ならば高回転させて威力と鋭さを強化させるのだが間に合わなかったようだ。


「氷壁」


 夏希は斜め右前に大きく避けて飛び、その先に氷のブロックを発現させ、その氷壁を蹴り進路を元に戻す。そしてそのままスザンヌに斬り掛かる。


「これで終わりだ!」


「ズバンッ!」


 刃を潰した剣はスザンヌの左肩に直撃しスザンヌを吹き飛ばした。スザンヌは仰向けに倒れてそのまま動かない。(死んで無いよね。大丈夫だよね…)


「ふはははは、おい、ビエラ! 見たか? 私が負けたぞ。それも圧倒的にだ」


スザンヌは仰向けのまま大声で笑っていた。


俺はどうすればいいの?


それからスザンヌは起き上がり、ビエラからポーションをもらい飲んで傷を癒した。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


今はギルドの休憩場で3人でテーブルを囲んでいる。


「夏希、お前は強いな。あの魔法の発動速度は凄い、それに私の攻撃に対処する反応速度も速い。その域になるには苦労しただろ?よく鍛練したな」


(いや……頑張ったのは確かだけど、天使から付与されたスキルはやっぱり凄かったんだな。たぶん成長速度が特別に早いんだろうな)


「はは、師匠に恵まれてるみたいです。」


「なあ、もうしばらくしたら王都に戻るんだが一緒に来ないか?お前が一緒ならSランクのチームになれそうな気がする。どうだ?」


(それも面白そうだけど駄目だな。転移者仲間の所に行かないといけないし、まだこの街に居たい)


「まだ、この街に居たいので無理です。それに別の街に仲間が居るんです。すみません」


「そうか…もし一緒だったら私とビエラが旅の間、相手をしてやったのにな。残念だな」


(出た!定番のお色気お誘いだ)


「お供します。すぐ行きましょう。さあ、さあ」


「ふふ、冗談だ」


それからニアとの約束の時間まで、模擬戦の反省会と雑談で盛り上がり飲み会の約束をして別れた。


(俺は強くなってるな。良かった)

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