第17話 邪悪な作戦 【ビッカside】
*アリアスが流行り病に冒されるまで数時間前。
【ビッカ視点】
俺は副団長のバラタッツとともに馬車を走らせていた。
目指すは王都ジルベスタルである。
馬車の荷台は鉄格子となっており、そこには布が掛けれていた。
「ククク。こいつさえあればアリアスは終わるぜ」
「しかし、どうやって誘き出すのです? ジルベスタルの騎士団に援護されたら厄介ですぞ?」
「作戦はバッチリさ。コイツはそのための道具さ」
俺の視線の先にはシンが眠っていた。
その体は縄で縛られて身動きが取れないでいる。
「シンをどうするのです? この作戦を知られたからには生かして返せませんよ?」
「ククク。コイツはこの前の誕生祭で、見事な花火を上げてくれたんだ。これからもっと利用してやろうという時に、退職願いを出してきやがった」
「ほう。また人手が減りますな」
「フン。簡単に辞められてたまるかってんだ。どうやらこいつは、ジルベスタルでアリアスと花火の設計をやってたみたいなんだよ。利用価値がありそうなんで薬で眠らせて連れて来たのさ」
「そうなると、シンを使って誘き出す作戦ですかな?」
「ククク。そういうことだ」
◇
そこは王都ジルベスタルが見下ろせる場所だった。
馬車を止めて望遠鏡で門番の様子を見る。
「あそこからアリアスを外に連れ出すんだ。国内だと手出しできんからな」
俺は魔法陣を描いた。
「バラタッツ。そこの壺をこの魔法陣の中央に置け」
「壺の中には何が入っているんです?」
「病原菌だよ」
「びょ、病原菌!?」
「僧侶ギルドが流行り病の特効薬を作っていただろう? その研究で使われていた病原菌を盗んで来たのさ」
シンは既に目が覚めていた。
俺のことを親の仇のように睨みつける。
「ビッカ所長! そんな病原菌をどうするつもりだ!?」
「ククク。なーーに。ちょっとだけ風の魔法に乗せてジルベスタルに届けるだけさ」
「やめろ!! そんなこと許されるもんか!!」
チッ!
うるせぇ野郎だぜ。
俺は荷台の檻に掛けられた布を取った。
バサッ!!
『ギュィイイイイイイイイッ!!』
檻の中には巨大な蟻のモンスターが入っていた。
バラタッツがアリアス殺害のために捕獲したものである。
シンは腰を抜かした。
「ヒィイイイッ!!」
「ギャハハ!! ゴチャゴチャ抜かしていると、貴様をハードアントに食わせてしまうぞ!!」
「い、一体、何をするつもりなんだ?」
「
俺の言葉に同調して、魔法陣は発光した。
壺の中に入った病原菌が風に乗ってジルベスタルへと向かう。
「ギャハハハ! これでジルベスタル風、流行り病の完成だ!! この特効薬がないと全員死んじまうぞぉおお!!」
「き、貴様ぁあ!! それでも人間かぁあああ!!」
「クフフ。俺様は優しいからな。丁度、病原菌を盗むのと同時に特効薬も盗んでいたんだ。これが欲しかったらここにアリアスを連れて来い!!」
「おおーー!! なるほど、そういうことですか。これは頭がいいですな所長!」
望遠鏡で門番を見ると、緑の斑点が現れて倒れていた。
「グフフ。さぁ、シンよ。急いでアリアスをここへ連れてくるんだ。わかってるだろうが、アリアスだけを連れてくるんだぞ! そうしたら薬をやる!!」
「クッ! ア、アリアスさんを連れて来ても何もしないと約束しろ!!」
「ああ、勿論だよ」
バーーカ。俺たちは何もしねぇよ。
このハードアントがアリアスを食い殺すんだからよ!
「クッ! とても信用できないが、薬は必要だ……」
シンはアリアスを呼びに下山を始めた。
ククク。貴様の動向は望遠鏡でじっくりと観察してやる。
ほぉら、急がないと貴様の頬にも緑の斑点が浮かんでるぜぇ。ケヘヘ。
薬を求めてアリアスとともにここに来るんだよ。
そしたら、たまたま遭遇したハードアントに襲われてしまうのさ!!
2人仲良く地獄行きだぁあああああ!!
「俺様に逆らう奴は許しちゃおけねぇんだよぉおおお!! ギャハハハーーーー!!」
シンが門へと到達した時、雨が降った。
ザーーーーーーーーー!!
チッ!
こんな時に!
望遠鏡を覗くと門番が立ち上がっていた。
「なに!? なぜだ!? 緑の斑点が消えているだと!? シ、シンの野郎も斑点がなくなっているぞ!!」
薬を飲んでいないのに何故だ!?
雨が降ったら急に治りやがった、まるで恵の雨じゃねぇか……。
「…………ま、まさか。この雨に薬でも入ってんのか?」
そうとしか考えられん。
こんなことができるのはアリアスしかいねぇ!
「あの野郎。なんか小細工しやがったなぁああ!!」
「どうするんですビッカ所長! 作戦は中止ですか!?」
シンを野離しにしたのは厄介だぜ。
「ダメだ。シンはこの計画を知ってやがる」
「い、今から行って殺しますか!?」
「バカ! そんなことしたらジルベスタルの門番が目撃すんだろうが!」
こうなったらコイツを使うしかねぇ。
俺は槍を持って檻の中にいるハードアントを突き刺した。
『ギュィイイイイイイイッ!!』
その外皮は硬く傷一つ付けれない。
「クッ! 硬てぇな」
「防御力が高いですからね。そんな槍じゃあ殺せませんよ」
「でも、傷くらいは付けれんだろうが!」
大きな目を突き刺すと、わずかながら傷が付いて、そこから緑の血液が流れ出た。
『ギュゥイイイイイイッ!!』
その鳴き声は周囲にこだまする。
「ま、まずいですよ! 仲間を呼びます! ハードアントが集まれば国が滅ぶと言われているんですよ!!」
「ケケケ。んじゃあ、丁度いいじゃねぇか」
「え!?」
俺たちは馬車から馬を外して荷台を押した。
高台から荷台を落としてそのまま坂を滑らせた。
手負いのハードアントを乗せた荷台は、凄まじい勢いで山を下る。
一直線でジルベスタルへと向かった。
「
荷台に風の魔法をかけて速度アップだ。
やがて、周囲から地響きに似た足音が聞こえ始める。
ドドドドドドドドドドドドッ!!
それはハードアントの大群だった。
「な、なんですこれ? こんな大群が集まるなんて……。100万匹以上は集まるのでは?」
もしかすると俺がばら撒いた病原菌が原因かも知れんな。
菌がハードアントの生態に影響を及ぼしたんだ。
怪我の功名ってのはこのことか。
最高の状況になりやがった。
「ギャハハ! こりゃいいや!! これでアリアスもろともジルベスタルは壊滅だぁああ!!」
「し、しかしいいのですかな? 100万人以上いる無実の王都民が巻き添えになりましたぞ!?」
「構うもんか! バレなきゃいいんだよ!! 俺たちはたまたまここに通りかかっただけだぜ!!」
巻き込まれたら厄介だ。
「もうジルベスタルはおしまいだ!! 全部アリアスが悪いんだぜ!! 俺様に逆らったから国が滅ぶんだ!! ギャハハハーー!!」
俺たちは馬を走らせて国へ帰った。
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