第17話 邪悪な作戦 【ビッカside】

*アリアスが流行り病に冒されるまで数時間前。


【ビッカ視点】


 俺は副団長のバラタッツとともに馬車を走らせていた。


 目指すは王都ジルベスタルである。


 馬車の荷台は鉄格子となっており、そこには布が掛けれていた。


「ククク。こいつさえあればアリアスは終わるぜ」


「しかし、どうやって誘き出すのです? ジルベスタルの騎士団に援護されたら厄介ですぞ?」


「作戦はバッチリさ。コイツはそのための道具さ」


 俺の視線の先にはシンが眠っていた。

 

 その体は縄で縛られて身動きが取れないでいる。


「シンをどうするのです? この作戦を知られたからには生かして返せませんよ?」


「ククク。コイツはこの前の誕生祭で、見事な花火を上げてくれたんだ。これからもっと利用してやろうという時に、退職願いを出してきやがった」


「ほう。また人手が減りますな」


「フン。簡単に辞められてたまるかってんだ。どうやらこいつは、ジルベスタルでアリアスと花火の設計をやってたみたいなんだよ。利用価値がありそうなんで薬で眠らせて連れて来たのさ」


「そうなると、シンを使って誘き出す作戦ですかな?」


「ククク。そういうことだ」





 そこは王都ジルベスタルが見下ろせる場所だった。


 馬車を止めて望遠鏡で門番の様子を見る。


「あそこからアリアスを外に連れ出すんだ。国内だと手出しできんからな」


 俺は魔法陣を描いた。


「バラタッツ。そこの壺をこの魔法陣の中央に置け」


「壺の中には何が入っているんです?」


「病原菌だよ」


「びょ、病原菌!?」


「僧侶ギルドが流行り病の特効薬を作っていただろう? その研究で使われていた病原菌を盗んで来たのさ」


 シンは既に目が覚めていた。


 俺のことを親の仇のように睨みつける。


「ビッカ所長! そんな病原菌をどうするつもりだ!?」


「ククク。なーーに。ちょっとだけ風の魔法に乗せてジルベスタルに届けるだけさ」


「やめろ!! そんなこと許されるもんか!!」


 チッ!

 うるせぇ野郎だぜ。


 俺は荷台の檻に掛けられた布を取った。



バサッ!!



『ギュィイイイイイイイイッ!!』



 檻の中には巨大な蟻のモンスターが入っていた。


 バラタッツがアリアス殺害のために捕獲したものである。


 シンは腰を抜かした。


「ヒィイイイッ!!」


「ギャハハ!! ゴチャゴチャ抜かしていると、貴様をハードアントに食わせてしまうぞ!!」


「い、一体、何をするつもりなんだ?」


ウインド!!」


 俺の言葉に同調して、魔法陣は発光した。


 壺の中に入った病原菌が風に乗ってジルベスタルへと向かう。


「ギャハハハ! これでジルベスタル風、流行り病の完成だ!! この特効薬がないと全員死んじまうぞぉおお!!」


「き、貴様ぁあ!! それでも人間かぁあああ!!」


「クフフ。俺様は優しいからな。丁度、病原菌を盗むのと同時に特効薬も盗んでいたんだ。これが欲しかったらここにアリアスを連れて来い!!」


「おおーー!! なるほど、そういうことですか。これは頭がいいですな所長!」


 望遠鏡で門番を見ると、緑の斑点が現れて倒れていた。


「グフフ。さぁ、シンよ。急いでアリアスをここへ連れてくるんだ。わかってるだろうが、アリアスだけを連れてくるんだぞ! そうしたら薬をやる!!」


「クッ! ア、アリアスさんを連れて来ても何もしないと約束しろ!!」


「ああ、勿論だよ」


 バーーカ。俺たちは何もしねぇよ。


 このハードアントがアリアスを食い殺すんだからよ!


「クッ! とても信用できないが、薬は必要だ……」


 シンはアリアスを呼びに下山を始めた。


 ククク。貴様の動向は望遠鏡でじっくりと観察してやる。


 ほぉら、急がないと貴様の頬にも緑の斑点が浮かんでるぜぇ。ケヘヘ。


 薬を求めてアリアスとともにここに来るんだよ。


 そしたら、たまたま遭遇したハードアントに襲われてしまうのさ!!


 2人仲良く地獄行きだぁあああああ!!


「俺様に逆らう奴は許しちゃおけねぇんだよぉおおお!! ギャハハハーーーー!!」


 シンが門へと到達した時、雨が降った。



ザーーーーーーーーー!!



 チッ!

 こんな時に!

 

 望遠鏡を覗くと門番が立ち上がっていた。


「なに!? なぜだ!? 緑の斑点が消えているだと!? シ、シンの野郎も斑点がなくなっているぞ!!」


 薬を飲んでいないのに何故だ!?


 雨が降ったら急に治りやがった、まるで恵の雨じゃねぇか……。


「…………ま、まさか。この雨に薬でも入ってんのか?」


 そうとしか考えられん。


 こんなことができるのはアリアスしかいねぇ!


「あの野郎。なんか小細工しやがったなぁああ!!」


「どうするんですビッカ所長! 作戦は中止ですか!?」


 シンを野離しにしたのは厄介だぜ。


「ダメだ。シンはこの計画を知ってやがる」


「い、今から行って殺しますか!?」


「バカ! そんなことしたらジルベスタルの門番が目撃すんだろうが!」


 こうなったらコイツを使うしかねぇ。


 俺は槍を持って檻の中にいるハードアントを突き刺した。



『ギュィイイイイイイイッ!!』



 その外皮は硬く傷一つ付けれない。


「クッ! 硬てぇな」


「防御力が高いですからね。そんな槍じゃあ殺せませんよ」


「でも、傷くらいは付けれんだろうが!」


 大きな目を突き刺すと、わずかながら傷が付いて、そこから緑の血液が流れ出た。



『ギュゥイイイイイイッ!!』



 その鳴き声は周囲にこだまする。


「ま、まずいですよ! 仲間を呼びます! ハードアントが集まれば国が滅ぶと言われているんですよ!!」


「ケケケ。んじゃあ、丁度いいじゃねぇか」


「え!?」


 俺たちは馬車から馬を外して荷台を押した。


 高台から荷台を落としてそのまま坂を滑らせた。


 手負いのハードアントを乗せた荷台は、凄まじい勢いで山を下る。


 一直線でジルベスタルへと向かった。




ウインド!!」



 

 荷台に風の魔法をかけて速度アップだ。



 やがて、周囲から地響きに似た足音が聞こえ始める。



ドドドドドドドドドドドドッ!!



 それはハードアントの大群だった。


「な、なんですこれ? こんな大群が集まるなんて……。100万匹以上は集まるのでは?」


 もしかすると俺がばら撒いた病原菌が原因かも知れんな。


 菌がハードアントの生態に影響を及ぼしたんだ。


 怪我の功名ってのはこのことか。


 最高の状況になりやがった。


「ギャハハ! こりゃいいや!! これでアリアスもろともジルベスタルは壊滅だぁああ!!」


「し、しかしいいのですかな? 100万人以上いる無実の王都民が巻き添えになりましたぞ!?」


「構うもんか! バレなきゃいいんだよ!! 俺たちはたまたまここに通りかかっただけだぜ!!」


 巻き込まれたら厄介だ。


「もうジルベスタルはおしまいだ!! 全部アリアスが悪いんだぜ!! 俺様に逆らったから国が滅ぶんだ!! ギャハハハーー!!」


 俺たちは馬を走らせて国へ帰った。

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