第105話 ギルドに舞い降りる夏希
ルンバ師匠と楽しく朝飲みした夏希。
朝一番にギルドに到着した夏希はドアの前で仁王立ちし深く思案していた。
(今日はルンバ師匠に進められて冒険者と模擬戦をするつもりだ。さて、どうやったら上手いこと絡まれるのかなぁ。また休憩場で足が引っ掛かる作戦でもやってみるかなぁ。でもあれ失敗してるし…
もうあれだ、あれ、待ってるの面倒だからギルドの中で水魔法ぶち撒き散らすか?)
それはもう犯罪です。
夏希はギルド前で仁王立ちしているので、後から来た冒険者達がその横を静かに通り抜ける。
「おい、アイツこの間休憩場で変なことしてたヤツだぜ。あっ、見るなよ」
「何か仁王立ちしてブツブツ言ってるよ…」
通り抜けた冒険者達は小声で話し合っている。その話を近くで聞いていた冒険者から周りの冒険者へと拡散されていく。アイツは危ないヤツだと…
夏希は違う意味で危険人物認定されたようだ。
夏希はまだ仁王立ち状態だ。
(もう判らん。ニアにどうやったら絡まれるのか相談するのがいいな)
それは違うと思う。
夏希は仁王立ち状態から足を踏み出しギルドに入る。
「「「……………………」」」
一瞬、多数の冒険者達が夏希を見たが「アイツだ」と小声で言い合うと全ての視線が一気に霧散し静寂な空間が出来上がっていた。
受付で見ていたニアは苦笑いだ。
夏希は静かな空間を不思議に思いながら受付に向かって歩いていく。念の為、足元を気にしながら…
「ニア、おはよう。なんかギルド内の雰囲気がおかしいよね。何かあったの?」
ニアは苦笑いのまま話し始める。
「夏希さん、おはようにゃ。ギルド前で変なことしてなかったかにゃ?皆その姿を見て気味悪がってるにゃ。この間も変なことしてたにゃ。だから夏希さんに話し掛ける人は少ないにゃ。ボッチにゃ」
夏希は衝撃の事実に固まっている。
(えっ、マジで。俺……ボッチなの?それじゃあお友達100人出来ないじゃん。どうすんのよ)
「ニア、どうにかしてよ。あっ、ニ、ニアは友達だよね、そうだよね。そうだと言って~」
夏希は混乱している。
「ふふ、どうですかにゃ?」
「ニアーーー!」
「ぶふっ!大丈夫ですにゃ。私はいつでも夏希さんの側に居るにゃ。これからもずっと…」
2人は見つめ合ったままだ。
「おほん、まぁいいや。ニア、相談があるんだが時間取れないか?仕事終わってからでもいいぞ」
「ふぅ、まあいいですにゃ。今日は仕事が遅くなるので昼の時間はどうですかにゃ?」
「判った。それまで訓練場で汗を流してくるよ」
夏希はそう言って受付を離れて訓練場に向けて歩き出す。念の為、足元を気にしながら…足幅を広げ引っ掛かり易いように…それもゆっくりと…
夏希はギルド隣にある訓練場に入るのは初めてだ。中はとても広い。入口には受付があり、使用申請する必要がある。その受付では、木剣や刃を潰した武器を貸りる事が出来る。夏希は受付で使用申請をして木剣を借りると端のほうで素振りを始めた。
まだ朝の早い時間だが15人ほどの冒険者達が訓練している。模擬戦をしている人や端にある標的に向かって魔法を放っている人も居る。
(ん?あれはスザンヌさんとビエラさんだよな。刃を潰した長槍と長めのナイフ両手持ちだな)
スザンヌとビエラの模擬戦は凄かった。
鋭い槍の連続突きで攻めるスザンヌに対してビエラは素早く動いて避ける。更に両手に持ったナイフで弾きながら近づき攻撃に転ずる。その攻防は何度も入れ替る。
夏希は素振りを止めてその攻防を見ていた。
(あの2人、Bランクのラグより強いぞ)
時間にして約10分。凄まじい模擬戦は終わった。
スザンヌとビエラは先程の模擬戦について話でもしているようだ。ふと、スザンヌと視線が合う。
夏希は2人に向かって歩き出した。足元は気にしていない。勿論、足幅も歩く速度も普通だ。
「スザンヌさん、ビエラさん、おはようございます。模擬戦見てました。凄すぎて驚いてます」
「ああ、おはよう。まぁ、私達はこれでもAランクだからね。魔法使いだけどね」
スザンヌは標的までの斜線上に人が居ない事を確認し、威力の高い風刃を無詠唱で放った。
(凄ぇなこの人。魔法の発動速度も早いし無詠唱だ。威力も申し分ない。それであの槍使いだぞ)
「あの、もしよかったら模擬戦してもらえませんか。少しでも強くなりたくて」
スザンヌは「ほぉ」と言い嬉しそうに槍を構えた。
「いいねぇ、その前向きな姿勢は。私のタイプだよ。宿屋で見た時は面白い兄さんだと思ったんだけど、それだけじゃ無いみたいだね」
ビエラは後ろに下がり観戦するようだ。
夏希は木剣を構える。スザンヌも鉄槍を構える。
(ん?俺は木剣で相手は鉄槍……)
「スザンヌさん、武器替えてきまーす」
「……………」
締まらない夏希であった。
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