第67話 神騙しの罪 【ざまぁ】



「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」




 それは廊下から聞こえるギャンベリック卿の悲鳴だった。

 その声量は部屋の家具をカタカタと振るわすほどである。


 僕はゆっくりと部屋を出た。


「ギャンベリッック卿。あんたはもう逃げられないのさ」


 廊下には国王をはじめ、その場を埋め尽くすほどの衛兵が控えていた。


 僕の手には魔法印が輝き、国王の手にも、同じ魔法印が付いていた。


 国王はその魔法印を見せながら顔をしかめる。


「ギャンベリック卿。先ほどの話。この魔法印を通じて全て聞かせてもらった」


「あわわわわわ…………」


「魔法鉄道の襲撃に関与し、私を殺そうとしたな! 国家転覆を企む所業、許すまじ!!」


「うぐぐぅ……」


 彼は床を叩いた。


「クソォッ!! あんな鉄道、許可するんじゃなかったぁああ!!」


 黄金を貰っておいて何を言ってんだか……。


 そういえば、


「お前は、僕と魔法の契約を交わしたんだったな」


 彼はハッとした。


「【魔法鉄道事業の全指揮権をアリアスに委ねる。また、事業の進行を妨げる行為は一切してはならない】と、その契約書には書かれいたはずだが?」


 つまり、あの襲撃は妨害行為。完全に契約違反だ。


 国王は眉を寄せた。


「さては、貴様……。神を騙したな?」


 神を冒涜する背徳行為……。

 しかし、そうなると、



「ち、違うッ!! わ、私は、し、知らない!! 魔法鉄道の襲撃なんて知らない! 協力なんてしていないんだぁあああああ!!」



 ああ……。


「ギャンベリック卿。裏を取った、とは言いましたけどね。ゼルガに大金を渡した話。僕はしてませんよ」


「はッ!?」


 と、気づいた時には遅かった。

 彼の体には静電気がバチバチと発生する。




「まずい! みんな離れろッ!!」



 

 僕は即座にマジックディフェンスを張った。


 それと同時。


 神の裁雷が彼を襲う。




バリバリバリーーーーーーーーーーッ!!




 

「ぎゃああああああああああああああああッ!!」



 


 


 焼け焦げた臭いと硝煙が廊下を埋め尽くす。


 煙りが治ると黒い物体が現れた。


 それは天を仰ぎ、神に許しを乞う彼の姿。


 ギャンベリック卿は、全身を煤と化し、息絶えていた。


 神を騙し、契約を破った罪が、今、神に認識されたのだ。


 2億分の黄金を手にして、鉄道事業開設の協力者として歴史に名を残す。

 それだけでも十分だったろうに。


 人の命を犠牲にして、国家転覆なんて考えるからこんなことになる。


 同情の余地はない。




 全て終わった……。


 鉄道は開通し、同盟は結ばれ、そして悪は壊滅した。


 僕のお役もおしまいだ。


 色々あったが、外交官の仕事は、中々楽しい時間だったな。










 僕が外交官を辞任して数日後。


 僕は、柄にもなく真白いネクタイを締めていた。



「「「 おめでとうーー!! 」」」



 みんなの祝福を受けているのは、ターコイム夫妻である。


 ターコイムというのはフォーマッドさんの家の名前。


 つまり、オッツ婦人とフォーマッドさんは再婚をしたのだ。


 実にめでたい。


 

 そして、次の日。


「アリアス大変よーー!!」


 と、研究所にやって来たのはカルナである。


 うーーむ。

 一体何が始まるんだ?


「王室から、あなたに召集がかかったわ」


 ああ、またこのパターンか。

 次はなんだろう?


 国王の考えはよくわからないからな。


 なんだか嫌な予感がするぞ。


 

 国王の前に立つと、彼は不敵な笑みを浮かべていた。


 ああ、なんだか気乗りしないなぁ……。


 この人は、僕を道楽の一部だと思っている節があるんだ。


「ふふふ……。アリアスよ。この度はよく働いてくれた」


「はぁ……」


「鉄道事業の開設。そして両国同盟。実に順調だ」


「それは良かったです」


「褒美を遣わす」


「……それは、以前にいただきましたよ? 外交官を辞任した時に」


 2千万コズンほどの報奨金を貰ったんだ。

 だから、それ以上に報酬と言われてもな。


「僕は研究所の仕事に尽力したいのですが?」


「ふむ。その手助けができればと思ってな」


 うう。この満面の笑み。

 不吉だなぁ。


 国王が背筋を伸ばすと、周りの大臣らも気をつけの姿勢をとった。


 なんだなんだ?


「ジルベスタル魔法研究所 所長 アリアス・ユーリィ。君を──」


 ああ、また、このパターンかぁ。





「環境大臣に任命する」





 普通の所長でいいんだけどなぁ……。


「ギャンベリックが死んでしまっただろ? だから、後任が必要なのさ」


「し、しかし。それは他の人を起用すればいいのでは?」


「君ほどの適任者はいないだろう? なんなら国民に聞いてみるか? みんな君を指名するぞ」


「うう……」


「それに環境大臣といえば研究所のトップじゃないか。君の権限で自由にできるんだぞ」


 うーーむ。

 確かに、それは楽しそうだ。


 しかし、


「兼任はさせていただきますからね」


「え?」


「所長とですよ」


「おかしな奴だな」


「なんとでも言ってください。兼任の件。どうなんですか?」


「それは……。別に構わんが。どうして、そんなに研究所にこだわるんだ?」


 やれやれ。


 そんなの決まっているじゃないか。


 もう、眼鏡を上げざるを得ないな。








「 僕は、魔法の設計士、ですから 」








 さーーて。

 これからどんな難題が出てくるのか、皆目見当もつかないが、せいぜい楽しんでやらせてもらおうかな。




 翌日。

 僕は早速、大臣の権限を使って大仕事をすることにした。


 ふふふ。

 そういえば、まだ悪はいたんだよな。


 環境大臣になったんだから、綺麗な世の中にしないと。


 待っててくださいよ。


 ジャメル卿。

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